クルマを文化する
REAL CAR CULTURE

AUTO MESSE WEB

クルマを文化する
REAL CAR CULTURE

AUTO MESSE WEB(オートメッセウェブ)

  • TOP
  • SPORT
  • 【WEC富士6時間耐久レース】ル・マン24時間レースを制したトヨタTS050がラストシーズン!日本戦は1-2フィニッシュ
SPORT
share:

【WEC富士6時間耐久レース】ル・マン24時間レースを制したトヨタTS050がラストシーズン!日本戦は1-2フィニッシュ

投稿日:

TEXT: 原田 了(HARADA Ryo)  PHOTO: 原田了、大西靖

最高峰LMP1マシンはWEC最終シリーズ

 10月6日に富士スピードウェイで開催された世界耐久選手権(WEC)のシリーズ第2戦は、富士をホームコースとするトヨタ GAZOO レーシング(TGR)が1-2フィニッシュを飾りました。

 8号車の中嶋一貴組がポール・ツー・ウィンで、7号車の小林可夢偉組も予選2位/決勝2位とTGRの2台のハイブリッド・マシン、トヨタ TS050 HYBRIDがライバルを圧倒する速さと強さを見せつける結果となりました。

 レース後に中嶋選手は優勝会見において「TS050 HYBRIDにとって最後となる日本でのレースに勝つことができて最高です」と語っていましたが、実はこのシリーズでLMP1カテゴリーのマシンが参戦できるのは今シーズンが最後となります。

 LMP1カテゴリーに参戦するメーカーチーム、いわゆる“ワークス”はTGRのみで、他はプライベートチーム。マシンも他のチームはノンハイブリッドで、TGRと合わせてもエントリーは5台、と寂しい状況です。どうせトヨタの独り勝ちでしょ、との声も聞かれますが、それは大きな間違いでしょう。最新のハイテクで混戦を導くようなアイデアが最終シーズンの規則には仕掛けられてきているのです。

 

ワークスチームがLMP1から撤退

 WECというレースシリーズは、実は1980年代にも行われていました。王者となるポルシェ956/962Cに、国内外の自動車メーカーがオリジナルマシンを開発して挑むという図式で、グループC(自動車メーカーが独自に作り上げるスポーツカーのレーシングマシン)の王座決定戦として大きな盛り上がりを見せていたのは、古くからのファンにはお馴染みだと思います。

 しかし、レギュレーションの変遷からグループCが廃れてしまい、WEC自体も90年代には終焉を迎えることになりました。現在のWECは、ル・マン24時間レースの主催者として知られるフランスの西部自動車クラブ(ACO)が2010年から実施していたインターコンチネンタル・ル・マン・カップ(ILMC)を発展させてできたシリーズ。当然ですがル・マン24時間レースもシリーズに含まれています。というよりもル・マン24時間レースがWECの存在価値の一つという見方もあります。

 実際に、6月に行われるル・マン24時間レースをシリーズの最終戦とするため、2019-2020シーズンは9月にシルバーストンで開幕戦が行われ、今回の富士は、他のメジャーシリーズがシーズン終盤を迎える中、まだシリーズ第2戦となっているのです。

 ちなみに、2017年までは通常のシーズンでした。しかし、ル・マン24時間レースを最終戦とする今のスタイルに変更するために、2018-2019シーズンは18年の5月にベルギーのスパ-フランコルシャンで開幕し19年6月のル・マン24時間が最終戦。つまり、ル・マンは18年と19年の2回が同一のシーズンに含まれる“スーパーシーズン”となっていました。

 WECはプロトタイプカーのLMP1/LMP2とGTカーのLMGTE Pro/Amの2カテゴリー/4クラスで戦われ、その最高峰がLMP1クラス。かつては日独の4~5メーカーが参戦し、ハイブリッド技術を競い合う素晴らしいレースを展開してきましたが、16年を限りにアウディが、そして17年を限りにポルシェが活動を休止。18年からはメーカーチームはトヨタのTGRのみとなってしまいました。

 そしてメーカーチームはハイブリッドで、プライベートはノンハイブリッドで、という棲み分けは継続されましたが、両者のパフォーマンスの差は著しく、抜きつ抜かれつのレース攻防の楽しみが削がれることを危惧したACOでは様々な施策を実施してきました。

