乗り比べてわかった“S”のスゴさ
まずはA110にてコースイン。相変わらず軽いフロントノーズのクイックな動きが気持ちよく、ややロールを伴うものの快適なサスペンションはロードホールディングに優れコーナリング限界が高い。この好フィールをA110Sはさらに高めることができるのだろうか、と疑問に思えるほどだ。
ピットでA110Sに乗り換える。そしてすぐさまコースイン。最初の1コーナーですぐにSの性能向上がわかった。まずステアリングの遊び感が皆無になり、ダイレクトかつ正確なステアリングプレシージョン特性を感じ取れた。タイヤサイズがアップしたことでサスペンション剛性やステアリング剛性はどうかと思ったが、見事にマッチングされている。
いや、むしろエンジニアリング的には本来Sの仕様を設定したかったのではないかと勘ぐった。テストドライバーであるロラン・ウルゴン氏がセッティングを担当したとあってレーシングドライバー好みの特性になったといえるのだ。
ステアリングのドライビングモードでスポーツを選択し、よりサーキットに適したモードとするとエンジンサウンドやDCTの変速制御が切り替わり速さを増す。1コーナー、1ヘアピン、ダンロップコーナーと旋回スピードの高さはレーシングカーでしか到達できないほどの速さで軽快だ。
一方約400mのバックストレートでは自動シフトで185km/hまで到達する。日産GT-Rなどハイパワー車は200km/hを軽くオーバーし、全長約2kmのコースの筑波サーキットで1分を切るラップタイムを可能にしているが、A110Sの直線スピードだと1分を切るのは難しそうだ。しかし、タイトコーナーの速さは直線の遅れを補っても余りある。
A110もA110SもリアアクスルにLSD(リミテッドスリップデファレンシャル)機構を持っていないので、高速コーナーでは十分なトラクションを確保できない弱さもある。さらに200km/hに迫る速度に達せるなら空力パーツの装着も不可欠になってくるだろう。そうしたチューニングよりワインディングをより軽快で意のままに楽しみながらコーナリングすることを主題に、サーキットでも楽しめる特性を目指したのがA110Sだと言えるのだった。
メーカー公表値として0-100km/h加速は4.4秒でコンマ1秒向上し、最高速度も250km/hから260km/hへと高まっている。899万円という価格設定はチューニングの内容から見たらバーゲンプライスといえるだろう。A110Sの乗り味を知ったら、もうオリジナルのA110には戻れそうにない。それほどA110Sへの進化は大きかった。