わずか2オーナーのフェラーリ「400i」が登場
フェラーリにとってリアに2名分のシートを備えた、いわゆる2+2GTは2シーターモデルと並び、アメリカ市場では非常に重要な車種だった。1971年には、当時の12気筒2シーター、365GTB/4(デイトナ)のシャシーを用いた365GTC/4が登場。それにはフェラーリも大きな期待を寄せていたが、残念ながら市場ではそのスタイリングに高い評価が得られることなく販売は低迷。フェラーリは早期にこの365GTC/4に代わる新型車を誕生させる必要に迫られた。
フェラーリ「365GT4 2+2」の後継モデルとして400シリーズへ
そして1972年に発表されたのが、365GTC/4からは一転、直線的でスクエアなボディスタイルが特徴の「365GT4 2+2」だった。そのエレガントなスタイルは、すぐにフェラーリのカスタマーに認められた。
1976年には、「400」「400オートマティック」が発表された。フロントのV型12気筒エンジンの排気量が、それまでの4390ccから4823ccへと変更された。さらに、1979年にはボッシュ製Kジェトロニックを搭載した「400 i」が登場。GM製の3速ATが組み合わされたのもここからだ。
さらに1985年には再度排気量は4943ccに拡大され、新たに「412」として生産は1989年まで続いた。後継車が456GTであったことを考えれば、この世代のモデルはマイナーチェンジを繰り返し、非常に長いライフスパンが与えられたことが良く理解できる。
そのようなシリーズの中から、2台の400i(5速MTと3速AT)を、パリで開催されたオークション「ル・グラン・マークス・ドゥ・モンド・ア・パリ」に出品したのは、創業が1793年という歴史あるイギリスのオークショネア、ボナムズ。
「33847」のシャシーナンバーを持つ出品車は、ヨーロッパで新車納車されたもので、現在までにわずか2オーナーという履歴を持つ。年式は1981年だから、4823ccのV型12気筒エンジンを搭載する400GTiとしては、ちょうど中間あたりに位置するモデルということになる。組み合わせられるミッションはオーソドックスな5速MT。最高出力は365GT/4 2+2の340psから310psへとややダウンしてしまったが、5速MTとの組み合わせで、大排気量らしいダイナミックでスポーティな走りが楽しめたことは間違いないところだろう。
購入後にはある程度のメンテナンスが必要
メルセデス・ベンツやベントレーといったモデルをライバルとした400GTiは、その装備内容もじつに素晴らしかった。セルフレベリングの独立式リアサスペンション、パワーアシストを備えるステアリングホイール、パワーウインドウ、さらにはエアコンをオプションで装備することも可能だった。ちなみにこの400GTiは、アメリカ市場においては非ホモロゲーションモデルであったため、輸出は行われておらず、おもにヨーロッパ限定モデルとして販売された。日本にはAT仕様のみが正規輸入されている。
出品車の400GTiは、1981年5月22日に新車で納車された。ネロ・トロピカーレのボディカラーとベージュの内装のコンビネーションも、いかにもフェラーリの最高級GTといった雰囲気で望ましい。1989年にはセカンドオーナーの手に渡るが、メンテナンスは両オーナーによって丁寧に行われてきた。だがここ数年は静態保存されていたため、今後の使用にはある程度の整備が必要となることに注意したいところだ。
ちなみにボナムズが、オークションの開催前に発表した予想落札価格は8万ユーロ〜12万ユーロ(邦貨換算約1280万円〜1920万円)。実際の落札価格は8万2800ユーロ(邦貨換算約1325万円)という結果だった。フェラーリの一時代を物語る12気筒モデルとして、その価格はとても魅力的なものだと思うのだが。