PROXES DRIVING PLEASURE:挑戦の舞台裏
世界一過酷なサーキットと呼ばれるニュルブルクリンクのノルドシュライフェ。そこで開催される「NLS(ニュルブルクリンク・ロングディスタンス・シリーズ)」に、挑戦を続けている「TOYO TIRES(トーヨータイヤ)」。AMWではこのトーヨータイヤのスポーツタイヤブランドである「PROXES(#プロクセス)」を深く知るための短期集中連載をお届けします。第2回は、「TOYO TIRES with Ring Racing(リングレーシング)」プロジェクト——トーヨータイヤとリングレーシングによるNLSとニュルブルクリンク24時間レースへの参戦を通じて行われるタイヤ開発プログラムについて、チーム総監督であるUwe氏に今シーズンの意気込みとこれまでのシーズンを振り返ってもらいました。
念願の初クラス優勝は、チーム全員で獲得
早いもので、トーヨータイヤとのタイヤ開発プログラムであるNLS(ニュルブルクリンク耐久シリーズ)、ニュルブルクリンク24時間レースの参戦は6シーズン目を迎えました。
2024年シーズンはスープラGT4をドライブしたアンドレアス・ギュルデン/ティム・サンドラー/マーク・ヘネリッチが「TOYO TIRES with Ring Racing」プロジェクトの挑戦を開始してから実に5年目にして念願のSP10クラスのシリーズ優勝を果たす事が出来ました。
しかし、そこへ辿り着くまでの道のりは決して容易なものではありませんでした。トーヨータイヤはかつて世界を舞台に素晴らしい功績を挙げたモータースポーツ活動及びレーシングタイヤ事業を行っていましたが、撤退してから長い年月が経っていました。その間に世界のモータースポーツの車両やタイヤの性能は驚く程に進化と発展を遂げており、プロジェクト再始動をした数年は試行錯誤の連続でした。しかし、ここ数年でトーヨータイヤの開発力と進化は目覚ましく発展しており、私たちは一戦ごとに少しずつ確かな感触を得るようになってきました。
特に昨シーズンはPROXESがニュルブルクリンクのトラックで非常に正確に機能し、大きなミスや事故もなく、トップレベルの走りを実現する事が出来たのです。車両のコンディションとタイヤが完璧にマッチし、ドライバーラインアップも相まって「TOYO TIRES with Ring Racing」のプロジェクト開始以来、念願の初クラス優勝をチーム全員で獲得しました。
プロジェクト初期のタイヤと比較すると飛躍的に改良されましたが、そこへ到達するまでには、予期せぬ困難が数多くありましたが、焦らず一歩一歩着実に忍耐強く、日々の開発に尽力しました。構造やコンパウンドは常に事細かく調整が重ねられており、ニュルブルクリンクで得た経験を日本に持ち帰ってすぐに開発研究作業が行われており、フィードバックは迅速で日独間の時差の妨げを感じる事はありません。それにはトーヨータイヤのみなさんの情熱や勤勉さに、数多くの場面において助けられてきました。
言葉の壁以前に、プロジェクト開始当初は互いのコミュニケーションにも四苦八苦したのも懐かしい思い出ですね。双方がどうにか理解し合おうと努力し合っていたと思いますが、3~4年前からはとくにエンジニアチームとダイレクトでスムーズなコミュニケーションが取れており、その潤滑なコミュニケーション力もタイヤとチームを成長させたひとつの要因で、よりよい製品づくりには人間力も影響を与えると思っています。
PROXESはパフォーマンスが維持出来るのが大きな利点
NLSやニュルブルクリンク24時間レースの実戦でタイヤの不具合が発生した場合には、日本にいるテストチームがそれを持ち帰って早急に対策用の研究が進められ、ベンチマークテストと改良が重ねられている事もあり、実戦で使用するタイヤエラーは飛躍的に減りました。数多くの人々の情熱と努力の日々を経て出来上がる1本のタイヤの裏には、信じられない程のプロセスが隠されているのです。開発プログラムにおいて、実戦のレースはその中のほんの一部で、レースの日を迎えるまでには支えてくださる数多くのトーヨータイヤのスタッフなしには成り立ちません。
