自動車のデザイン工房「カロッツェリア」とは
クルマに興味のある人なら、イタリアに「カロッツェリア」と呼ばれるデザイン工房が存在することはよくご存じだろう。ファションデザインでいうプレタポルテ、場合によってはオートクチュールに相当するプレミアムデザインを手掛けるデザイン会社である。
その発端は、中世の馬車工房にさかのぼり、カロッツァとして創業を始めているが、近代を迎え自動車が実用化されると、自動車のボディワークに関する製作、修理を担当する企業としてカロッツェリアと名を代え、その後デザイン工房の性格を強めながら現在に至っている。
自動車の商品価値を決める大きなカギとなるボディデザインは、通常自動車メーカー内のデザイン部門が開発を進め、具体化する手法が広く普及しているが、付加価値の高い車両には、それに見合ったプレミアムデザインが必要不可欠という判断から、一時期、外部デザイン企業となるカロッツェリアにデザイン開発の業務を委託、発注する手順が一種のトレンドとなっていた。
おもしろいのは、自動車先進地域のヨーロッパであってもドイツやフランスではなく、イタリアだったということだ。考えてみればイタリアは、歴史的に造形に対する関わりが深く、馬車工房の時代から、自然派生的にイタリアで成長、発展してきた職種と見てよいのだろう。
残念ながら、現在も第一線で活躍を続けているカロッツェリアはそれほど多くなく、自動車業界が再編を繰り返す荒波の中で、吸収されたり企業としての活動を終えたケースも少なくない。ここでは、名前の知られたカロッツェリアをいくつか紹介し関連するクルマを振り返ることにしよう。
ピニンファリーナ
まず、最も知名度が高いと思われるカロッツェリアがピニンファリーナだろう。歴代フェラーリのデザイン担当としても知られる同社は、創業1930年と、イタリアン・カロッツェリアのなかではそれほど古くない。同社とフェラーリ社との付き合いは、戦後エンツォ・フェラーリがマラネロでフェラーリ社を立ち上げてからのことで、2代目社長となるセルジオ・ファリーナが、エンツォと懇意になったことで現在まで続く関係が築かれた。
日本メーカーとはそれほど結び付きはなく、日産が1963年に発表した2代目ブルーバード(410型)が、同社の手掛けたデザインとして知られている。
また、日本人デザイナー奥山清行氏(ケン・オクヤマ)が、チーフデザイナー(1998〜2006年)を務め、手腕を振るったことでも知られている。
ベルトーネ
日本に馴染みが深いカロッツェリアといえば、ベルトーネの名を挙げることができるだろう。創業はジョバンニ・ベルトーネによって1912年とピニンファリーナより古い。戦後、2代目経営者のヌッチオ・ベルトーネの時代に規模を拡充。ジョルジェット・ジウジアーロやマルチェロ・ガンディーニといった、その後著名な存在になるデザイナーが在籍したことでも知られている。 代表作は、ランボルギーニ・ミウラ/カウンタック、ランチア・ストラトス、日本車としては1966年発表の初代マツダ・ルーチェがベルトーネデザインとして知られている。
会社のほうは残念ながら2008年に倒産、その後再建されたが2015年に再び倒産。現在は休止状態にある老舗カロッツェリアだ。
イタルデザイン
ベルトーネに在籍したジウジアーロが、1968年に起業したイタルデザインも一世を風靡したカロッツェリアのひとつだ。
ジウジアーロ自身は、ベルトーネ時代にルーチェ、ギア時代にいすゞ117クーペをデザインしたことで日本の自動車ファンにはお馴染みだが、他の日本メーカーとも幅広く関係を持ち、トヨタ・アリスト/レクサスGS、スバル・アルシオーネSVX、日産マーチ(初代)、スズキ・フロンテクーペなど、印象に残るデザインの車両をいくつか手掛けている。
イタルデザイン自体は、2010年にフォルクスワーゲンに買収されその傘下に収められて機能している。