市販車のタイヤがどんどん薄くなってもモータースポーツでは採用されない理由

市販車のタイヤがどんどん薄くなってもモータースポーツでは採用されない理由

デザイン重視のロープロファイルタイヤ

 クルマのドレスアップアイテムとして重要な役割を果たすのがタイヤ/ホイールだ。足元を引き締め見た目のスポーティさを高めるだけでなく、走行性能にも大きな影響を及ぼす部分でもあるため、その選択には専門的な知見も必要になる。

 タイヤ/ホイールのドレスアップではホイールのデザインだけでなくサイズの選定が重要。幅広でワイドな拡幅サイズを履かせてみたり、ホイールを大きく見せるためにタイヤのサイドウォールのハイトが低いロープロファイルのタイヤと組み合わせることが一般的といえる。

ロープロファイルタイヤでかっこ良くカスタムはOKだがレースには超扁平タイヤは向かない

 自動車メーカーがクルマをデザインする際に最初にデッサンしたスケッチには大抵大径ホイールのタイヤにロープロファイルのタイヤを組み合わせた画が描かれている。誰の目にもそのほうが格好よく映り実車の登場を期待するのだが、生産モデルになると普通?のサイズのホイール/タイヤが装着されていてガッカリしてしまうことが多い。

ロープロファイルタイヤでかっこ良くカスタムはOKだがレースには超扁平タイヤは向かない

 そもそも格好良く見える(低扁平)タイヤ/大径ホイールにはどんな性能的特性があるのだろうか。

 タイヤの寸法には外径、内径、幅というそれぞれのサイズのディメンションがあり、タイヤ外周の寸法も重要だ。タイヤが一回りして動く距離は、外径×π(3.14)のタイヤ外周寸法のことであるわけで、この寸法が変化するとギア比にも影響するので走行性能は変化してしまう。

 またタイヤを囲っているボディフェンダーの下側であるホイールハウス内のスペースにも限度があるため、ステアリングをロックtoロックまで切り込めるところまで切り込んだ時に、タイヤが車体と干渉し接触などしない寸法内に収めなければならないのである。

ロープロファイルタイヤでかっこ良くカスタムはOKだがレースには超扁平タイヤは向かない

 タイヤ外周寸法を同じにしながら大径のホイールを組み合わせるためにはタイヤ内径を大きくする必要がある。その結果の数値として、タイヤ外径−タイヤ内径(=タイヤサイドウォール高さ)÷タイヤ幅(寸法成約から一定とする)×100が扁平率として導き出され、その数値が小さいほどロープロファイルなタイヤになる。例えば同じ幅のタイヤで扁平率70%より50%の方が大径ホイールが履けるわけだ。最近は35%や30%というような超低扁平率のタイヤを純正装着している例もあるほどである。

 

低扁平タイヤはレスポンスとトラクションが向上

 こうした超低扁平タイヤを装着すると走行特性面でどんな変化がおこるだろうか。一つにはタイヤの接地面形状が縦長となりグリップ特性がトラクション(駆動力)重視方向になる。またサイドウォールが低くなるので操舵した際のホイールの向きとタイヤ接地面向きで位相差が小さくなる。これはステアリングを回すとそれに対する反応がすぐさま感じられる“レスポンスのいい切れ味”が期待できる、ということになる。

ロープロファイルタイヤでかっこ良くカスタムはOKだがレースには超扁平タイヤは向かない

 一方、サイドウォールが低い事によって剛性を確保するために内部構造を頑丈にする必要が生まれてくるため、路面からの衝撃を緩衝しにくくなってくる。

 大径ホイールを装着することにより、大きなブレーキディスクやブレーキキャリパーを収めることができるようになるのでストッピングパワーは高めることができるのだが、大径ホイールも大径ブレーキディスクや大型キャリパーも重量が増すのでバネ下重量が大きくなる。これは運動性能にとってはネガティブに作用してしまうことでもある。

 また同じタイヤ幅で超扁平にすればタイヤ内の空気ボリュームが小さくなってしまい、こちらは内圧の管理が難しくなる。ロープロファイルタイヤでかっこ良くカスタムはOKだがレースには超扁平タイヤは向かない

 ところがF1やスーパーGTなど本格的なレーシングカーにおいては超扁平タイヤを使用していない。レギュレーションによって寸法的に制限されていることもあるが、超扁平化することによるデメリットが大きいと考えられているからだ。

ロープロファイルタイヤでかっこ良くカスタムはOKだがレースには超扁平タイヤは向かない

 超ロープロファイル化することでもたらされることは、タイヤの組み替え作業が非常に困難になるし、道路の路肩や道路上に埋め込まれて夜間に光るキャッツアイなど、ちょっとした段差の場所でホイールリムが傷つきやすくなるというリスクも高まる。

レースでは超扁平タイヤはあまり使用されない

 オーバー300km/hを謳うようなスーパーカーなどではタイヤのランニングウェーブによるバーストを抑えるために、タイヤ外周の剛性を高めるとともにサイドウォールの変形を少なくするためロープロファイルタイヤを装着する例が多い。そうしたモデルではタイヤの内圧モニターを装備して内圧管理を厳格化させてもいるのだ。ロープロファイルタイヤでかっこ良くカスタムはOKだがレースには超扁平タイヤは向かない

 またモータースポーツシーンではトラクションだけでなくハンドリングやコーナーでの高いグリップ限界が重要であり、またレース距離を通じて安定したパフォーマンスを得る必要がある。このためタイヤのエアボリュームをできるだけ増やし、内圧管理を徹底して行うのがレーシングチームの重要な作業となっている。

ロープロファイルタイヤでかっこ良くカスタムはOKだがレースには超扁平タイヤは向かない

 タイヤのグリップ力は①コンパウンドゴムと路面の摩擦力②ゴムが引きちぎれまいとする抵抗力による凝集力③ヒステリシスロスによって得られる。③のヒステリシスロスは変形したゴムが元に戻ろうとする内部抵抗のことでサイドウォールもコーナリングで変形し元に戻ろうとする時にヒステリシスを発生している。

 マシンを操作するうえで、タイヤにある程度のサイドウォール高さがあったほうがスリップアングルに応じたヒステリシスをコントロールしやすいということでもある。ドライバーもステアリングの手応えからこのヒステリシスを感じ取り操舵量をコントロールしているのだ。ロープロファイルタイヤでかっこ良くカスタムはOKだがレースには超扁平タイヤは向かない

 冒頭に記したように、クルマのデザインではかっこよく見えるロープロファイルタイヤの装着シーンがいい。しかし、競い合う操舵コントロールの視点から見れば、F1やGTレースなどのモータースポーツでは見た目のカッコ良さより性能とコントロール性を重視する見地から超ロープロファイルタイヤを装着していないケースが多いことが理解されるだろう。


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