最高速120km/hを誇るスポーティな三輪車
イギリスの三輪車メーカーとしては後発の「ボンド」は戦後1949年の創立。主力の三輪車のほか、1960年代には2L級の4輪車をもリリースしたりしたが、1969年には同じ3/4輪車メーカーの「リライアント」傘下となる。このボンド・バグの発売は1970年。会社としてはすでにリライアントだが、車名はそのまま「ボンド・バグ」としてデビューした。
いかにも「セブンティーズ」なボディはエッジの立った楔形。鮮やかなオレンジのボディも、サイケデリックな時代性を感じさせる。実車の成り立ちは、水冷OHVの4気筒700/750ccをフロントミッドに搭載した前1輪・後2輪のFRの2シーター。ホイールはミニと同じ10インチだ。前任の「ボンド875」が、スリーホイーラーであること以外はごく常識的な乗用車であることを思えば、大きな変革である。
サイドにはロータス・セブンのそれのような、差し込み式の簡単なサイドカーテンも備わるが、乗降は前ヒンジのルーフをガバッと跳ね上げて行う。その派手さは、まるでランボルギーニ・カウンタックのミニチュア版のようだ。低い着座位置と目線で、走れば実際の速度以上のスピード感を感じられたことだろう。
階級社会イギリスでボンド・バグは「下剋上」的な存在?
階級社会のイギリスでは王侯貴族から労働者まで、社会的なポジションによってそれぞれ乗るべきクルマがある程度決まっていた。だからかつては路上にも、見えざる格差が存在したという。経済的困窮者や社会的弱者、イギリスでのオート三輪自動車は「そのような人々の乗り物」という底意地の悪い見方も存在したことは確かだ。時としてそれは、彼の地のテレビや映画でもしばしば「ネタ」として取り上げられるほどだが、そんな逸話まで含め、イギリスの長いモータリゼーションの歴史の中で「THREE WHEELER」が果たしてきた役割は、決して小さくはないのである。