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いすゞが生んだ先進SUV!? 世界で流行「クーペ風」の源流は「ヴィークロス」にあった?【Key’s note】

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TEXT: 木下隆之(KINOSHITA Takayuki)  PHOTO: 木下隆之(KINOSHITA Takayuki)

  • いすゞ ヴィークロス:スポーティな3連メーターを採用したコクピット。乗用車ライクな操作性と、SUVらしい力強さを兼ね備えたデザインは、ドライバーの昂揚感を高めてくれる
  • いすゞ ヴィークロス:2ドアクーペのようなタイトな居住空間。質感の高い素材が使われており、限られたスペースの中に「スペシャリティ」としてのこだわりが凝縮されている
  • いすゞ ヴィークロス:心臓部は3.2L V6の6VD1型。最高出力215psを発生し、その余裕あるトルクは、この独創的なスタイリングに相応しい力強く軽快な走りを支える
  • 会場には中村史郎さんもいらっしゃった
  • いすゞ ヴィークロス:ボンネットラッチも新品同様のクオリティだ
  • いすゞ ヴィークロス:未塗装樹脂のタフな質感と、精悍なブラックのボディが見事に融合。1997年の登場以来、色褪せることのない近未来的な表情は、今なお強烈な個性を放つ
  • いすゞ ヴィークロス:アに配された「VehiCROSS」のバッジ。Vehicle(乗り物)とCross-country(クロスカントリー)を掛け合わせたその名の通り、既存の枠に収まらない多才さを物語る
  • いすゞ ヴィークロス:スペアタイヤカバーに刻印された大型のロゴ。ブランドのアイデンティティを主張するとともに、スペシャリティSUVとしての誇りを感じさせる意匠だ
  • いすゞ ヴィークロス:鋭い眼光を放つヘッドライトユニット。ポリプロピレン製のグリルガード風パネルとのコントラストが、ヴィークロス特有の無機質な美しさを強調する
  • いすゞ ヴィークロス:背面ドアの内部に収められたスペアタイヤ。単なる積載ではなく、デザインの一部として機能させるこの手法は、当時のデザインチームの執念の現れだ
  • いすゞ ヴィークロス:背面タイヤを飲み込んだ、有機的な造形のバックドアが特徴。ブラックのボディカラーが、複雑なプレスラインが生む陰影をより一層引き立てている
  • いすゞ ヴィークロス:「塊感」を象徴する斜め前からのアングル。ショートホイールベースと大径タイヤが描く独創的なシルエットは、まさに未来からやってきたSUVそのものである

いすゞ・ヴィークロスは時代を先取り!?
30年前にすでにあった「静かな予言車」

レーシングドライバーであり自動車評論家でもある木下隆之氏が、いま気になる「key word」から徒然なるままに語る「Key’s note」。今回のお題はSUVブームを30年も前に予見していたいすゞ「ヴィークロス」です。本格オフローダーの性能と、中村史郎氏による未来的な曲線美の融合。なぜこの異端児が今、クロスオーバーSUVの源流と呼ばれるのでしょうか。時代を先取りしすぎた革命児の真実と、日本カー・オブ・ザ・イヤー特別賞で満点を投じた当時の熱狂を振り返ります。

働くクルマのメーカー、いすゞが生んだ
常識外れのスペシャリティSUVの誕生

近年、街を見渡せば「クロスオーバーSUV」が当たり前の顔をして走っています。セダンでもなく、本格クロカンでもない。都市と自然のあいだを軽やかに横断するクロスオーバー。”SUVクーペ”と言ってもいいかもしれませんね。

では、その源流はいったいどこにあったのだろうか。そんな疑問を巡らせているうちに、ふと脳裏に浮かんだのが「いすゞ・ヴィークロス」でした。

いすゞ自動車は1993年に乗用車の生産から撤退しています。トラックとバスに軸足を移し、働くクルマのメーカーへと舵を切りました。ですが、オフロードカーの火は絶やしていませんでした。無骨なビッグホーンを生み出し続けていたのです。

