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公道を走れるレーシングマシン! アスリートも納得する唯一無二の“激辛系”

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TEXT: AMW 米澤 徹(YONEZAWA Toru)  PHOTO: Auto Messe Web編集部 米澤 徹

知る人ぞ知るイギリスのスーパースポーツカー

 見た目はル・マン24時間レースを闘うプロトタイプのレーシングマシンそのもの。「ほとんどの人にまず車名を尋ねられます」。そう楽しそうに語るのはオーナーの北川陽介さん(36歳)。「クルマ」と呼ぶにははばかられるほどレーシーなオーラを放つ北川さんの愛車は“アルティマMkIII”。

 購入の経緯は、以前所有していた996型ポルシェ911GT3の購入の際に面倒をみてもらった、埼玉県草加市の畑野自動車の社長からの1通のメールがきっかけだったという。「北川さんが大好きなノーブル(イギリスのスポーツカーメーカー)がかかわったクルマが入庫したから一度乗りに来ない?」と。

熟練の職人が組み上げた
3.5リッターV8をミッドシップ

“アルティマ”は1983年にリー・ノーブルによって創設されたNOBLE MOTOR SPORT LIMITEDが開発するブランド。MkIIIは1985年から92年までに13台のみ製作されたレアモデル。そのうち2台は、(マクラーレン社のスーパースポーツカー)“マクラーレンF1”を開発する際のベースモデルとして使用されたため、現存するのは多くても11台だといわれている。

 スチール製のパイプフレームをもち、約300馬力を発生するローバー製3.5リッターV8エンジンを車体中央に搭載。そのエンジンは熟練の職人による手組みで、ヘッドカバーには問い合わせ先の電話番号も刻印されている。エアコンやパワステ、ラジオといった快適装備はいっさい省かれ、走りに徹したコクピットもまたレーシングマシンそのものだ。

「ガレージで保管していますが、ホコリが被るのがイヤで。とりあえず、愛車の写真を添付してイギリスのアルティマ社にボディカバーの有無を直接メールで問い合わせてみたんです」と北川さん。
 すると先方から「あなたのクルマはプロトタイプ(試作モデル)のMkIIIだから既製品は使えません」という驚きの返信が!

 ちなみに、MkIIIは日本国内には北川さんが所有している個体1台しか存在しないという。
「何から何まで知らないことばかりで、いまでも新しい発見の連続です」。

 これほどの希少なモデルともなると、維持していくうえで部品の供給が不安だが、日頃のメンテナンスも請け負う畑野社長いわく、「当初は心配でしたが、部品形状を見た時にTVR(イギリスのスポーツカーメーカー)とほとんど同じ部品を使っていることがわかりました。修理などで困ることはないですね」。

 そんなこともあってか、北川さんは所有しているだけでは飽き足らず、サーキット走行会やレースのほか、ヒルクライムレース=登坂競技にエントリーしてクラス優勝を飾るなど、畑野自動車のサポートを受けながら、アルティマ本来のパフォーマンスを存分に楽しんでいる。

 トランスミッションは“G50”と呼ばれるポルシェ911(1987年以降モデル)と共通のHパターンの5速マニュアルトランスミッションを搭載するが、「難しいのは、まったくシフトのストロークがないことです。とくに1速と3速の間隔が5mm程度なので、3速から2速のシフトダウンで左下のリバースギアに入れ間違いそうになることも。対策としてワンオフステー(一定の角度で保持するための金具)をつくってもらいました。できるだけオリジナルの状態を保ちながら、運転しやすくするための最小限のモディファイを加えています」。

安楽なスポーツカーと一線画す
不便さ、スパルタンさ

 もちろん、ほかにも日常的に使うクルマを所有しているというが、この“実用性”などという言葉とは無縁のクルマの購入にあたっては一家の財布の紐を握る奥様の反応も気になるところ。

「購入前に妻を助手席に乗せて3回ほどプレゼンテーションしました。『このチャンスを逃したら二度と手に入らないんだ!』と説得して。妻もクルマが大好きですから、とくに抵抗はありませんでした」。

 さぞ大変な苦労をして走っているのだろうと思いきや…「そうでもないですよ」と涼しい顔の北川さん。

「どこに行っても注目されることを除けば街中も普通に走れます。数少ない欠点をあげるとすれば、カウルに覆われているためリヤウインドがなく、高速道路の合流でサイドミラーにしか頼れないことと、コクピットが猛烈に暑くなることです。シートの真後ろがエンジンなので、とくに夏場はカチカチ山のタヌキにでもなった気分です(笑)」

 それにしても、このレーシングマシン然としたアルティマに惚れ込む北川さんとはいったいどんな人物なのか?

 学生時代はボクシングにのめり込んでいたという北川さん。「昔からフェアなスポーツが好きで。体重別でクラス分けされたボクシングは公平性が高く、自分に向いていると思ってずっと続けていました。真剣に取り組み、23歳の時にはプロテストを受けられるレベルまで上達しました」。

 ところが、同時期にちょうど仕事が忙しくなり、それまでのトレーニングを継続することが難しくなってしまった。最近になって、ようやく多少落ち着いたため再開しようとしたものの、ボクシングのリングに上がれる年齢制限はとっくに過ぎていた。

 そんな時に出会ったのがフランスの国技・サバット(キックボクシングに似た格闘技)だった。北川さんはここでも才能を発揮。現在、日本国内ではメダルを獲るほどの実力者として知られる。

 取材を終えて、アルティマのドライビングシートに座らせていただいた。怠惰な生活で緩みっぱなしの身体は、窮屈なバケットシートにねじ込むのもひと苦労。岩のように重たいクラッチペダルを踏み込もうとしたら、今度は足が痙る始末だ。

 なるほど。アルティマMkIIIに付いているナンバープレートはオマケのようなもの。本質はストイックに身体とメンタルを鍛え上げたアスリートだけがステアリングを握ることを許されるリアルレーシングスポーツカー。

 まさに、北川さんとアルティマMkIIIはこれ以上ないカップリングということだ。

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  • AMW 米澤 徹(YONEZAWA Toru)
  • AMW 米澤 徹(YONEZAWA Toru)
  • 1991年生まれの秋田県出身。15歳のときに上京し勉学に勤しむも、高校生時代から東京都内をカメラ片手に自転車に乗って、神出鬼没、車屋巡りをする日々を送る。社会人になり、その時に出入りしていた趣味系自動車雑誌の元編集局長に呼ばれ、交通タイムス社に入社、現在に至る。イタリア車が趣味の中核ではあるものの、クルマに関連する本やミニカーを集めまくる根っからの収集癖おさまらず……。古書書籍、ミニカー、これらの山の中で生活を続けている編集者。
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