コスト低減と確かな制動力を両立するブレーキパッド&ローター選びとは

コスト低減と確かな制動力を両立するブレーキパッド&ローター選びとは

ブレーキの効き具合からダストの汚れまで
市街地走行が中心ならストリート用がベスト

ブレーキパッドやブレーキローターは、実は用途に応じてタイプを選ぶことが重要。
価格の高いハイスペックモデルがすべてのシーンで満足できるわけではなく、ストリートしか走行しないなら価格の安いベーシックモデルでも必要にして十分な制動力を発揮できる。
さらにホイールがブレーキダストで汚れにくくなるなど、そのほかのメリットもある。使用目的に合わせたブレーキパーツ選びをすることで無駄な出費を抑制できるのだ。ブレーキ

サーキット走行をするのにエコタイヤは選ばないだろうし、ストリートしか走らないミニバンにハイグリップタイヤを装着することはないだろう。
多くの人は、愛車のキャラクターや走るステージに合わせたタイヤ選びをしているはずだ。

しかし、ブレーキ系パーツは意外にも無頓着な選び方をされているのも事実。
じつはブレーキ系パーツもタイヤと同じようにスポーツ用とかストリート用といったタイプがある。ブレーキ

スポーツ走行用ブレーキパーツは、サーキット走行などでも高い速度からでも安定した制動を実現できるように設計された高性能タイプだ。
しかし、ほとんど市街地しか走らないクルマに、このスポーツ走行用ブレーキパーツを装着すると、じつはブレーキが効きにくくてヒヤッとすることが起きてしまうことも。ブレーキ

「高性能なスポーツ走行用ブレーキなのになぜ?」と思うかもしれない。

その理由は、スポーツ走行用のブレーキパーツは、サーキットなどで連続走行によってブレーキローターやパッドが高温になったときに安定して制動力を発揮できるように設計されているため、市街地走行のように低速でブレーキがすぐに冷えるような状況ではその性能が発揮できないからだ。

ブレーキ

その逆にサーキットなどスポーツ走行やワインディングロードを速いペースで走る人がストリート用のブレーキパーツを装着してしまうと、設計値より高温になって制動力が著しく低下してしまう。いわゆるフェード(ローター表面にガスの皮膜が形成されて効きが落ちること)といった症状だ。
さらにブレーキまわりの温度が高まれば、ブレーキフルードに熱が伝達して沸点を超えてブレーキホース内に気泡が発生(ベーパーロック現象)。十分な制動力を発揮できなくなる。

100km/hからの急制動エネルギーで
0℃の水を沸騰させることができる

そもそもブレーキは、運動エネルギーをブレーキパッドとブレーキローターを摩擦させ熱エネルギーに変換。大気放出することでクルマを減速させる。
ちなみに100km/hで走行するクルマを1回の急ブレーキで止まるために変換する熱エネルギーは、0℃の2リットルの水を沸騰させるくらいのエネルギー量になるというから驚きだ。ブレーキ

「ブレーキにとって厳しいのは、じつはミニサーキットやワインディングロードです。それは、ブレーキを使用する頻度が高いのに、富士スピードウェイのような長い直線をもつサーキットに比べてブレーキを冷却する時間が短いからです。一方、市街地走行は速度が低いのでパッドとローターの温度は逆にあまり上りません。さらに、ブレーキを使っている時間も少ないので、すぐに冷えてしまいます」とブレーキパーツメーカー「ディクセル」の金谷大輔氏は語る。

ブレーキパッドひとつ取り上げても、ストリート用とサーキット走行を想定したタイプでは、適正温度だけでなく、ブレーキダスト(ローター攻撃性)の量も異なっている。
「ストリート用のブレーキパッドは、制動力はノーマル以上を確保しつつダストを低減する素材を採用することでホイールの汚れを抑制できます。じつはブレーキダストはローターの削りカスなんです。つまり低ダストタイプは、ローター攻撃性が低いわけです。一方、スポーツ走行用ブレーキパッドには、制動力や耐熱性を高めるためにメタル素材を採用しているため、ローターへの攻撃性が高くなりダスト量が増えてしまいます」と金谷氏。

ブレーキパッド

同社のブレーキパッドのラインアップで、『EC』『Premium』『Mタイプ』は、適正温度が「0〜500(ECは450)℃」と高温側が後述のスポーツ走行用に比べると低くなっている。とはいえ、ストリートでは十分な温度域で、市街地走行などの低温域から十分な制動力を発揮できるようになっている。しかも、ローターへの攻撃性が少ない素材を採用しているためブレーキダストの量も少ない。