その流れのなかで登場したのがヴィークロスでした。ビッグホーンのシャシーとパワーユニットを活用し、そこに強烈な個性を放つボディを被せたコンセプトカーを東京モーターショーに出展。会場は騒然となりました。その熱狂を受け、市販化へと踏み切ったのが1997年のことです。

他車からの流用パーツと独自意匠の融合! 
あの中村史郎氏が描いた「未来の造形美」

あのスタイルは衝撃的でした。今でこそフェンダーやバンパーに樹脂製クラッディングを施すSUVは珍しくありません。しかし当時、その処理は極めて稀でした。しかも、全体を包み込むようなラウンドフォルム。SUVといえば角張った箱型が常識だった時代に、あえて曲線で勝負に出たのです。オフロード性能を備えながら、都市を意識した造形。僕は、これこそがクロスオーバーSUVの源流ではないかと感じているのです。

デザインを統括したのは、のちに日産自動車のデザイン本部長を務める中村史郎氏です。個性は細部にも宿っていました。通常はリアハッチ外側に背負うスペアタイヤを、ボディのなかに格納しています。そのためリアはふくらみを帯びますが、それすらも造形の一部として昇華していました。

アンテナはルーフ後端へ。今ではシャークフィンが一般的ですが、当時は画期的でした。リアウイングも同様です。スポーツカーの専売特許のような装備を、SUVに惜しげもなく与えたのです。給油キャップはエアプレーン式でした。航空機や一部レーシングカーに用いられる機構です。空力と機能を意識したその意匠は、機械好きの心をくすぐりましたね。

もっとも、贅を尽くしたわけではありません。コスト意識も徹底していました。ウインカーレンズはダイハツから、ヘッドライトのシールドビームはオートザム、サイドレンズはユーノスロードスターからの流用です。ぐるりと囲むクラッディングも「鉄板より安いから」という合理的理由で採用されたと聞きます。お金をかけるところにはかける。使えるものは賢く使う。まさにエッジの効いた開発姿勢でした。

30年後の今こそ評価される異端の価値
時代がようやく追いついたヴィークロス

デビュー当時、話題は沸騰しました。僕も日本カー・オブ・ザ・イヤーの選考委員を務めており、その挑戦心と意匠の革新性を高く評価し、特別賞に満点を投じた記憶があります。あの熱量はいまでも忘れられません。

しかし販売は伸び悩みました。理由は様々でしょう。ただ私は、時代がまだ追いついていなかったのだと感じています。未来を先取りし過ぎたのです。それから約30年。街にはトヨタC-HRや日産ジューク、三菱エクリプスクロスのようなクーペスタイルSUVがあふれています。個性を前面に押し出すモデルは、もはや特別ではありません。

もしヴィークロスがいま登場していたらどうだったでしょう。きっと大きなブレークを果たしていたのではないか。そう思わずにはいられません。ヴィークロスは、時代を駆け抜けた異端児であり、クロスオーバーSUVという潮流の、静かな予言者だったのかもしれません。

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  • 木下隆之(KINOSHITA Takayuki)
  • 木下隆之(KINOSHITA Takayuki)
  • 1960年5月5日生まれ。明治学院大学経済学部卒業。体育会自動車部主将。日本学生チャンピオン。出版社編集部勤務後にレーシングドライバー、シャーナリストに転身。日産、トヨタ、三菱のメーカー契約。全日本、欧州のレースでシリーズチャンピオンを獲得。スーパー耐久史上最多勝利数記録を更新中。伝統的なニュルブルクリンク24時間レースには日本人最多出場、最速タイム、最高位を保持。2018年はブランパンGTアジアシリーズに参戦。シリーズチャンピオン獲得。レクサスブランドアドバイザー。現在はトーヨータイヤのアンバサダーに就任。レース活動と並行して、積極的にマスコミへの出演、執筆活動をこなす。テレビ出演の他、自動車雑誌および一般男性誌に多数執筆。数誌に連載レギュラーページを持つ。日本カーオブザイヤー選考委員。日本モータージャーナリスト協会所属。日本ボートオブザイヤー選考委員。
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