さまざまなオーナーの手に渡った300SL
1955年10月に完成したこの個体は、時期は不明だがアメリカに輸出され、シカゴ在住のジェローム・シービー氏がオーナーとなった。そののち、ペンシルバニア州にあるプレナム・モータースの代表、ジョン・K・スキャッターグッドIII世の手に渡り、さらに、ペンシルバニア州選出の上院議員、セオドア・ニューエル・ウッド氏がオーナーとなっている。
ウッド氏は無類のクルマ好きだったようで、さまざまなレースに参戦したり、自らレースを開催するなどといった活動をしていた。アロイ・ガルウイングも、そんな活動に使われていたようだが、時期は不明だがまたさまざまなオーナーの手に渡り、1989年にスウェーデンの実業家で、コレクターでもあるハンス・チューリン氏が所有することとなった。
チューリン氏はこのアロイ・ガルウイングを、シュツットガルトにある、300SLのレストアで知られるKienle Automobiltechnikに委託。ここでフルレストアされたアロイ・ガルウイングは、ボディカラーをシルバーグレーメタリックに変更。インテリアはオリジナルであるレッドレザーに戻されることとなった。
その後、スイス在住のコレクターの手を経て、現在のオーナーの所有となっている。走行距離は2607kmだが、これはKienle Automobiltechnikでのレストア後の走行距離であるだろう。シャシーとエンジン、ギヤボックス、前後のアクスル、ステアリングギヤボックスのナンバーがマッチしていることは、レストア時に確認されている。
期待ほどは伸びなかった落札価格
そんな300SLアロイ・ガルウイングのエスティメート(予想落札価格)は、500万ドル〜700万ドル(邦貨換算約6億8400万円〜9億5800万円)。以前RMサザビーズオークションでは、W196S型「300SLRウーレンハウト・クーペ」が1億5000万ドル(当時のレートで約182億円)という、とんでもない世界最高額で落札されている。このモデルはわずか9台しか製造されなかったレーシングマシンで、その希少性はこの上ないものだ。
しかしこの300SLアロイ・ガルウイングも、生産台数はわずかである。しかも、重要なパーツはマッチナンバーであるという希少性もある。そんなこともあり、もしかするとエスティメートを超えるハンマープライスになる可能性も、と想像していたが、実際には501万ドル(邦貨換算約6億8500万円)での落札となった。