DTMで活躍した3台のツーリングカー
F1GPや世界耐久選手権(WEC)など世界最高峰のレースも見応えがありますが、F1マシンやプロトタイプカーはやはり別次元、非日常な存在です。それに対してツーリングカーレースは見慣れたクルマが走っていることで日常感があります。もっとも内容的には別次元で非日常なのですが……。
そんなツーリングカーの世界最高峰と言えば、現在では国内を転戦するSUPER GTがその最右翼となっていますが、かつて世界最高峰を名乗っていたのは、おもにドイツ国内を転戦していたドイツ・ツーリングカー選手権(DTM)でした。今回は、オートモビルカウンシル2022に展示された、DTMで活躍した3台のツーリングカー、BMWとメルセデス・ベンツ、そしてアルファロメオを振り返ります。
グループAで戦ったETCから生まれたDTM
戦後の混乱も収まり復興が加速していった1960年代からツーリングカーレースも盛んになっていきました。1963年にはヨーロッパ各国を転戦して戦うヨーロッパ・ツーリングカー選手権(ETC)が始まっています。
当初はグループ2が主役でしたがやがてコストが高騰したことでグループ1や一部改造を認めた通称“グループ1.5”などと呼ばれる車両で戦われるようになります。そして、FIA/FISAが車両規則を一新したのを機にグループAで戦われるようになり、ふたたび盛んになっていきました。
同時に、それぞれの国ごとの国内選手権も盛んになり、ドイツでは1986年にドイツ・ツーリングカー選手権が始まっています。ちなみにDTMとはDeutsche Tourenwagen Meisterschaftの略ですが、これは1995年まで開催された後、1996年には国際ツーリングカー選手権(ITC)によって発展的に解消され、2000年に再開された際には同じDTMながらDeutsche Tourenwagen Mastersの略とされています。どちらも日本語に訳すとドイツ・ツーリングカー選手権となってややこしいのですが……。
それはともかく第一期のDTMはETCの流れからグループA車輌によって争われていましたが、1993年からはクラス1と呼ばれる車両規則に沿って開発された、2.5L以下のレーシングエンジンを搭載する、まるで1970年代後半に人気を呼んだグループ5=シルエットフォーミュラのようなスーパーマシンによって戦われています。その初代王者となったのがイタリアからの刺客、アルファコルセで開発されたアルファロメオ155V6TIでした。
アルファロメオ155V6TI
アルファロメオ155V6TIはアルファロメオが1992年のイタリア・ツーリングカー選手権を戦うために開発した155GTAをベースに開発されています。エンジンを2L直4ターボから、レース専用に新開発した自然吸気2.5Lの60度V6に換装していたのが155GTAからの最大の変更点でした。
2499cc(93.0mmφ×61.3mm)の排気量から420psを絞り出しライバルのメルセデス・ベンツを大きく凌いでいました。ボディもベースモデルからは大きく手が加えられています。キャビンの前方にパイプ製のサブフレームを組み、エンジンとミッションはサブフレームにマウントされていました。
サスペンションは前後ストラット式と、ベースモデルと基本形式は同じですが理想的なジオメトリーを追求。ブレーキも前後ともにベンチレーテッド式ローターが装着され、ブレンボ製のキャリパーはフロントが6ポッド、リヤには4ポッドが奢られていました。
同じフィアット系であるランチアの、世界ラリー選手権(WRC)で活躍していたデルタHFインテグラーレから転用されたフルタイム4WDシステムは155GTAから踏襲されていましたが、前後のトルク配分は基本的に50:50とされ、車速や駆動状態によって変化していました。
フィアットのモータースポーツの総本山とされるアルファコルセで開発された155V6TIは、このシーズンからクラス1に移行した1993年のDTMでデビュー。そのデビュー戦では第1レースでニコラ・ラリーニとクリスチャン・ダナーが1-2フィニッシュを飾ると、第2レースではラリーニ、ダナーにアレッサンドロ・ナニーニが続いて表彰台を独占し、デビューレースウィンに花を添えることになりました。シーズンが終わってみると155V6TIは20戦12勝を飾ってマニュファクチャラータイトルを獲得。また10勝を飾ったラリーニがドライバーチャンピオンとなり、見事なダブルタイトルを飾ることになりました。