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30秒ピットインで急速充電! お台場の公道コースを駆け抜ける王者「ニッサン」が魅せるフォーミュラEの頭脳戦【Key’s note】

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TEXT: 木下隆之(KINOSHITA Takayuki)  PHOTO: 日産自動車(NISSAN)  FACT CHECK: 山本 亨(YAMAMOTO Tohru)

2025年の王者を擁する日産がお台場へ凱旋! 第3世代のEVレースが幕を開ける

レーシングドライバーであり自動車評論家でもある木下隆之が毎週発信しているのが、人気連載コラムの「Key’s note」だ。今回のテーマは、2026年7月25日と26日に東京のお台場特設コースで開催される「ABB FIAフォーミュラE世界選手権」の日本ラウンドである。昨年の同シリーズでドライバーズタイトルを獲得した日産のエース、オリバー・ローランド選手が凱旋を果たし、さらなる注目を集めそうだ。内燃機関を持たない最先端のモータースポーツは、いったいどのような興奮を私たちにもたらしてくれるのだろうか。

最高出力350kWのモーターが瞬時に最大トルクを絞り出す

フォーミュラEはいわば「F1の電気自動車(EV)」ともいうべき存在である。パワートレーンは完全な電動で、内燃機関(エンジン)を持たず燃料を燃やすこともない。甲高い排気音もなければ、焦げたガソリンの匂いもない。だからといって、フォーミュラEを単なる静かなレースだと思ったら大間違いである。

アクセルペダルを踏み込んだ瞬間、モーターはためらいなく最大トルクを叩きつける。エンジン車のように回転が高まるのを待つ必要がない。まるで弓を引き絞る前に、すでに矢が飛び出しているような鋭いレスポンスを備えている。僕も何度かフォーミュラEを現地で観戦しているが、独特の雰囲気がいかにも近代的で興味を惹きつけられる。最高速度こそF1には及ばないものの、俊敏な動きと暴力的なまでの加速力は極めて刺激的だ。

現在の参戦車両は「GEN3 Evo(第3世代エボリューション)」と呼ばれる最新型で、最高出力は大幅に引き上げられている。通常時は出力をコントロールして後輪駆動のまま走るが、後述するアタックモードを作動させると、最高出力の350kWが解放されると同時にフロントモーターも駆動して四輪駆動(AWD)へと変化する。レースの最中に駆動方式を切り替えるなど、まさにEVならではの芸当である。0-100km/h加速は市販のスーパーカー顔負けであり、回生ブレーキによる強烈な減速力も備えている。

走行ラインを外してパワーを得るアタックモードでレースを優位に進める

ブレーキングで失われるはずの運動エネルギーを電気として回収し、それを再び加速へと変換する。つまりフォーミュラEは、ただ単に速く走るだけではなく、限られたバッテリーのエネルギーをいかに賢く使うかを競い合うモータースポーツでもある。ここが最大の面白いポイントだ。

ドライバーにはレース中、「アタックモード」の使用が義務付けられている。コース内の一箇所に、通常のレコードラインから外れた走行エリアが設けられている。あえて遠回りとなるこのラインを通過すれば一時的なタイムロスを招くものの、その代償として50kWのパワーアップが許されるのだ。

さらに「ピットブースト」と呼ばれる急速充電システムも導入されており、これも非常に興味深い。ガソリン車の給油にあたるシステムで、ピットイン時におよそ30秒という短時間で瞬間的にバッテリーをチャージする。このわずかな時間で一般の独身家庭が1日に使用する電力量を補給可能というから、とてつもない充電能力である。

F1が燃料とタイヤをどうマネジメントするかの知恵比べだとすれば、フォーミュラEは電力と回生の知恵比べと言える。ステアリングのディスプレイに表示されるバッテリー残量と睨み合いながら、いつライバルを攻めるのか、あるいはいつ電力を温存するのかを瞬時に判断する。全開で走ればタイムは伸びるが、それを続ければチェッカーフラッグまでエネルギーが持たない。ドライバーは右足の繊細なコントロールだけでなく、高度な頭脳戦も強いられているのだ。

