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【ホンダF1の技術を搭載】本田宗一郎肝いりのセダン&クーペだった「1300」とは【国産名車グラフィティ】

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TEXT: 片岡英明  PHOTO: 木村博道/増田貴広

  • 1300クーペ

  • エンジン
  • クーペのリア
  • 1300セダン
  • 1300クーペ

新市場参入を目指した本田宗一郎肝いりプロジェクト

日本初のDOHCエンジン搭載の軽トラックを発売するなど、ホンダはつねに新しい試みをするメーカーだ。普通乗用車市場へ初参入するにあたり、同クラスで例を見ない空冷エンジン+FWDレイアウトを考案。1969年に登場した「ホンダ1300」は驚きのスペックだった。

ホンダ初のファミリーカーに空冷式F1エンジンの技術を投入

オートバイで世界を席捲したホンダは、1962年に4輪業界への進出を表明した。そして1963年8月、日本で初めてDOHCエンジンを積んだ軽トラックのホンダ「T360」を発売。これに続いて送り出したのが、スポーツカーの「S500」と「S600」だ。人々は、時計のように緻密なメカニズムと卓越した高性能を絶賛した。

だが、スポーツカーは多くの人に買ってもらえない。そこで4輪市場にしっかりとした足場を築くため、ファミリーカーの開発に乗り出した。モーターショーに参考出品して市場動向を確認した後、首脳陣はホンダらしい夢のある高性能セダンを開発しようと動き出したのだ。

ホンダの創設者であり、天才エンジニアでもある本田宗一郎は、既存の価値にとらわれることなく、つねに自由な発想で新しい提案をしてきた。だからホンダ初の4ドアセダンも平凡なものを出すわけにはいかない。そこで選んだのが、オートバイ製造で作り慣れている空冷エンジンを積んだ高性能セダンだ。

この時期、軽乗用車市場に送り出したホンダ「N360」は大ヒット。ホンダは勢いがあった。本田宗一郎は「空冷エンジンは軽くて実用的だ。水冷エンジンでも最終的にラジエターを冷やすのは空気なので空冷なんだ」と持論を述べ、実際に空冷方式を採用したF1エンジンも作った。こうして常識破りのパワーユニットが誕生したのである。

1968年10月21日、ホンダは新開発1.3Lエンジンを搭載した4ドアセダンを、同月26日から始まる第15回東京モーターショーに参考出品。翌1969年春に発売する予定だと発表した。これが後のホンダ1300だ。

ボクシーなフォルムの4ドアセダンと、ルーフを延ばし、跳ね上げ式のリアゲートを備える商用ライトバンを展示。どちらも当時としては珍しいFWD(前輪駆動)を採用した。

注目のパワーユニットは、F1用エンジンのRA302E型120度V型8気筒と基本設計を同じくする直列4気筒だ。ホンダでは強制空冷のDDAC(デュオ・ダイナ・エア・クーリング=一体式二重空冷)と呼び、今までにない画期的な空冷エンジンだと強くアピール。この独創的なメカニズムに、ライバル会社の人たちも真剣に見入っていた。ホンダ1300の量産モデルについては翌1969年3月に発表するはずだった。

しかし、諸般の事情から正式発表は4月15日に先延ばし。4ドアセダンのみで、「77」と「99」の2モデルがあると発表した。ファミリー派を狙った77デラックスの価格は57万6000円と、N360が登場したときのような衝撃はない。マスコミに向けては、この直後に鈴鹿サーキットで試乗会を開催。正式発売は販売体制が整った5月下旬だった。

一体式二重空冷方式DDACとドライサンプ方式という斬新技術を満載

ボンネットの中に横置きマウントするホンダらしい独創的な発想から生まれた異色の空冷エンジンは、オールアルミ製のH1300E型1.3L直列4気筒SOHC。DDAC(デュオ・ダイナ・エア・クーリング)と名付けた一体式二重空冷方式を採用している。

最大の特徴は冷却方法だ。前方から外気を取り込んで、全面にリブを設けたエンジンの外壁を冷却。さらにエンジンにも空気の通路を設け、シリンダーヘッドなどにファンで強制的に風を送り込み、冷却性能を向上させた。オイル潤滑は、たくさんのフィンを刻んだオイルタンクを備えるドライサンプ式だ。構造的には空冷+油冷方式と言えるだろう。

エンジン

一般的に空冷エンジンは騒々しいが、H1300E型エンジンはホンダ独創の設計により空冷方式の弱点である大きなエンジン音を消している。フィンの共振音もうまく抑え込んでいた。なめらかな回転フィールも美点のひとつ。しかも高回転まで回すと、耳に心地よい快音を放つエンジンだった。

H1300E型のボア×ストロークは74.0mm×75.5mmで、総排気量は1298ccである。ロングストローク設計だが、性能は世界トップレベル。レーシングエンジンのようにパワフルだ。

