インテリアの状態を優先し見に行くと…
1980年代後半、はっきりといつだったかは覚えていないが、独身貴族の身分を謳歌している頃で、クルマの購入にもかなりゆとりがあった。そんな時、知り合いのショップさんからヴァンプラが5台、イギリスから輸入されたという話を聞いた。原稿では書いたことがあったが、実車は触ったこともなかった。しかもショップさん、上手いことを言うもんで、「今なら5台から選び放題だよ」……。殺し文句でもあった。すぐさまクルマがあるという、東京と埼玉の県境にあったショップに赴くと、なかなか程度の良い(と思えた)5台のヴァンプラが並んでいた。
通常、クルマ選びはエンジン、サスペンション、ブレーキなどいわゆる機関が優先されるものだが、ヴァンプラの場合はそうではなくて、ウッドパネルの状態やピクニックテーブルの反りなど、むしろ調度品ともいえるインテリアの状態を優先した。車両はどれをとっても200万円ぽっきり。この価格は当時も今もほとんど変わらないように思う。そして「とりあえず見に行こう」は、いつの間にやら「どれを買おう」に変わり、数時間後には白いボディのヴァンプラをご購入……となったのである。
まだイギリスのナンバーが付いた状態のモデルだから、納車までは確か10日ほどかかったように記憶するが、購入したのは後期型の1300、4速マニュアルのモデルだった。帰りの自宅までの道のりは、まるでロールス・ロイスに乗った気分。フロアカーペットも毛足が数センチほどもあるパイルカーペットが奢られ、リアシートに座ると靴底がそのカーペットで見えなくなるほど。まあ、超豪華であった。
トラブルは一度だけ。大渋滞の還八でクラッチが切れなくなり、2速に入れて直接エンジンをかけながら一番端の車線までもっていき、そこで息絶えた。原因は些細なことだったのですぐに治った。以来全くのノートラブルで半年が過ぎたが、蜜月はそれで終わり。自分にとっては憧れだった別のクルマのオファーがあって、あっさりとそちらに乗り換えたためである。また乗りたい1台の最右翼。でも優良な個体はどんどんなくなっている。
■「クルマ昔噺」連載記事一覧はこちら