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エリック・クラプトンが新車で購入したフェラーリ「365GT4BB」が約3300万円で落札

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TEXT: 武田公実(TAKEDA Hiromi)  PHOTO: Bonhams

3300万円オーバーは、むしろリーズナブル……?

今回のボナムズ「GOODWOOD Members Meeting 2025」オークションに出品されたフェラーリ365GT4/BBは、英国向けに右ハンドル仕様で製造された58台のうちの1台。1974年11月に生産され、イギリスの伝説的フェラーリ正規代理店「マラネッロ・コンセッショネアーズ(Maranello Concessionaires)」社を介して輸出されたものである。

ボディカラーはシルバーメタリック「アルジェント・オートゥイユ(Argento Auteuil)」に、インテリアは「ネロ(黒)」のレザーハイド張り。カーペットはインテリアと同色でオーダーされた。

当時クラプトン卿のマネージメントを行っていた「ロバート・スティグウッド・グループ(Robert Stigwood Group Ltd)」社と、マラネロ・コンセッショネアーズのKonig氏との間で交わされた書簡によると、クラプトンのもとに納車されたのはこの年の12月24日で、ちょうどクリスマスに間に合ったことが確認されている。そして、翌1975年1月に「GPM 446N」のナンバーで登録された。

クラプトンがフェラーリを注文したのは、同じくレジェンド級ミュージシャンである親友、ジョージ・ハリスンMBEがハートウッド・エッジの邸宅に同型車を持ち込んだのを見て、影響を受けたからといわれる。ところがクラプトンは、念願のフェラーリをわずか43マイル(約79km)走らせたところで、事故に巻き込まれてしまう。この段階で、クラプトンは365BBを放出することを決意していたようだ。

今回のオークション出品者である現オーナー(故人)は、中古車情報誌「Exchange & Mart」に掲載された広告を見て、元クラプトンのベルリネッタ・ボクサーを幸運にも購入。逝去するまでこの個体を所有してきた

じつは1977年11月にリリースした、彼の代表作のひとつとされるアルバム「スローハンド(Slowhand)」のジャケットのアートワークでは、右半身が損壊したこの365BBの写真が使われている。

現オーナーの手元ではキッチンで過ごしてきた

そしてこの365BBは、1975年10月3日に現オーナーの所有地に移送。修理され、現在の「ロッソ(赤)」にリペイントされる。この修復作業は、1976年6月までに完了したのだが、新車から現在に至る走行距離はわずか1万4900マイル(約2万3800km)に過ぎない。なぜなら、その生涯のほとんどを現オーナー自宅のキッチン(!)で過ごしたからである。その来歴ゆえに、クラムシェルナンバー「172」が四隅にあり、エンジンとギアボックスのナンバーもオリジナルのオーダーシートと一致している。つまりはマッチングナンバーであることも、重要なトピックといえよう。

故人の遺品としてオークションに出品されたこの365BBは、最近カムベルトの点検が行われたばかりとのことながら、長年にわたり売り主の自宅に保管されていたため、適切な再メンテナンスとシェイクダウン走行が必要とのことであった。

ある意味、世界一有名な365BBとなったこの個体に対して、ボナムズ・オークション社では公式オークションカタログ内で

「ロックミュージックの歴史の一部として永遠に残るであろう有名で希少な右ハンドルのフェラーリを、低走行距離で手に入れるまたとない機会」

と謳うとともに、17万5000ポンド~27万5000ポンド(邦貨換算約3290万円〜約5170万円)という、かなりレンジの広いエスティメート(推定落札価格)を設定。そして4月14日に行われた競売では、17万8250英ポンド、日本円に換算すると約3340万円で落札されることになったのだ。

元ベリーマンの365BBよりもお買い得……?

蛇足ながら「ミュージシャン×フェラーリBB」といえば、RMサザビーズ英国本社が2021年5月に開催したオンライン限定オークション「OPEN ROADS, MAY」。そこには、オルタナティヴ・ロックの世界的スーパースター「コールドプレイ」のベーシスト、ガイ・ベリーマンから出品された365BBが、20万9000ポンドで落札されたことは記憶に新しい。

現在の国際市場における1970年代のフェラーリとしては不利になりがちな、右ハンドル車であるという条件は双方とも変わらず。ただし、元クラプトン卿の365BBに事故歴があることやボディの色替えを行っていること、あるいは走行可能な状態に戻すためには一定の整備が必要であるという悪条件があるのは重々承知している。

それでも、元ベリーマンの365BBよりも約3万ポンド安価で落札されたことを思えば、今回のボナムズでの落札者は、とてもリーズナブルな買い物ができたのでは……? と思わずにはいられないのである。

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  • 武田公実(TAKEDA Hiromi)
  • 武田公実(TAKEDA Hiromi)
  • 1967年生まれ。かつてロールス・ロイス/ベントレー、フェラーリの日本総代理店だったコーンズ&カンパニー・リミテッド(現コーンズ・モーターズ)で営業・広報を務めたのちイタリアに渡る。帰国後は旧ブガッティ社日本事務所、都内のクラシックカー専門店などでの勤務を経て、2001年以降は自動車ライターおよび翻訳者として活動中。また「東京コンクール・デレガンス」「浅間ヒルクライム」などの自動車イベントでも立ち上げの段階から関与したほか、自動車博物館「ワクイミュージアム(埼玉県加須市)」では2008年の開館からキュレーションを担当している。
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