クルマが完成したのはオートサロン初日の朝
畑野自動車ではオートサロンの出展は諦めずに、あらたにベースモデルを購入しました。すでに完成していたプロポーションですが、イチから作り直すために、燃えてしまったクルマから使えるものがあったのかについても尋ねてみました。
「燃えてしまったクルマは何も使えるものがなかったのですが、燃えたカウルにパテを塗って型取りして、その型からカーボンパーツを作成しました。そういう意味では、燃えてしまったクルマも利用しています。焼けて反ってしまったものを修正し、元の造形をレスキューするところから始めたため、ゼロスタートというよりマイナススタートだったので本当に大変でした。焼け残った部分があったからこそ、今に繋げられた話ですが、これがまた地獄ではありました」
クルマが完成したのはオートサロン初日(1月13日)の朝で、ギリギリまで作業されていたそうです。
カーボン製のリアカウルの作成も順風満帆とは言えなかったそう。上型にフイルムを使用し下型とフイルムの気密性を保真空圧によって樹脂の充填・含浸させるクローズドモールド成形法「インフュージョン」から、人の手によって樹脂をハケやローラーで含浸させ、脱泡しながら所定の厚さまで積層する成形法である「ハンドレイアップ」に変更。オートサロンの半月前までトライアンドエラーを繰り返していたそうです。
大友さんは当時を次のように振り返ります。
「インフュージョンがどうやっても失敗してしまい、成功する糸口が見えず、どんどん時間だけが過ぎていくのはとても焦りました。本当に無理かもしれないと思いました。やはりリアカウルをインフュージョンでできなかったので、もう一度自分たちの手でやってみたいという思いもありましたし、各所作り込みをもう少し突き詰められるたと思うところはありますね」と少し悔しさも滲ませていました。
往年のWRCグループ4モデルをイメージしたデザイン
今回のラヴァージュのデザインコンセプトは、往年のWRCグループ4モデルをイメージし、現代の新しいアルピーヌにその面影を投影してデザインしています。デザイナーのタレックさんは次のように話します。
「昔のアルピーヌは細身のボディですが、エンジンパワーが上がるに従ってボディもワイドになっていったところにロマンを感じます。今回の作成したフェンダーは、いきなりボンッと膨らむようなデザインとはせず、自然な丸みでワイド感を強調させていてエアロとしての空力効果も抜群です」
こだわりのワイドボディはリア片側55mm、フロント片側35mmに仕上げています。また、ボディサイドのダクトは熱対策としてエアインテークの機能をしっかり果たしながらも、プレスラインの延長の中に落とし込んだ自然な造形という点がこだわりとのこと。
焼けてしまう前にほぼ完成していたプロポーションでしたが、元の案と同じにするのは面白くないという畑野氏の意向もあり、改良を加えて前後バンパーは新しいデザインになっています。
とくにこだわったというのが、フロントバンパー先端の微妙な膨らみ。エンブレム下を初代A110のクチバシのような形状に近づけるため、13mm膨らませているそうです。このわずかなポイントに気づけた人はオートサロン会場でほとんどいなかったのだとか。
日本のクラフトマンシップが随所に散りばめられている
今回のラヴァージュには、日本のクラフトマンシップを随所に散りばめたこともこだわりのひとつだそうです。マフラーは創業明治8年、京都の最高級茶筒司の開化堂が製作。異業種のコラボレーションですが、銅製のマフラーの美しさは秀逸で、叩き出しで作ったという点にも驚かされます。
センターコンソールに配された「JP001」と刻まれたコーションプレートは日本1台目のラヴァージュの証。こちらも開化堂が製作する予定でしたが残念ながら間に合わせることができず、急遽大友さんのお父さまがひと晩で作成したそうです。それはそれで親子の共同作品として、とても感慨深いプレートに感じます。
内装は、ルノー5ターボを彷彿させる真っ赤なシートに青いカーペットが白いボディに映えます。内装を担当したのは、畑野自動車と30年以上の取引のある八亀製作所で、フランスの生地メーカーから届いた牛1.5頭分の革を裁断し、84歳を迎えた八亀製作所の先代の力も借りて手縫いで仕上げているそうです。
生地はルノー5(サンク)ターボ1やアルピーヌにOEM供給していた伝統的なフランスメーカーのものだそうで、見た目だけではなく質にもこだわっていました。
ホイールはOZレーシングと手掛けた日本専用品
ホイールは、OZレーシングとのスペシャルコラボレーションにより、ラヴァージュのためだけにつくった日本専用ホイールを採用。デザインコンセプトは、フラットな形状にすることで空気が巻き込まれることなく後方へ流れる、空力的要素が強いそうです。リアのホイールは、ワイドボディを強調するためにフロントのホイールにはないコンケーブをつけた形状にしています。このホイールは純正のアルピーヌA110にも装着できるよう、リサイズして販売準備を進めているそうです。
車両焼失からの復活作業の難航、さらにはオートサロン初日の朝まで作業していたこともあり、ホッとした気持ちになれたのは午後になってからだと大友さんは話します。それでもやはりまだまだ改良したいところや再挑戦したいところ、試乗してからわかるクルマ全体のバランスの調整が必要とのこと。
「そういった意味で、このクルマはまだ完成とは言えず、プロトタイプですね」と、息つく間もなく次の目標を掲げている大友さん。その姿は、この壮大な「新人研修」によって彼女が強くなったことを感じました。
誰でも乗れて筑波サーキットを1分切りできるマシンへ
今後の活動としては、このラヴァージュでアタック筑波を走行することだそうですが、ECUなどエンジンチューニングは行わないとのこと。
「女性でも誰でも乗れるエントリーモデルとしてエンジン系には手を加えず、大切に育てていきたいです。誰でも乗れる仕様であるのに、それでいて筑波サーキットで1分切りできたら十分でしょう」(畑野さん)
アタック筑波に向けて走行テストや本番用カウルへの換装など実走の準備を進めていくようです。
最後にラヴァージュの販売予定はあるのか聞いてみました。
「買いたいという方がいらっしゃれば、弊社は喜んでお受けしますが、価格はいくらにすればよいのやらです。要相談ですね」と回答をいただきました。購入を検討したい方は、畑野自動車へお問い合わせを。
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幾度となく挫折してしまいそうな瞬間がありながらも、オートサロンという晴れ舞台でラヴァージュを完成させた畑野自動車に拍手を送りたいです。畑野さんはもちろんのこと、フランスと交渉を進め、こだわりの詰まった1台をカタチにした大友さんにも尊敬の意を表します。
来年のオートサロンの出展があるのかは未定ですが、今後も畑野自動車の作るコンプリートカーには注目です。