英本国仕様ではなく日本輸出仕様!? 徹底した合理主義が垣間見える歴史的遺産
石川県小松市にある日本自動車博物館には、自動車史に残る名車から個体として数奇な運命を辿ったものまで、さまざまな車両が収蔵されています。今回紹介するのは、1990年代に英国大使館が公用車として所有していたロールスロイス「シルバースパーII」です。実際にダイアナ妃や歴代の英国首脳が来日した際にお乗りになったという非常に貴重な1台です。当時の姿をそのままの状態で残す車体から、意外な事実と歴史のロマンを紐解きます。
英国大使館が愛用しダイアナ妃も乗車した、歴史を運ぶ「ロールス・ロイス・シルバースパーII」は日本仕様!
イギリスを代表する高級自動車メーカーといえば、ロールスロイスが真っ先に挙げられるはずだ。1906年の創業以来、自他ともに認める「世界最高の自動車」となり、世界の王室やVIP、富豪などに愛用されるようになる。日本でも大正天皇が御料車としてシルバーゴーストを使用したり、昭和天皇が戦後にシルバーレイス、ファントムVなどを使用したりするなど、1967年にプリンスロイヤルが登場して御料車が国産化されるまで、皇室とも関わりが深かった自動車メーカーだ。
今回紹介するのは、日本自動車博物館に収蔵されている1993年式のシルバースパーIIというモデルだ。ロールスロイスとしては比較的新しくごく一般的なモデルとなるが、その出自が面白い。このクルマはもともと日本の英国大使館が所有していた個体で、1999年2月まで公用車としてサッチャー首相やブレア首相などの歴代の英国首脳や、チャールズ皇太子やダイアナ妃などの英国皇族(いずれも肩書は来日時のもの)の来日時に使用されたという、非常に珍しい1台なのだ。
王道の系譜を継ぐロング版「ロールス ロイス・シルバースパー」が採用した直線基調デザインが高級車の象徴に
ロールスロイス シルバースパーは、シルバースピリットのロングホイールベース版だ。シルバーシャドウIIとロングホイールベースのシルバーレイスIIの生産終了を受け、シルバースピリットととも1980年に登場した。
それまでの丸みを帯びたデザインから一新され、直線的なデザインとなった。ちなみにこのモデルチェンジは、この時代の他の高級乗用車に多大な影響を与えたと言われており、これ以降の高級車はシンプルな直線基調のデザインが主流となっていく。
ベースとなるシルバースピリットのモデルチェンジに合わせ、1989年のシルバースパーII、1994年のシルバースパーIII、1995年のシルバースパーIVとアップデートを果たしているが、基本のボディスタイルやデザインはほとんど変わらなかった。エンジンはV型8気筒OHVの6747ccで、4速オートマチック(1991年までは3速AT)と組み合わされた。
走行8万キロが語る「働く高級車」は英国大使館が日本で調達し、前田館長の情熱が守り抜いた歴史的価値ある1台
さて、日本自動車博物館に展示されている車両を細かくみていこう。圧倒的な威厳を放つフロントマスクには、ロールスロイスの象徴である神殿をモチーフにした「パルテノングリル」と、その頂に立つマスコット「スピリット・オブ・エクスタシー」が鎮座している。美術品のような美しさと、VIP送迎車としての揺るぎない風格をひしひしと感じさせるが、車両をさらに細部まで確認していくと、驚くべき事実が隠されていた。
なんと、リアウインドウ中央に「CORNES(コーンズ)」のステッカーが貼ってあるのだ。つまり英国大使館は本国からこのクルマを持ち込んだのではなく、日本で現地調達していることになる。
それが証拠に車内を見せてもらうと、スピードメーターはマイル表示ではなくキロ表示となっている。おそらく一般的な日本輸出仕様である可能性が高い。ルーフにはボディ同色のレザートップが貼られている。これは車内の静粛性を向上するための装備で、この車両は状態も非常に良い。また大使館の車両らしく、左フロントフェンダーにはフラッグポールが備わるのが特徴と言えるだろう。
いずれにせよ、通常であれば役目を終えた外交官ナンバーの車両が民間に寄贈され、しかもほぼ当時のままの状態をキープしながら展示されるケースは極めて珍しい。初代館長である前田の交友関係の広さと情熱の賜物と言っていいだろう。
ちなみにオドメーターの値はおおよそ8万2000km。この手の車両にしては走行距離は多いほうだ。優雅な佇まいの裏で、VIPたちを乗せて日本の交通網を駆けずり回ったこの「働く高級車」は、今も静かに余生を過ごしている。ダイアナ妃が座ったかもしれない後部座席を眺めながら、自国のクルマをわざわざ日本で現地調達するイギリスの徹底した合理主義と、初代館長の執念の凄まじさに、ただただ感嘆するばかりだ。
気になる人は今でも日本自動車博物館に展示されているので、訪れた際はぜひとも自分の目で確かめてみてほしい。
■取材協力
日本自動車博物館
https://www.motorcar-museum.jp/































































