中国はなぜ電動車の普及を急いでいるのか? 自動車メーカーに課す無理難題な規制とは

中国はなぜ電動車の普及を急いでいるのか? 自動車メーカーに課す無理難題な規制とは

巨大クルマ市場に導入されたNEV規制

 NEVはニュー・エナジー・ビークルの略。中国では新能源車と呼ぶ。中国政府は2018年に「年間1万台以上を生産・販売する自動車メーカーまたは輸入業者は、一定台数のNEVを販売しなければならない」という規制を導入した。それから1年半、どんな動きがみられるのだろう。

中国では自動車メーカー/販売店はニュー・エナジー・ビークル(NEV)を年間総生産・販売台数の10%としなけれなならない規制がある

 NEVには3タイプある。車載バッテリーに充電して走るBEV(バッテリー電気自動車)。外部充電によってBEV同様に走り、電池がなくなったらエンジンで走りながら充電もできるPHEV(プラグイン・ハイブリッド車)。水素で走るFCEV(燃料電池電気自動車)。今のところこの3タイプだけだ。つまり電動車を普及させることがNEV規制のねらいである。中国ではNEVカーのナンバーは緑色である。

 

全生産台数の10%をNEVに

 では、自動車メーカーや輸入元はどれくらいの数のNEVを売らなければならないのだろうか。導入した2018年は「様子見」の年であり、とりあえず規制をスタートしましたというだけだったが、2019年は全生産(輸入)台数の10%をNEVにしなければならない。10%に届かないとペナルティーが課せられることになった。また、この目標は2020年には12%になり、2021年は14%の予定。必達目標である。

中国では自動車メーカー/販売店はニュー・エナジー・ビークル(NEV)を年間総生産・販売台数の10%としなけれなならない規制がある

 もうひとつ、中国にはCAFC規制がある。CAFCはコーポレート・アベレージ・フューエル・コンサンプション=企業別平均燃費の意味だ。日米欧ではCAFE(最後のEはエフィシェンシー=効率)と呼ばれる。車種ごとのモード燃費に販売台数を掛けた総合計の燃費が燃料5L/100km(日本式に表示すると20km/L)以上でないと、燃費の悪いクルマから順に製造販売許可が取り消しになるというものだ。

 NEV規制で電動車両の販売台数を「これ以上にしなさい」と定め、CAFC規制でメーカーごとの平均燃費を規制する。つまり二重規制を中国は敷いている。しかもNEV規制とCAFC規制は連動しているのだ。

 中国政府は、通常のガソリン/ディーゼルエンジン車を「伝統的車両」と呼び、これを1台販売するごとに「マイナス1」のクレジットを課す。1万台を販売すれば「マイナス1万」のクレジットが貯まる。一方、NEVを販売するとプラス1〜5のクレジットが与えられる。伝統的車両を売って貯まったマイナスをNEVで取り返し、最終的にクレジットが「ゼロ」になればペナルティは課せられない、といった施策だ。

 NEV規制は少しずつ厳しくなっている。NEV販売比率目標は現在の10%から2年後には14%になる。BEVを販売すると最大5クレジットだったものが2020年には最大3.4に引き下げられる予定であるほか、2020年末でNEVへの補助金が廃止される。中国の自動車業界では、国営自動車メーカーも「NEV規制は無理難題」と言っているほどだ。

 

電動車で自動車強国へ向かう中国

 なぜ、中国政府はここまで電動車両の普及を急ぐのか。最大の理由は「自動車強国」になることだろう。エンジン車ではどう頑張っても日米欧には追い付けないが、電動車なら可能性がある。国営北京汽車のNEV専門会社として北汽新能源なども生まれ育っている。

中国では自動車メーカー/販売店はニュー・エナジー・ビークル(NEV)を年間総生産・販売台数の10%としなけれなならない規制がある

 また中国政府は、外資系自動車関連企業が中国のNEV規制に対応するため、中国に部品や車両の工場を建てやすいように規制緩和した。フォルクスワーゲンは電動車専用工場を建て、テスラは同社初の中国工場を稼働させるなど、動きはもう現れている。

 同時に中国政府は、電動車に欠かせないリチウムイオン2次電池の生産量と価格相場を牛耳るため、電池への投資を促し大手企業を育てた。トヨタも契約を結んだ中国の巨大電池メーカーCATLやBYDは世界的大手に成長。BYDはダイムラーと共同で電気自動車DENZAの市販モデルを出してもいるほどだ。中国では自動車メーカー/販売店はニュー・エナジー・ビークル(NEV)を年間総生産・販売台数の10%としなけれなならない規制がある

 さらにBEVスタートアップ(新興)企業の設立を促した。世界的にも有名になったNIOやBYTONがそれだ。例えばNIOの目指しているBEVのスーパーカーEP9、 頭脳は海外で資本は中国というBYTON、コンセプトカーもSUVとして注目されている。

中国では自動車メーカー/販売店はニュー・エナジー・ビークル(NEV)を年間総生産・販売台数の10%としなけれなならない規制がある

 しかし、企業が乱立すると効率が悪い。そこで中国政府は、2次電池とBEVの企業淘汰を画策し、有力大企業だけを残すことにしたのだろう。2019年10月の時点では、この2次電池とBEVスタートアップ企業の業界再編が進められている状況だ。

 ただ、今のところ一般市民はNEVをあまり買っていない。同じクラスのガソリン車より値段が高いためだ。NEV販売台数の半分は自動車業界の中で、会社としての使用車を先立たせる方向で消費されていると思われる。2018年のNEV販売台数は125万台だったが、その大半は自動車メーカー、部品目メーカー、販売会社、官公庁が購入したということだろう。ちなみに中国国内での全販売台数2808万台のうちの125万台は、わずか4.45%である。中国では自動車メーカー/販売店はニュー・エナジー・ビークル(NEV)を年間総生産・販売台数の10%としなけれなならない規制がある

 しかも、2018年夏に始まった米中貿易戦争のおかげで国内経済が停滞し、自動車販売台数が減った。NEV販売台数は7〜9月の3か月連続で昨年を下回った。一部の都市では昨年に比べNEVが多く見受けられるのは確かだが、日本で報道されているような「中国でBEVが売れまくっている」状況ではない。中国政府は、プリウスのようなハイブリッド車を優遇するかどうか、いま検討を行っている最中である。

 


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