再塗装したボディとカーペット以外は生産時のオリジナルをキープ
車両と一緒に保管されているファクトリードキュメントによると、RMサザビーズ「Monterey 2025」オークションに出品された1964年式のスチュードベーカー・アヴァンティ(シャシーNo.R5255)は、1963年9月17日、組立ラインを移動中に検査を受けたとの記憶が残されている。その年の12月には、イリノイ州アーリントンハイツの「アーリントンモーターズ」を介して、シカゴ近郊バーリントン在住のマービン・P・ブラッドリーなる人物に販売された。
ブラッドリー氏に請求された小売価格「5196ドル53セント」には、「R2スーパーチャージャー」オプション、フロアシフト式オートマチックトランスミッション、サイレントマフラー、パワーステアリング、ホワイトウォールタイヤ、プッシュボタン式AMラジオ、シートベルト、ツイントラクション・ディファレンシャルなどのオプションが含まれていた。ブラッドリー氏は1962年式のスチュードベーカー、同じくレイモンド・ローウィの傑作として知られる「ホーク」を下取りに出して、この新しいクーペを購入したのだ。
アヴァンティの次なる記録上の所有者となったのは、フレッドとマーギーのマイナーズ夫妻である。夫妻は「スチュードベーカー・ドライバーズ・クラブ」主催のコンクールにこの個体を出場させ、400点満点中381点を獲得し、第1位に輝いた。
そして、2024年にこのアヴァンティを入手した現オーナーは、新車から4番目の所有者であると言われている。彼の所有のもと、2025年にフロリダ州コーラルゲーブルズで開催されたコンクール・デレガンス「モーダマイアミ(ModaMiami)」に出品され、フロリダ州キーラーゴまで回遊する、コンクール併催のツーリングイベントにも参加している。
また2025年5月には、コメディ俳優ロブ・マケルヘニーとケイトリン・オルソン夫妻が登場するバラエティ誌のプロフィール記事で背景として登場した。アヴァンティの独特なミッドセンチュリーデザインの魅力と、この個体の全体的なクオリティの高さを、あらためて見せつけた。
オリジナルの「アヴァンティレッド」への再塗装を除けば、カーペットを除く工場出荷時そのままの内装を含め、オリジナルコンディションを維持している。スチュードベーカーの生産記録コピーによれば、スーパーチャージャーつき4.7L V8エンジンも、いわゆるナンバーマッチングユニットである。
エスティメートに届かなかったシビアなオークションの評価
今回のオークション出品に際して、RMサザビーズ北米本社はその公式オークションカタログにて
「アヴァンティレッドの魅力的な塗装を施したこのR2は、その時代を代表する影響力があるとともに、スタイリッシュなアメリカン・パフォーマンスカーの所有権への入り口を提供します」
と熱烈にアピールした。その一方で、近年の北米マーケットにおけるアヴァンティR2の売買実績からすれば少々高めの、5万ドル~7万5000ドル(邦貨換算約740万円〜1100万円)というエスティメート(推定落札価格)を設定した。
ところが8月15日のオークション当日。モントレー市内の大型コンベンションセンター、および今年からは隣接するホテルにも会場を広げて挙行された対面型競売ではビッド(入札)が思いのほか伸びなかったようだ。終わってみれば落札額はエスティメート下限を割り込む4万7600ドルである。現在の為替レートで日本円に換算すれば約705万円という、希少性とコンディションの良さを思えばちょっとシビアとも思われる価格で、壇上の競売人のハンマーが鳴らされることになったのだ。

























































































