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ポルシェまで電動化を進めるのはナゼ?厳しさを増す欧州CO2排出規制値のゆくえ

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TEXT: 牧野茂雄  PHOTO: ポルシェ、フォルクワーゲンジャパン、Auto Messe Web編集部

性能追求をしつつ本音は億単位の罰金回避策

 ここのところスポーツカーも続々と電動化したモデルが披露されてきた。アメリカではフォード・マスタングMACH-E、ドイツはポルシェ・タイカン、BMWはフラッグシップのi8ロードスター…。これには世界のクルマ業界が抱えている環境問題、地球温暖化の要因であるC02削減の目的があるのは承知されている。各地域で立ち上げているCO2排出規制の数値が、自動車メーカーにとっては販売総台数に左右される重大な数値であるため、規制をクリアするためにメーカーごとに対策がなされている。どんな動きであるのか、ポルシェの動きを介して、スポーツカー電動化の動向に起因しているものを見ていこう。

 

 ポルシェは2025年までに市販モデルの50%を「電動車両」にすると公言している。想定している電動車は3タイプある。

 まずはBEV(バッテリー・エレクトリック・ビークル)、つまり純電気自動車。そしてHEV(ハイブリッド・エレクトリック・ビークル)、エンジンと電動モーターによる複合パワートレーンを持つクルマ、いわゆるハイブリッド車。それとPHEV(プラグイン・ハイブリッド・エレクトリック・ビークル)、外部からの充電(プラグイン)によって一定距離をBEVとして走行でき、バッテリーが空になる前にエンジンを始動しエンジン走行しながら充電できるクルマ。

 すでに発売されているパナメーラのPHEV「パナメーラ4E-ハイブリッド」について、あるブレーキメーカーのエンジニア氏はこう言った。

「回生ブレーキの使い方は非常に興味深い。ギリギリまで回生し、普通なら熱エネルギーとして放出されてしまう車両の運動ネエルギーをできるだけ電力に変えてバッテリーに貯めている。これは燃費のためと言うよりは『いつでも電動モーターの駆動力を使えるように』という、走りのための回生だろう。いままでの回生ブレーキには見られなかったタイプの制御だ」

 パナメーラのPHEVは単なる環境志向ではなく、「走り」のために電動モーターの瞬発力を活かす。そのためにブレーキ回生を目一杯欲張った。電動モーターのトルクを利用し、エンジンは排気量を減らす。車両総重量の点では電動モーターとバッテリーは重量増加の要因になるが、「回転を始めた直後に最大トルクを発生する」という電動モーターのメリットを利用して「走りで我慢しない電動車を作る」ことができる。

 そもそもPHEVというカテゴリーは、EU(欧州連合)では優遇されている。バッテリーに貯めた電力だけで50kmを走行できればCO2(二酸化炭素)排出は2分の1、75kmを走行できれば3分の1になる。パナメーラ4E-ハイブリッドはCO2排出がわずか56グラム/kmである。そしてBEVはCO2排出がすべてゼロだ。

PHVが優遇されるヨーロッパのCO2排出規制

 いま、EUでは2020年の目標値としてCO2排出95グラム/kmという規制が実施されている。これはCAFE(コーポレート・アベレージ・フューエル・エフィシェンシー)、つまり企業別平均燃費であり、自動車メーカーは「モデルごとのCO2排出値×販売台数」の総合計から企業としての「1台当たりCO2排出量」の平均値を計算し、それが95グラム/kmを下回っていないと罰金を支払わなければならない。それも販売台数トップレベルのVWレベルでは2000億円以上にものぼるといわれるほど。

 パナメーラ4E–ハイブリッドの56グラム/kmは、プリウスEU仕様の92グラム/kmよりはるかにCO2排出が少ない。しかし、これは排出の実態ではなく、あくまでNEDC(ニュー・ヨーロピアン・ドライビング・サイクル)という測定モードでの数値にPHEV優遇の計算式を用いた数字である。EUではプリウスのようなHEVにはPHEVのような「割引き」制度がなく、その点では不利である。

