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バラしてわかったゴブジ号の中身! トランスミッションに異変あり?【週刊チンクエチェントVol.33】

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TEXT: 嶋田智之(SHIMADA Tomoyuki)  PHOTO: 嶋田智之(SHIMADA Tomoyuki)

ダブルクラッチを踏まなくてもギアが入る

次に、シンクロ。機構をクドクド説明したり、それがどういう具合に働くのかをナガナガ書き記したりしたらあなたが眠くなっちゃうだろうから凄まじく簡単にいうと、マニュアルトランスミッションの中のギアとギアの回転差を同調させる機構、である。これが備わってるとギアチェンジがスムーズに行えるし、テキトーに(?)シフトスティックを動かしてギアを切り換えてもガッ! とかギッ! みたいなギア鳴りを起こすことがない。

実は2代目500、最終型というべき“500R”の後期になるまで、このシンクロというヤツを持たされていなかった。ゴブジ号は“500L”というそれより前のモデルだから、本来ならノンシンクロであるのが当たり前。なので僕は、“ダブルクラッチ”という現代のクルマを走らせるためにはまったく必要ない、ノンシンクロのクルマ専用といってもいい面倒な技(?)を常に使いながら走らせてた。じゃないと、ガッ! とかギッ! とギア鳴りをさせて、トランスミッションの寿命を縮めることになっちゃうからだ。

ただし500の場合は簡単なサポート機構が備わっていて、ギア鳴りをさせても弾かれちゃうなんてことはなく、ちゃんと次のギアに入ることは入る。でもギア鳴りさせながら走るのは何だか基本的な運転技術ができていないように思われてイヤだし、そもそも業務の上で必要だから若い頃にしっかり訓練したので何の苦もなくダブルクラッチを踏めるし、ゴブジ号を初めて走らせたときからずっと踏んできた。だからまったく気が付かなかったのだ。

どうやらゴブジ号がイタリアに住んでた頃の何代目かのオーナーが、126用のトランスミッションに換装していたようだ。設計の旧い機械なのでていねいに扱ってあげないとギアが鳴ることもあるけど、このシンクロ付きの方が楽っちゃ楽だから、換装したくなった気持ちはわからないでもない。

そして、FSMだ。これはFabryka Samochodów Małolitrażowychの略。直訳すると、小型工場、か。のちにフィアット・オート・ポーランドとなる、ポーランド政府とフィアットの合意の下に誕生した自動車製造会社だ。フィアット126のポーランドでの生産はこのFSMで行われ、もちろんパーツの生産も行っていた。本家フィアットが126の生産をやめた後もFSM(と買収されてからのフィアット・オート・ポーランド)での生産は続けられ、時とともにエンジンやトランスミッションなども進化した。平井社長が資料を紐解いて調べてくれたところによれば、ゴブジ号に組み込まれていた126用ミッションは、ほぼ最後期に近い、最もフツーに近い感じで走らせられる、いちばん運転しやすいタイプなのだそうだ。

僕の場合はシンクロ機構があろうがなかろうがどっちでも構わないし、できる限りいたわりながら走りたいから変わらずダブルクラッチを踏むんだろうけど、でも考えてみたらゴブジ号にはデモカーとしても活躍してもらわないとならないわけで、もちろん旧いクルマに慣れてない人にだって乗って体験してもらいたいわけで。その点を考えると、ダブルクラッチが苦手な人でも転がしやすいというのは大きなメリット。これはラッキーだったと考えるべきなのかもしれないな。

そんなこんなで初めて見るゴブジ号の内部に新鮮な感動を覚え、知らなかったことをエキスパートに教えてもらって、ほんの数時間の滞在ながら楽しい時間を過ごすことのできた夏の午後。僕は来たときの逆の順番で慣れない電車を乗り継いで、目黒のハズレの自宅まで戻ったのだった。

けれど、まだ大変な作業をたくさんお願いしてる。次にゴブジ号に再会できたのは──僕がまたスティルベーシックになかなかお邪魔できなかったというのもあるけれど──それから約2カ月後のことになる。

■協力:チンクエチェント博物館
https://museo500.com

■協力:スティルベーシック
https://style-basic.jp

■「週刊チンクエチェント」連載記事一覧はこちら

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  • 嶋田智之(SHIMADA Tomoyuki)
  • 嶋田智之(SHIMADA Tomoyuki)
  • 『Tipo』の編集長を長く務め、スーパーカー雑誌の『ROSSO』やフェラーリ専門誌『Scuderia』の総編集長を歴任した後に独立。クルマとヒトを柱に据え、2011年からフリーランスのライター、エディターとして活動を開始。自動車専門誌、一般誌、Webなどに寄稿するとともに、イベントやラジオ番組などではトークのゲストとして、クルマの楽しさを、ときにマニアックに、ときに解りやすく語る。走らせたことのある車種の多さでは自動車メディア業界でも屈指の存在であり、また欧州を中心とした海外取材の経験も豊富。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員
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