ブレーキダストがアルミホイールに付着してクリア層まで侵食してしまうと、いくら磨いてもキレイにはならない。そのようにホイールの汚れ(腐食)防止のためにもストリート用を選ぶメリットはあるだろう。ブレーキ

スポーツ走行用ブレーキパッド『Zタイプ』や『ESタイプ』の適正温度は「0℃〜850(ESは600)℃」とストリートで使用することも前提に設計されている。
とはいえ、ブレーキパッドの温度が上昇するサーキットでの連続走行も耐えられるように設定しているので、本来の制動性能を安定して発揮できる温度は高めになっているのだ。ディクセル

軽く踏んで効くと制動性能は別モノ
ブレーキはコントロール性が重要

純正のブレーキパッドは、幅広い層のドライバー(踏力の弱い女性やお年寄りまで)に対応するため、軽くブレーキペダルを踏んだだけでも高い制動力を発揮するような設定になっている。
そのような理由から、いわゆるカックンブレーキになりやすく、コントロール性(ペダル踏力に対する制動力の応答性)が低く、扱いにくさを感じるユーザーも多い。
アフターパーツのブレーキパッドはコントロール性を重視しているため、純正ブレーキパッドと同じ力加減でブレーキペダルを踏んでも制動力は高まらないので「ブレーキの効きが悪い」と感じるユーザーもいる。
もちろん、一般的なアフターパーツのブレーキパッドは、絶対的な制動性能(フルブレーキング時)は純正以上を確保しているが、過渡特性が純正ブレーキパッドとは異なっているのだ。ブレーキ

本来ブレーキパッドの特性としては、ブレーキペダルの踏み込み量に応じて制動力が高まるのが正解。モータースポーツではブレーキでクルマの荷重をコントロールするので、ペダル踏み込み量以上に効いてしまうようなブレーキは嫌われる。
もちろん、ストリートでもコントロール性は重要だ。
軽く減速したいのに必要以上にスピードが落ちてしまうとか、ブレーキペダルを戻しても効きを弱めたいのに変化しない、といった特性では運転しにくくなってしまう。

急激なローター温度変化が歪みを発生させる

そして意外と見落とされがちになるのがブレーキローターのタイプだ。
ブレーキパッドと同じように使用する素材などで耐熱温度などが異なり、ストリート用でサーキットを連続走行すると、高温になったことが原因でクラック(ヒビ)が入ってしまったり、歪んでしまうことがある。
もし、ローターが歪んでしまうと、見た目では大きな変化はないが、ブレーキキングしたときにペダル(ときには車体にも)に不快な振動が伝わってくる。ブレーキ

「ブレーキローターからの振動の原因となる歪みは、急激な温度の上昇/下降を繰り返すことによる変形です。ストリート用とスポーツ走行用では、使用する素材の耐熱性の違いといえるでしょう。スポーツ走行用は、600℃以上になったとき歪みにくいハイスペックな材質を使っています。さらに熱処理を施すなどの対策もして耐久性を高めています。逆に市街地や高速道路の走行をメインとするユーザーなら、そんなに高い温度域の性能は必要ないのでストリート用で十分です。それでも純正と同様に600℃までは耐えられるような設計を施しています」と金谷氏は言う。ブレーキ

しかし、どんなブレーキローターでも新品時に急ブレーキをかけると歪みが発生する危険は高まる。
前述したようにクルマを止めるために必要とするエネルギー量は高く、急ブレーキ時にはローター温度が一気に高まるからだ。
また、急ブレーキをしたことで、ローターの一部に熱が入るヒートスポットやパッドの摩材が均等に付着しない(一部に多く付着)といったことも起きる。それもローターの振動(ジャダー)の原因となる。ブレーキ

もちろん、ローターを交換してから300〜1000kmを走行すれば、徐々に熱が入るので温度変化に対して歪みが発生する危険度は減る。いわゆる熱入れなのだが、ブレーキペダルを踏みながら走行するなどで無理矢理熱入れするのは御法度。
あくまでも普通に走行してゆっくりと熱を入れる「ナラシ運転」をすることで、歪みにくいブレーキローターに仕上げることができるのだ。ブレーキ

ブレーキは命を守る大切な制動装置ではあるが、必ずしも高価なスポーツタイプがベストチョイスと言い切れないのはご理解いただけたと思う。
愛車を走らせるステージに合わせた製品を選ぶことは、コスト抑制と扱い安さと安全性を両立することができるわけだ。

取材協力:ディクセル http://www.dixcel.co.jp/


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