プロジェクト開始時と比べると、競合のタイヤメーカーとの差はほぼなくなっていると感じています。それはPROXESがニュルブルクリンクを戦うトップタイヤメーカーへと上り詰めた事を実証しているのです。例えば、競合メーカーのタイヤは最初の2ラップでは最高のパフォーマンスを発揮するのですが、それ以降は低下する一方。PROXESは継続して高レベルのパフォーマンスが維持出来るところが大きな利点だと感じています。
TOYO TIRES with Ring Racingは新たにTOYOTA GAZOO Racingとコラボレーションをして次なるステージへ向けて始動し、実力派の日本人ドライバーたちが加わり、チームは大所帯で賑やかになりました。これからレースの現場を重ねるごとに互いに歩み寄りながら距離を縮めて新チームを構築していきたいと思っています。勝利を掴むまでの5年という年月の裏には、チーム力もその多くの部分を占めていますので、互いのコミュニケーションがいかに勝利には不可欠であるか経験上、よく理解していますからね。
NLSの開幕戦でRing Racingのトヨタ スープラGT4をドライブした中山雄一と小高一斗の両選手は紛れもなく日本におけるトップクラスのドライバーです。しかし、このニュルブルクリンクでは1周の内にグリップレベルの差や天候の変化、路面コンディションやノルドシュライフェ特有のレースレギュレーション等、様々な点において日本のレースとは全く異なるので、彼らは常にアンテナを張り巡らせ、覚えなければならない事だらけに違いありません。ですから、日本のレース環境と全く違ったこのニュルブルクリンクに身を置く事が、彼らにとって非常に良いプラクティスになり、レーシングドライバーとしての引き出しが大きく増えるのではないでしょうか。新しいプロジェクトをエンジョイしながら、新しい環境に必死に食らいついている姿勢を見て、チームにとっても非常に良い影響と変化を感じ取っています。
次なる目標は、総合優勝へのチャレンジ
私の次の目標は、新しいポルシェの開発プロジェクトを通しトーヨータイヤと総合優勝を達成する事で、これは私たちにとって次の大きな一歩です。GT4に比べ、ポルシェ911 GT3 Cupでは更に研究・開発すべき点が数多くある為、結果が伴うまでは1~2年は必要となるでしょう。しかし、トーヨータイヤに絶大な信頼を置いており、2年後には総合優勝へ挑戦出来るレベルに到達している事を信じています。
ポルシェ911 GT3 Cupのステアリングを担うギュルデン/サンドラー/ヘネリッチの3名は、開発プログラムの意図をとてもよく理解しています。彼らより1~2秒速いラップタイムを出すドライバーは、何人もいるでしょう。しかし、タイヤ開発においては、トップタイムだけを競うのではなくマイレージとアベレージを重視し、走行を通してトラックから受けるフィードバックの情報収集能力といった素質も求められます。これらを完璧にマスターする3名のドライバーの活躍に引き続き期待しています。
TOYO TIRES with Ring RacingとTOYOTA GAZOO Racingの新たなプロジェクトが発足した事で、ニュルブルクリンクを舞台にして日本の誇るクラフトマンシップを更に発展させていけるのではないでしょうか。
TOYOTA GAZOO Racingのドライバーは、この地で鍛錬したドライビングスキルをトヨタの更なる素晴らしいクルマ作りに活かし、またトーヨータイヤは世界の道をより安全に走行出来るタイヤ作りにと、双方の目標がマッチしたプロジェクトのはじまりでもあります。日本とドイツは世界を牽引するクラフトマンシップの国ですから、3社がニュルブルクリンクに集結して、業界を盛り上げていければこんな嬉しい事はありません。
このニュルブルクの中の小さな日本を感じながら日々を過ごしている私も、最近は自身を日本人になったのかと錯覚してしまう程です(笑)。それほどに、日本との深い絆に結ばれた事に感慨深く、歓びを噛み締めています。