ドイツ人はキャンプ好き!
レーシングドライバーであり自動車評論家でもある木下隆之氏が、いま気になる「key word」から徒然なるままに語る「Key’s note」。今回のキーワードは「ドイツ流のキャンプ」です。アウトバーンを走っているとキャンピングカーとよく出くわすといいます。
時間が出来たら即行動
ドイツ人というのは、どうも落ち着かない人たちなんじゃないかと思うことがあります。いや、性格が落ち着いてないとかではなく場所にです。春が来ると彼らは家を出て、森へ、湖へ、アルプスの麓へと向かいます。もちろん、手ぶらではありません。立派なキャンピングカーに自転車2台、ソーセージ3本、ワイン4本。それと、なぜか大きなラジオなどを積んで旅に出るのです。なんだか昭和の引っ越しか? と思うくらい荷物を積んで出かけますね。
アウトバーンを走っていると、そんなクルマによく出くわします。牽引するトレーラーにはクロスバイクが載っていて、これで自然を満喫するんだろうな……と思うのですが、それなら最初から自転車で来ればいいのに、とも思うことも。でも、それを言ったら野暮ってもんですね。これは旅じゃなくて「移動型リビング」なのです。
ドイツ人のキャンプは、日本とは少し違います。火起こしができないと恥ずかしい、みたいなサバイバル的美学は、あまりないようですね。彼らは、あくまで快適で合理的に、自然を楽しむスタイルです。キャンプ場には電源もWi-Fiもあり、シャワーはもちろん熱々。テントの前にちゃぶ台を出して、エスプレッソを淹れていたりする。ちょっとしたモダン茶室みたいなのです。
「もうひとつの生活」を外に持ち出している
インスタグラムには「#森の中で一息」なんてタグがついているけれど、後ろにあるキャンピングカーのソーラーパネルがきっちり写っていて、あぁこれは現代の風流だなと、思わずうなってしまいます。
ですが、キャンプは特別なことではないようです。朝起きたら天気が良かったから、キャンピングカーで公園に行こうか……といった気軽さです。ですから、二ュルブルクリンクのコースサイドには、それこそ休日でなくてもキャンピンカーがやって来ていて、コース上か解放されている時間帯に走るクルマを眺めていますね。
「仕事なにしてるんだろう」
そんな不粋な疑問が湧いてしまいますが、キャンプをすることは特別なことではないような気がします。だから、電気コンロも電気コーヒーメーカーも必要なのです。Wi-Fiだって欠かせませんよね。
なぜここまでキャンプが好きなのか。それはたぶん、「もうひとつの生活」を外に持ち出しているからなんでしょう。自分のマグカップで、いつものコーヒーを飲みたい。歯ブラシも、枕も、あの硬さがいい。要するに、家を背負って旅をする。まるで巨大なカタツムリのようです。
ドイツ南西部はとくに、天候が不安定なことも理由かも知れません。比較的曇天が多いイギリスでは、オープンカーが人気です。ちょっとでも日光が照らしているのならば、陽の光を浴びたいのですよね。ドイツ人がキャンプ好きなのは、それと同じ理由のような気がしますね。
私はその日、巨大なキャンピングカーの後ろを走りながら、こう思ったのでした。
「あのクルマの中には、たぶん哲学とベッドと冷えたビールが詰まってるんだろうな」
ドイツ人は家を出て、家を持っていく。そして自然の中で言うのだ。
「やっぱり、クーラーが効いてると森もいいね」