理想的なパブリックロードのあり方
レーシングドライバーであり自動車評論家でもある木下隆之氏が、いま気になる「key word」から徒然なるままに語る「Key’s note」。今回のキーワードは「有料道路の無料化」。昨今、なにかと値上がりが話題となりますが、なぜ無料になったのでしょうか。
交通界の七不思議に匹敵する“異例の事件”
高速道路が「無料になる」なんて話を聞くと、多くのドライバーは眉をひそめ疑いますね。何せ、日本の道路といえば、通行料金は上がることはあっても、下がることはほとんどありません。むしろ「割引」と名のつくものは、あたかも“福引の当たり”のようなもので、いつの間にか消えているのが常です。そんななか、神奈川県横須賀市の本町山中有料道路が2022年4月1日から完全無料化されたのは、交通界の七不思議に匹敵する“異例の事件”です。
なぜ無料になったのか?
理由は至ってシンプルです。建設費用の償還が完了し、維持管理費も県の一般財源で賄えると判断されたからです。つまり
「もう借金返し終わったから、これ以上取るのはフェアじゃないよね?」
という、まっとうすぎるほど真っ当な話だ。これを聞いた瞬間
「え、当たり前のことがニュースになるってどういうこと?」
逆に混乱する方が正常なのです。
本町山中有料道路は地域経済の活性化にも寄与
なにせ、有料道路の多くは「建設費の償還を目的とした一時的措置」としてスタートしています。ですが、日本道路公団(現在はNEXCOに分割)を筆頭に、多くの道路は“永遠のローン返済中”。まるで金利だけ払って元本を一向に減らさない借金地獄のようですね。
その理由には、借り換えや新規投資、管理コストの肥大化など複数あるが、一番の根っこには「償還が終わっても、無料化するインセンティブがない」構造があります。
高速道路を管理する会社や団体は、利用料で収益を上げる。借金が終わっても、「収益が減るのは困るなあ」となるのが企業というもの。無料化などという“慈善事業”をする理由が、どこにもないのです。
ですが、本町山中有料道路は違った。運営していたのは神奈川県道路公社であり、公益性が強く、交通流動の観点からも無料化が妥当と判断された。無料化によって地元の交通の円滑化が期待され、地域経済の活性化にも寄与する。なるほど、まさに理想的なパブリックロードのあり方です。








