 ちなみに、今シーズン限りとなるLMP1に代わってWECでは、来シーズン=2020-2021シーズンからはハイパーカーと呼ばれる新カテゴリーが始まることになり、トヨタとアストン-マーチンの2メーカーが参戦を表明しています。

 

放電量、給油流量などの規制でラップタイムハンディ

 さて、ACOが実施した競技マシンを競いあわせようとする均衡策ですが、基本的にはハイブリッドカーを遅くし、またノンハイブリッドを速くすることで両者のパフォーマンスの均衡を図るというものでした。

 性能の均衡というと真っ先に考えられるのはウェイトハンディです。しかしハイブリッドは当初の規定からはすでに50kg以上も重くなっていて、これ以上はウェイトを載せるスペースもないとのこと。一方のノンハイブリッドも、これ以上軽くすることは物理的に不可能です。ちなみにTS050 HYBRIDからハイブリッド・システムを取り外したなら現行のノンハイブリッドよりも50kgほど軽くできますが、ノンハイブリッドは市販シャシーであることから、これまたプロトタイプの現シャシーのままレースに留まることは不可能となります。

 そこでACOとしてはハイブリッドの肝である電気の放電量を規制することになったのです。トヨタの技術者はこの放電量を“ハイブリッド・ブースト”と呼んでいますが、ターボのブースト圧でパフォーマンスを規制する例えで考えたなら、この規制もイメージし易いと思います。

 さらにエンジンの燃料流量も規制されています。また燃料補給のシステムに関しても、ハイブリッドは燃費が良い(=燃料の補給量が少なくて済む)だけでなく、燃料補給が済んだ途端に(エンジンを掛けることなく)スタートできるから、燃料補給に時間が掛かるよう、流量を規制するリストリクターのサイズも、ノンハイブリッドに対しハイブリッドは厳しくなっています。

 こうしたイニシャルの規制に加えて今シーズンからは“サクセス・ハンディキャップ”が導入されています。これはSUPER GTなどでもお馴染みのスタイルで、前戦までの結果によって速さの規制を強化するというもので、例えばシルバーストンの開幕戦で優勝したTGRの7号車は、今回の富士では+1.4秒相当の、同じく2位入賞した8号車は+1秒相当のラップタイム・ハンディキャップが課せられていました。

 というわけで、今回のレースではプライベーターでノンハイブリッドのNo.1 レベリオン R13 – ギブソンが割って入るシーンも何度か見受けられました。レース後の会見で中嶋選手と一緒に8号車をドライブしたセバスチャン・ブエミ選手とブレンドン・ハートレー選手が「次回は7号車と同ポイント(=サクセス・ハンディキャップが同じ)となるために今回以上に厳しい戦いになる」とコメント、状況を実感していました。

 

 そう今シーズンのWECでは、山下健太選手の挑戦で注目度が高まっているLMP2や、多くのメーカーチームが参戦し激戦が続いているLMGTE Proだけでなく、トップクラスのLMP1でも激戦への期待が大、なのです。

すべて表示
  • 原田 了(HARADA Ryo)
  • 原田 了(HARADA Ryo)
  • ライター。現在の愛車は、SUBARU R1、Honda GB250 クラブマン、Honda Lead 125。クルマに関わる、ありとあらゆることの探訪が趣味。1955年、岡山県倉敷市生まれ。モータースポーツ専門誌の地方通信員として高校時代にレース取材を開始。大学卒業後、就職して同誌の編集部に配属。10年間のサラリーマン生活を経て90年4月からフリーランスに。モータースポーツ関連の執筆に加え、オートキャンプからヒストリックカーイベントまで幅広く取材。現在ではAMWに、主にヒストリー関連コラムを執筆。またライフワークとなった世界中の自動車博物館歴訪を続け、様々な媒体に紹介記事を寄稿している。
著者一覧 >

 

 

 

 

 

 

ranking

RECOMMEND

MEDIA CONTENTS

WEB CONTENTS

 

 

 

 

 

 

MEDIA CONTENTS

WEB CONTENTS

ranking

AMW SPECIAL CONTENTS