「戦後で唯一のフランス製高級車」メーカーの夢と挫折! ゴージャスなデザインでセレブたちに愛されたファセル社とは (2/2ページ)

メカニズムはコンサバだが、フランス・デザインは社交界で人気に

 かつて製作していたパナール・ディナは小型の前輪駆動車でしたが、ファセルが目指していた「高級車」として相応しいメカニズムではありませんでした。それにクライスラー製のV8を搭載するという前提条件では必然的にフロントエンジンの後輪駆動(FR)という選択しかありません。こうした条件の下で最初に登場したファセルのクルマは、ファセル・ヴェガ・スポーツ(FVS)の名で1954年のパリサロンでお披露目されています。

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 シャシーは、環状のフレームに、フロントがダブルウィッシュボーン、リヤがリジッドアクスルというコンベンショナルなサスペンションを組みつけていて、それにクライスラー製のV8エンジンを搭載。パフォーマンス的には充分なものが期待されていましたが、車輌重量が初期モデルで約1800kg、マイナーチェンジを重ねた後期モデルでは2トン近くまで重くなってしまい、また4輪ドラム式のブレーキもウィークポイントに挙げられていました。

 その一方でボディデザインは高い評価を受けることになりました。発表時には2ドアクーペのみでしたが、後に2ドア・カブリオレや4ドアハードップも追加されています。4ドアハードトップはピラーレスでドアが観音開きとという珍しいパッケージでしたが、剛性的には厳しかったようです。

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 センターに縦型の大型グリルを置き、その左右に横型のサブグリルを配置したフロントビューは縦型4灯式ライト(ヘッドライトはトップの一対のみでボトムは補助ランプ)とともに充分に個性的でしたが、ダニノが広告塔となって(?)ヨーロッパの社交界では人気が急上昇することになりました。

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「戦後で唯一のフランス製高級車」との惹句も効いたのでしょうか、スターリング・モスやモーリス・トランテニアンといったF1GPでも活躍したトップドライバー、映画「お熱いのがお好き」などで知られる映画俳優のトニー・カーティス、油絵から版画、彫刻から陶器まで多作な美術家としても知られるパブロ・ピカソなどの著名人にも愛用されていました。

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 フランスの小説家であり哲学者としても知られるアルベール・カミュは、ノーベル文学賞を受賞した後に地中海にほど近い「世界一美しい村」として知られるルールマランに移住。800kmほど離れたパリにも度々往復する生活を送っていましたが、60年にフランスを代表する出版社のガリマール出版社幹部であり、また個人的にも友人だったミシェル・ガリマールとともにパリに向かう途中、交通事故に遭って即死してしまいました。その際にガリマールが運転していたのがファセル・ヴェガだったという悲しいエピソードも残っています。

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