 いま、欧州メーカーがPHEVの開発を加速させ、その発売を急いでいる理由は、この割引き制度にある。とくに燃費の点でセダン系よりも不利なSUVや重量級セダンをPHEVにすれば、CO2排出で圧倒的に有利になる。パナメーラの例はこれを物語っているわけだ。

 そして前述のようにBEVはさらに有利だ。航続距離を延ばすためには大量のバッテリーを積む必要があるが、内燃機関エンジンを積まないBEVはすべてCO2排出ゼロ。このメリットを活かしていま、スポーツカーメーカーはBEV開発を進めている。

 計算してみた。CO2排出180グラム/kmという大排気量高出力エンジンを積むスポーツカーを得意とする自動車メーカーが現在、年間1万台を販売していたとしよう。このうち30%に当たる3000台をBEVに切り替える。同時に30%をバッテリー走行距離75kmのPHEVに切り替えて3分の1割引きを受ける。すると、このメーカーのCAFE値計算での1台当たりCO2排出量は(0グラム×3000台+60グラム×3000台+180グラム×4000台)÷1万台=90グラムになる。2020年EU規制である1台あたりのCO2排出量95グラム/kmは見事クリアだ。

 ちなみに95グラム/kmというCO2排出量はNEDC燃費モードに換算すると24km/Lである。日本の燃費モードであるJC08に対しNEDCは最高時速120kmという高速走行での燃費も含まれており、そのぶん測定モードとしてはJC08より厳しい。

 そしてEUはすでに、NEDCに代わる新モードとしてWLTC(ワールドハーモナイズド・ライトビークル・テスト・サイクル=国際的に協調された軽量車のための試験サイクル)の採用を決めている。WLTPは日本、欧州、インドなどが作成に携わった、さらに高速走行での燃費が加わった国際モードであるが、日本は近い将来にWLTPを採用する前に、交通現状によりあっているWLTCを使い始めている。

 現在、EUで話し合われている「次世代のCO2排出規制」は、WLTCを使う。まだ内定段階だが、2030年規制案は60グラム/kmと極めて厳しい。2020年規制はNEDC基準だが、2030年規制はWLTC基準になる。60グラム/kmはプリウスでも達成できない。

 しかし、すでにPHEV各モデルは60グラム/kmをクリアしている。以下のモデルはすべてNEDC基準だが、前述のポルシェ・パナメーラ4E-ハイブリッドは56グラム/km、メルセデス・ベンツE300eとボルボXC60PHEVは49グラム/km、VWパサートPHEVは37グラム/kmだ。プリウスPHEVはなんと22グラム/kmである。

 これらのメーカーが一定割合でBEVを販売し、PHEVのラインナップを拡大すれば、もしEU規制が60グラム/kmになったとしても、モデルミックスを変えれば対応できる。だからBEVとPHEVの開発が活発化しているのだ。

 

BEV優遇に異議を唱えたVW

 ただし、EUでは「本当にBEVはCO2ゼロなのか」という議論が巻き起こりつつある。BEV優遇に異議を唱えたのはVWである。「火力発電は発電段階でCO2を排出する。LCA(ライフ・サイクル・アナリシス)の観点から言えば、BEVには発電方法に応じたCO2排出量を明記すべき」との問題を提起したのだ。

 環境優等生のドイツでも、褐炭火力、石炭火力、CNG(圧縮天然ガス)火力の合計は総発電量の40%を超える。ドイツが再生可能エネルギーだけですべての電力需要を賄えるようになるまでには、短くてもあと20年かかると言われる。

 EUでは2023年に「将来の規制を60グラム/kmにするかどうか」の検証を行う予定だ。ここに向けてVWは問題提起を行った。EU委員会がどのような判断を下すかによって、電動車比率は大きく動くことになるだろう。

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