メルセデス・ベンツの「夢のワイパー」が消えた理由
メルセデス・ベンツは「パノラマワイパー」という先進的な仕組みを導入したこともありました。アームが複雑な動きでガラス全体をなめらかに掃く、という夢のようなアイデアです。しかし、樹脂製のリンク機構が耐久性に乏しく、やがて故障が多発。静かに市場から姿を消しました。
技術的な問題だけでなく、デザイン上の挑戦でもありました。プレリュードに1本アーム式を採用したホンダの思惑も、単なる先進性アピールではなかったようです。
当時の日本ではフェンダーミラーが法的に義務付けられていました。プレリュードの低く構えたボンネットに、ニョキっと突き出すフェンダーミラーがどうにも野暮ったかったのです。ホンダのデザイナーたちは、スタイリングの美学を守るため、苦肉の策としてワンアーム式を選択しました。1本であれば、より広い拭き取り面積が確保でき、ミラーの位置にも自由度が生まれる。技術と美意識のせめぎ合いの中で、生まれた解決策でした。
けれど、どれだけ理由があろうとも、今も主流は2本アーム式です。静かに、でも確かに左右で呼吸を合わせ、雨粒を払う。その姿はまるで、楽団の指揮に合わせて動くパートナーたちのようでもあり、なんとも微笑ましく、そして頼もしいのです。
不変の美しさが、そこにある
クルマが空を飛び、ステアリングが操縦桿に変わろうとも、ワイパーは変わりません。おそらく、これからもずっと。そこにあるのは、技術の限界ではなく、たぶん“ちょうどいい”という完成形なのです。
変わらないということは、時に進化よりも価値があります。
それでも、どこか誇らしげにガラスを拭うあのワイパーは、私たちが忘れかけた「不変の美」をそっと語りかけているのかもしれません。









































