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1962年当時デザインのまま最新フルカーボンボディ、シボレー製V8にウェーバー極似インジェクション搭載のビッザリーニ「5300アペルタ ルッソ」が豪華に復活

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TEXT: AMW編集部  PHOTO: Bizzarrini  FACT CHECK: 山本 亨(YAMAMOTO Tohru)

60年の時を超えて現実となった珠玉の特注イタリアン・オープン

イタリアの自動車史には、ふたりの天才が1962年に企画した未完のオープントップモデルが存在した。そのふたりとは、ジオット・ビッザリーニとジョルジェット・ジウジアーロである。当時のスケッチから60年以上の時を経て、未完の傑作モデル「ビッザリーニ 5300 アペルタ ルッソ(Aperta Lusso=豪華なオープンカー)」が現代に復活する。最新技術を駆使したフルカーボンボディを纏い、当時搭載していたシボレー製スモールブロックの5.3L V8エンジンを搭載した「最新でノスタルジック」な極上のビスポークモデルは、どのようなディテールを隠し持って2026年に再降臨するのだろうか。

航空宇宙グレードの鋼材と先進素材を用いて未完のスケッチを形にする

ジオット・ビッザリーニといえば、フェラーリの伝説的スポーツカー「250GTO」の開発を主導した天才エンジニアだ。現在クラシックカー市場において、同車は数十億円という天文学的な価格で取引されている。

1961年の「宮廷の反乱(エンツォ・フェラーリの妻ラウラが、会社運営やマネジメントに介入し始め、現場スタッフたちの不満は限界に。営業部長だったジロラモ・ガルディーニがラウラと口論したことをきっかけに、ビッザリーニを含む主要メンバー8名が結託。エンツォに対し、奥さんの現場介入をさせないでほしいとの抗議文(最後通牒)を突きつけた。しかし、独裁者エンツォが下した決断は、反乱者全員クビという事件)」でフェラーリを去った彼は、独自の美学と空力性能を追求し、ビッザリーニ「5300 GT コルサ」を作り上げた。このマシンは1965年のル・マン24時間レースに参戦している。当時最強を誇ったフォード「GT40」やシェルビー「コブラ・デイトナクーペ」といった大排気量の強豪を相手に、見事クラス優勝をもぎ取るほどの実力だった。しかし1969年の会社閉鎖により、オープントップの構想はお蔵入りとなってしまったのである。

今回発表された5300 アペルタ ルッソは、「ヌオーヴァ・クラシカ(新しいクラシック)」というテーマを掲げている。最大のトピックは、世界最大級のワンピース・カーボンファイバー・コンポジットボディを採用したことだ。オープン化に伴う剛性低下への対策も万全である。センタートンネルには航空宇宙グレードの鋼材を用いた補強が施された。その結果、1960年代のクーペモデルを凌駕するねじり剛性を確保している。

クラシックカーのレストモッド(最新技術による復元)において、ボディ全体を最新のカーボンで成形し直す手法は極めてコストがかかる。しかし、オープンカー特有の不快な振動を排除する必要がある。現代のハイパフォーマンスに耐えうる土台を作るためには、この贅沢なアプローチが不可欠だったといえる。

あえて倍力装置を外したブレーキで当時のダイレクトな操作感にこだわる

流麗なボンネットの下には、フロントミッドシップに当時を彷彿とさせるシボレー製スモールブロックの5.3L OHV式V8エンジンがマウントされる。最高出力は400馬力を超え、最高速度は175mph(約281km/h)以上に達するスペックだ。

クルマ好きの心をくすぐるのは、その細かなディテールである。燃料供給には現代的なポート噴射式のインジェクションを採用しているが、一見すると当時のウェーバー製ダウンドラフトキャブレターに見えるよう、精巧なダミーの造形が施されている。

排気系には、レース用エンジンで使われるインコネル製の手作りエキゾーストを採用した。バルブ開閉機構を備えており、アイドリング時の上品なサウンドと、アクセルを踏み込んだ際の官能的な咆哮を見事に両立している。トランスミッションは、トレメック製の5速マニュアルが標準となる。ダイレクトな操作感を楽しめるが、高速巡航を好むオーナーのために6速MTも選択可能だ。

