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なぜ日本の道路より広く感じるのか? 速度無制限区間が存在するドイツの「アウトバーン」の歴史を紐解く

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TEXT: 妻谷裕二(TSUMATANI Hiroji)  PHOTO: ダイムラーAG/メルセデス・ベンツミュージアム/アウディミュージアム/ドイツアーカイブ/Auto Messe Web

アウトバーンの速い者が優先する思想と秩序

 アウトバーンは目的地にもっとも速く、快適に到着するというドイツ独自の合理主義に基づいている。

 設計速度を決定する最大の要因のひとつに、道路のカーブの大きさと勾配変化がある。つまり、多くの場合、前方の見通し距離によって設計速度の値が支配される。日本の高速道路設計速度の最高値は120km/hとされている。一方、原則として速度無制限が認められているドイツのアウトバーンの“設計速度”はといえば、意外にも日本と同様に120km/h。しかし、ドイツの交通関係者は、設計速度以外に“安全速度”という言葉を用い、アウトバーンの安全速度は180km/hとしている。

アウトバーンの走行イメージ1 元来、ドイツのアウトバーンは無制限に速度を上げても安全にドライブできるように勾配を少なく、カーブは緩やかなラインになるように初めから設計されており、とくに勾配は原則的に4%以内に抑えられている。また、アウトバーン設計時に航空機の発着を想定したため、舗装の厚みが平均約75cmと広大なアメリカの高速道路に比べて約2倍厚い。高速道路にかける予算もアメリカの約2倍と言われている。

 日本の高速道路のアスファルト舗装と違って轍がなく、ハンドルがとられることなく安全で、タイヤノイズが少なく快適なドライブを楽しめる。一方、日本の高速道路は、産業道路としての要素が多く、トラックによって造られた轍が残っている。その轍が安全で快適なドライブに悪影響をおよぼしていると言える。

 アウトバーン車線の幅が日本の道路よりも広く感じるのは、視界に圧迫感を感じないことにある。アウトバーンの車線幅は3.75m~4mで、日本の高速道路の車線幅3.5m~4m(一部3.75m~4m)とほぼ同じである。しかし、アウトバーン走行で実際の数字以上に車線の幅を広く感じるのは、基本的には周囲の土地と同じ高さになっているからだ。

 つまり、本線のすぐ横は、ぶどう畑、農場や森、そしてその向こうに見える丘も「自分と同じ高さ」で広がり、拡大された視野が数字以上に車線の幅を広く見せているのだ。一方、日本の高速道路は、それ以外の道路あるいは地面と高さを異にしており、立地条件の違いからくる印象が大きくなっている。

アウトバーンの走行イメージ2 アウトバーンでは、速い者が優先される思想が徹底して守られている。これは、交通文化が発達していく過程で造られてきた、ドライバーたちの絶対のルールから成り立っている。しかも道路構造的にも速い者が優先される仕組みだ。つまり、高速車は左側の追い越し車線へ、中速車は第ニ車線で走行する、貨物車は最高速車線には入らないなど、走行状況に応じた車線の原則を遵守する。

 ドイツのアウトバーンといえば、とかく日本では速度無制限が強調されがちだが、実態は複雑。速度は「速度制限区間」、「天候や工事による一時的な速度制限区間」、「速度無制限区間」の3つが存在し、「速度制限区間」の割合は約2割、「速度無制限区間」は約7割となっている(2017年時点)。近年では環境負荷低減で速度制限区間はさらに伸びつつある。

アウトバーンと危機管理

 アウトバーンで事故が起こると、被害は甚大であることは周知の通りである。スピードを出すのは自己責任であるとはいえ、個人にすべてを課すのではなく、ドイツでは緊急体制を完備させている。

 通常の事故や故障の場合、電話連絡するとADAC(ドイツ自動車連盟)が対処する。大事故に備えて、早くから最短時間で現場に到着できるヘリコプター救急体制づくりに取り組んできた。1970年から救急医、ヘリコプターと病院を連携した救急体制を整え、死亡事故を1/3に減少させたのは今も語り草になっている。

アウトバーンに降りたドクターヘリ

 これはドクターヘリと言われているが、もちろんアウトバーン専用でもない。ヘリコプター・ステーションは原則として、通常朝7時から待機体制を整えている。応援が必要な場合は他のステーションからも飛行してくる。病院を拠点とした救急センター、医者、救急隊がシステマテックに連携を取っているからである。

 ドイツは人命にかかわる事は最優先に対応し、徹底的に最善の体制づくりをしている。ヘリコプターの救急出動に際し、ドイツの費用は社会保障費によって賄われている。また、病院の治療費などは健康保険によって支払われ、公共事業は公費負担の原則が貫かれていると言える。アウトバーンを巡る危機管理制度も、ドイツの思想を色濃く反映しているのだ。

 ドイツの自動車産業はもちろんのこと、流通業や旅行会社など、多くの産業の礎となったアウトバーン。新型コロナのパンデミック以降、感染を恐れて自家用車を利用する人が増加している。さらに、今後は脱炭素を踏まえて、EVや自動運転に対応した「スマート道路」へと変化する事が求められている。

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  • 妻谷裕二(TSUMATANI Hiroji)
  • 妻谷裕二(TSUMATANI Hiroji)
  • 1949年生まれで幼少の頃から車に興味を持ち、40年間に亘りヤナセで販売促進・営業管理・教育訓練に従事。特にメルセデス・ベンツ輸入販売促進企画やセールスの経験を生かし、メーカーに基づいた日本版のカタログや販売教育資料等を制作。またメルセデス・ベンツの安全性を解説する独自の講演会も実施。趣味はクラシックカー、プラモデル、ドイツ語翻訳。現在は大阪日独協会会員。
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