逃げ場のないお台場の特設公道コースで王者である日産が未来の電動化技術を磨き上げる

今回の舞台は、専用のサーキットではなく公道コースである。東京ラウンドの舞台となるお台場は、普段なら観光客やビジネスマンが行き交う日常の街だ。そこに突然、強固なガードレールが組まれ、仮設の縁石が置かれ、未来のフォーミュラカーが駆け抜ける。見慣れた大都市そのものが、一夜にして非日常のサーキットへと変貌を遂げる。

公道コースはエスケープゾーン(安全地帯)が少なく、コース幅も狭い。わずかなミスが即座にコンクリートウォールへのクラッシュへ直結する。その張り詰めた緊張感が、レースの魅力をさらに濃密にしている。マシン同士の間隔は数センチ単位まで接近し、抜きどころも限られる。だからこそ、一瞬の判断ミスや一瞬の隙が勝敗を大きく左右するのだ。

2026年の東京ラウンドで注目すべきは、やはり日産自動車の存在である。日産はフォーミュラEに本格参戦する唯一の完全ワークス体制チームであり、極限のレース環境で2018/2019年の「シーズン5」から自社の電動化技術を磨き続けてきた。市販EVである日産「リーフ」や日産「アリア」で培った膨大な知見を投入する一方で、レースの世界で得られた高効率なモーター制御やエネルギーマネジメントの技術は、そのまま未来の市販車へと直接フィードバックされていく。

電気自動車のレースと聞くと、エンジン音が無いことに物足りなさを感じるクルマ好きもいるかもしれない。だが実際に目の前で観戦すれば、その印象は大きく変わるはずだ。モーター駆動ならではの鋭い加速、壁際をかすめるヒリヒリとした緊張感、そしてエネルギーマネジメントをめぐる緻密な駆け引きに、誰もが引き込まれるだろう。

静かに見えて、その内側は熱い。クリーンなイメージに反して、バトルは激しい。スマートに見えて、実は泥臭い。そこがフォーミュラEの最大の魅力だ。日常の象徴であるお台場の街並みが完全に封鎖され、モーターの唸りがビル群に反響する非日常空間へと変わる2日間こそが、平日のしがらみを忘れさせてくれる至高のエンターテインメントとなる。チャンピオンゼッケン①を背負っての日産の凱旋、ディフェンディングチャンピオンであるオリバー・ローランド選手の走り、そして大都市を駆け抜ける未来のモータースポーツの熱狂を、ぜひ現地で体感してほしい。

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  • 木下隆之(KINOSHITA Takayuki)
  • 木下隆之(KINOSHITA Takayuki)
  • 1960年5月5日生まれ。明治学院大学経済学部卒業。体育会自動車部主将。日本学生チャンピオン。出版社編集部勤務後にレーシングドライバー、シャーナリストに転身。日産、トヨタ、三菱のメーカー契約。全日本、欧州のレースでシリーズチャンピオンを獲得。スーパー耐久史上最多勝利数記録を更新中。伝統的なニュルブルクリンク24時間レースには日本人最多出場、最速タイム、最高位を保持。2018年はブランパンGTアジアシリーズに参戦。シリーズチャンピオン獲得。レクサスブランドアドバイザー。現在はトーヨータイヤのアンバサダーに就任。レース活動と並行して、積極的にマスコミへの出演、執筆活動をこなす。テレビ出演の他、自動車雑誌および一般男性誌に多数執筆。数誌に連載レギュラーページを持つ。日本カーオブザイヤー選考委員。日本モータージャーナリスト協会所属。日本ボートオブザイヤー選考委員。
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  • 山本 亨(YAMAMOTO Tohru)
  • 山本 亨(YAMAMOTO Tohru)
  • 1960 年生まれ 大学卒業後ベストカーガイド編集部勤務。1990年オートスポーツ誌に転職、1992年F1速報誌(アズエフ)編集長。1995年月刊ビデオマガジン編集部に転職、1996年ベストモータリング編集長(のち局長兼務)。2005年ネコパブリッシング・イベント本部長/4輪編集局長兼務。2015年交通タイムス社に転籍、2020年より現職(総編集局長)自動車の分野に問わずオールマイティだが、特に旧いモータースポーツとクラシックカーに造詣が深い。愛車は1969年DATSUN Fairlady SRL311/YAMAHA RD250ほか

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