足回りには、ル・マンで実力を証明したダブルウィッシュボーン式サスペンションを採用した。そこに専用チューニングされた「KONI」社製のレッドダンパーを組み合わせている。カンパニョーロ製のマグネシウムホイールの奥には、強力なブレーキキャリパーが備わる。フロントは「アルコン(Alcon)」社製の4ピストン、リアは「ブレンボ(Brembo)」社製の2ピストンだ。しかし、あえてブレーキサーボ(倍力装置)は排除されている。

現代のクルマに慣れたドライバーにとって、倍力装置を持たないノンサーボのブレーキは、ペダルを踏み込む際に相当な脚力を要求される。だが、電子制御の介入を極限まで削ぎ落とすことに意味があるのだ。オリジナルモデルとまったく同じダイレクトなブレーキタッチを現代の道で味わうため、あえてこのマニアックな仕様にこだわっている。

エルメネジルド・ゼニアの生地と巧妙に隠された最新装備でキャビンを彩る

生産される最初の10台は、すべてオーナーの要望に応じた完全なビスポーク(オーダーメイド)となる。記念すべき第1号車は「ラ・ドルチェ・ヴィータ(甘い生活)」と名付けられた。現代のデジタル社会の喧騒から逃れ、純粋なドライビングの喜びを取り戻すという想いが込められている。ボディカラーは特注のペールブルーに塗装された。オーナーの娘にちなんで「アズーロ・ガイア」と名付けられている。イタリア北西部のリグリア海を思わせる深い輝きが特徴だ。

インテリアはまさにイタリアンラグジュアリーの極みである。ドアパネルには最高級レザーと、イタリアの世界的最高峰ファッションブランド「エルメネジルド・ゼニア」のファブリックが贅沢にあしらわれている。計器盤はヨーロピアンメープルの無垢材から削り出された。シフトノブはべっ甲にゴールドのビッザリーニロゴが象嵌(ぞうがん)されている。そしてステアリングは、往年のクラシカルな雰囲気を再現するためにナルディ製ウッドステアリングが選出されている。

キャビンには現代の快適装備も備わっている。エアコンやMagSafe対応充電器、Apple CarPlay対応のオーディオなどだ。ただし、これらは1960年代のクラシカルな雰囲気を壊さないよう、絶妙に隠されている。

この5300 アペルタ ルッソは、現在開発が進められている次世代モデル「ジオット ハイパーGT」の生産に向けた、重要な架け橋となる。初期生産分の10台に続き、2027年に向けて追加のオーダー枠も用意される予定だ。

価格やメンテナンス体制についての詳細は公表されていない。だが、フルカーボンボディやインコネル製マフラーといった妥協のない素材選びを考慮し、ベースとなったクローズドモデル「5300 GT コルサ リバイバル」が約240万ドル(日本円で約3億8,000万円以上)で販売されていたこと、そして今回のアペルタ ルッソが世界限定わずか10台の完全なオーダーメイドであることから、同等以上のマルチミリオンダラーのプライスタグがついていることは、容易に想像できる。

この「5300 アペルタ ルッソ」は、単なる過去の復刻版ではない。名門ビッザリーニの復活を市場へ強く印象づけるとともに、今後登場予定の次世代モデル「ジオット ハイパーGT」へ向けた、同社の高度な製造技術を証明するマイルストーンとなる。クラシックカーの意匠と現代の素材工学が高次元で融合した、極めて工業的価値の高い1台といえる。

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  • 山本 亨(YAMAMOTO Tohru)
  • 山本 亨(YAMAMOTO Tohru)
  • 1960 年生まれ 大学卒業後ベストカーガイド編集部勤務。1990年オートスポーツ誌に転職、1992年F1速報誌(アズエフ)編集長。1995年月刊ビデオマガジン編集部に転職、1996年ベストモータリング編集長(のち局長兼務)。2005年ネコパブリッシング・イベント本部長/4輪編集局長兼務。2015年交通タイムス社に転籍、2020年より現職(総編集局長)自動車の分野に問わずオールマイティだが、特に旧いモータースポーツとクラシックカーに造詣が深い。愛車は1969年DATSUN Fairlady SRL311/YAMAHA RD250ほか

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