シングルキャブレターの77はレギュラーガソリンを指定するが、それでも最高出力100ps/7200rpm、最大トルク10.95kgm/4500rpmを発生する。性能的には1.6Lのスポーティエンジンと同等だ。

さらにすごい仕様が、ケイヒンのCVキャブを4連装した99シリーズである。ハイオクガソリンを使い、最高出力115ps/7500rpm、最大トルク12.05kgm/5500rpmを絞り出す。トランスミッションはどちらもフロアシフトの4速MT。77の最高速度は175km/h、99では185km/hに達する。傑出した性能にスペックマニアは狂喜したが、オーナーたちはピーキーなエンジン特性で、低回転域のトルクが細く扱いにくいと訴えた。

当時のホンダは、驚きを感じないほど突然の部品変更が多かった。1969年12月には、トルク特性を変更した改良型のH1300Eエンジンに変更している。

この改良型H1300E型エンジンを搭載した、美しいフォルムのホンダ1300クーペが1970年2月にデビュー。1969年秋の第16回東京モーターショーに「ホンダ1300X」の名で参考出品したクーペモデルで、ほとんどそのままの形で市販化された。

サスペンションは、セダンとクーペは共通で、フロントが時代を先取りしたストラットとコイルスプリングの独立懸架。リアは交差するスイングアームをリーフスプリングで吊ったクロスビームだ。2本の長いビームアクスルは、1本はホイールのハブ、もう1本はこれとは反対側にあるボディの端に取り付けられている。アクスルのホイール側は、シャックルを介してリーフスプリングに取り付けられた。中央のシャックルの動きをよくするために2個のピボットを使っていたが、これが悪さをして前後方向の抑えが利かなかったようだ。

クルマの挙動が不安定になりやすく、クセも強いことに加え、タイヤの偏磨耗も激しかった。そこでシャックルに組み付けるピボットを1個に変更してハンドリングを改善。この改良型サスペンションは、1300クーペが登場する際、セダンも対策が施された。

セダンとは一線を画するスタイリッシュなフォルム

ホンダ1300クーペは、セダンと並行する形で開発。1969年秋のモーターショーに参考出品されたが、セダンと大きく違うエクステリアとインテリアに、詰めかけたギャラリーは驚きの声を挙げた。ボディはセダンよりひとまわり大きく、存在感も強かった。セダンの評価が今ひとつだっただけに、開発陣など関係者はホッと胸をなで下ろしたようだ。

キャッチフレーズは「絢爛たるナイセストカー」である。セダンより上の車格を感じさせる出で立ちで登場した。エクステリアは、遠くからでも目を引くスポーティなフォルムだ。セダンと同じようにノーズコーンを被せているが、見た目の印象は大きく異なる。2分割グリルを受け継いでも中央を尖らせたイーグルマスクだから、精悍な面構えだ。

ヘッドライトもセダンの99と同じ丸型ヘッドライトだが、クーペは上級ムードを強めて4灯式とした。デザインに力を入れたため、セダンと共通するパネルはまったくない。すべてクーペ専用だ。

ボディサイズは全長4140mmとセダンより255mm長い。全幅はセダンより30mm広い1495mm。わずかな違いだが、サイド面の張りは大きく異なる。全高も25mm低い。

クーペのリア

ホイールベースはセダンと同じ2250mm。つまりオーバーハングの長さが際立っている粋なクーペ。ハードトップではないもののカーブドガラスを使い、ピラーを目立たせない処理をしているので、伸びやかなウインドウグラフィックである。

リアビューの印象もセダンとは大きく異なる。3ブロックのリアコンビネーションランプを装着し、リアガーニッシュを廃してナンバープレートを配置。フロントと違い個性は薄いがエレガントだ。

当時、三角窓を廃するクルマが増えていたが、ホンダ1300クーペは装備している。夏の暑い日は車内に風を導くことができて快適だった。

搭載エンジンはH1300E型直列4気筒SOHCとセダンと同じ。しかし、シングルキャブ仕様のクーペ7は95ps/10.5kgm、CVキャブを4連装するクーペ9は110ps/11.5kgm。低回転域のトルク特性を改善するため、わずかにディチューンされている。またクーペの登場から1カ月後の1970年3月には、クーペ7に待望の3速ATも追加設定された。

1971年6月、1300クーペはマイナーチェンジ。クーペ9の速さを引き継いだツインキャブ仕様は、2分割グリルを採用したダイナミックシリーズのGTL。それ以外のグレードはシングルキャブ仕様となり、おとなしい顔付きのゴールデンシリーズを新設する。だが、かつてのような人気は取り戻せず、1972年秋に新設計の水冷エンジンを積む「ホンダ145」シリーズにバトンを託した。

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