貴重なモデルとして今後も高く評される
2024年3月1日〜2日、RMサザビーズがアメリカ・マイアミで開催したオークションにおいメルセデス・ベンツ「300TE 6.0 AMG ザ・マレット」が出品されました。わずか2台のみ作られた6L V8エンジンに換装された300TEとはいったいどのようなクルマなのでしょうか。
わずか2台しかないうちの1台
かつてAMGが独立したブランドであった時代、彼らはメルセデス・ベンツのプロダクション・モデルが持つ実用性や機能性をそのままに、スーパースポーツ級のパフォーマンスを求める熱狂的なカスタマーにとって、まさにシュツットガルトの影に隠れたチューニング・ショップの域を超えない存在だった。
彼らが製作するモデルはセダンかクーペがメインであり、ステーションワゴン、すなわち最大で7人が乗車できるスポーツカーなど、AMG自身も、そしてカスタマーにとっても異端といえる存在だった。このような極端な提案を受け入れるディーラーやカスタマーもなく、AMGは1977年までステーションワゴンをベースとしたモデルを生産することはなかった。
その考えを改める直接の理由となったのは、アメリカのシカゴに設立されていた北米AMGの創設者、リチャード・ブックスバウム氏の提案によるものだった。それはアウディがポルシェ製のRS2アバントをリリースし、またBMWからはM5ツーリングがデビューする10年以上前の話になる。
アメリカでは重厚で機能的なスタイルを持ち、かつ5人乗りでゴルフクラブが2セット、グッチのバッグが3個と中型のゴールデンレトリバーが1頭乗ることができる、そしてスポーティなワゴンが必要なのだと訴えるブックスバウム氏に対して、アウフレヒトはついにワゴンモデルの製作を決断。ベースはいずれも「メルセデス・ベンツ300TE」で、それはAMGのファクトリーにおいて「AMG 300TE 6.0」と名を変えることになった。
AMG 300TE 6.0の最大の見どころは、もちろんフロントに搭載されるエンジンにあった。ノーマルの3L直列6気筒は、AMGによって6Lへと排気量拡大されたV型8気筒エンジンに換装。AMGは同様の300TEベースの6L仕様をまず2台製作しているが、エンジンは両モデルで異なり、1台は今回のオークションに出品されたSOHC 2バルブ仕様の「マレット」。そしてもう1台は、AMGの象徴ともいえるDOHCの4バルブ、すなわち「ハンマー」ヘッドを持つ6Lエンジンを搭載したモデルである。
ちなみにSOHC版のチューニングは、排気量拡大を除けば比較的ライトなもので、シリンダーヘッドのポート加工をポリッシュ仕上げとしたことや、バルブのバランス調整などが、その限られたメニューだった。それでも最高出力はベースの直列6気筒が177psであったのに対して310psというスペックが得られていたのである。