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暴走族対策で選ばれた4ドアのオヤジ車!スポーツカーを日本初ターボ車にできなかった理由とは【Key’s note】

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TEXT: 木下隆之(KINOSHITA Takayuki)  PHOTO: BMW AG/日産自動車/AMW

スポーツ性を控えめにしてターボを認可させる

しかし日産も黙ってはいませんでした。規制があるなら、その“解釈の余地”を突くことで知恵を絞ったのです。そこで白羽の矢が立ったのが、当時のセドリック/グロリア、通称セドグロでした。大型セダンで、街中では官公庁車両やタクシーとしても多く使われる、真面目で落ち着いた印象のクルマです。
「ほら、この車にターボを付けても暴走族が欲しがるわけないじゃないですか。お父さんが通勤に使うクルマですよ」

日産の商品企画担当者の心の声は、きっとそんなところだったのでしょう。案の定、役所もこの提案には断る理由が薄く、1979年、日産は日本初の市販ターボ車「セドリック/グロリア2000ターボ」を誕生させました。

この時、日産は2Lクラスの直列6気筒エンジンにターボを組み合わせました。大排気量エンジンを積む代わりに、小排気量に過給で力を与える──今で言う“ダウンサイジングターボ”の発想です。当時は燃費や排ガス面でも有利で、現代の環境規制時代にも通じる先見性があったと言えます。とはいえ、結果的にこのターボ付きセドグロは、豪華セダンの穏やかな顔と裏腹に力強い加速を見せる、不思議な立ち位置のクルマとなりました。

もちろん、これは単なる“セドグロの珍しい仕様”で終わる話ではありません。セドグロにターボを載せるという回り道は、日産にとって時間稼ぎだったのです。役所や世間が「ターボ=危険」という先入観を薄めた頃、スカイラインにもついにターボが搭載されました。C210型スカイライン2000ターボGTの登場です。

セドグロ・ターボはスポーツセダンの先駆け!?

この余勢をかり、日本の自動車市場はターボ時代に突入していきました。トヨタ、三菱、マツダも参戦し、「ターボ=燃費向上&高性能」という認識が広がっていきます。

このエピソードは単なる車種開発の裏話ではありません。技術が社会に受け入れられるまでのプロセス、そしてその間に起きる駆け引きを象徴しているのです。ターボは役所の机上では“危険物”だったかもしれません。しかし現場の技術者や商品企画マンにとっては、時代の要請に応える切り札でした。だからこそ、彼らは直接対立するのではなく、あくまで合法の範囲で目的を達成する方法を探しました。それが「セドグロ・ターボ」という、日本車史に残る奇策だったのです。

最終的に、勝者は誰だったのでしょうか。役所はターボ車の普及を一時的に遅らせたものの、日産は狙いどおりスカイラインへのターボ搭載を実現し、マーケットもターボを受け入れました。そしてユーザーは、豪華セダンでありながら高速道路を軽やかに追い越していくセドグロの背中を、驚きと羨望の入り混じった目で見送ったのです。

つまり、この話の真の勝者は──高速道路で微笑んだセドグロの運転手たちだったのかもしれません。彼らは知らず知らずのうちに、日本の自動車史のターニングポイントに座っていたのですから。

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  • 木下隆之(KINOSHITA Takayuki)
  • 木下隆之(KINOSHITA Takayuki)
  • 1960年5月5日生まれ。明治学院大学経済学部卒業。体育会自動車部主将。日本学生チャンピオン。出版社編集部勤務後にレーシングドライバー、シャーナリストに転身。日産、トヨタ、三菱のメーカー契約。全日本、欧州のレースでシリーズチャンピオンを獲得。スーパー耐久史上最多勝利数記録を更新中。伝統的なニュルブルクリンク24時間レースには日本人最多出場、最速タイム、最高位を保持。2018年はブランパンGTアジアシリーズに参戦。シリーズチャンピオン獲得。レクサスブランドアドバイザー。現在はトーヨータイヤのアンバサダーに就任。レース活動と並行して、積極的にマスコミへの出演、執筆活動をこなす。テレビ出演の他、自動車雑誌および一般男性誌に多数執筆。数誌に連載レギュラーページを持つ。日本カーオブザイヤー選考委員。日本モータージャーナリスト協会所属。日本ボートオブザイヤー選考委員。
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