元祖フェラーリ・スペチアーレ
いわゆる“フェラーリ・スペチアーレ”のなかでも、その生産台数の少なさやモータースポーツ志向の強いピュアな成り立ち、そして獰猛な美しさも相まって、もっとも高いマーケット評価が下されることも多いのが、元祖スペチアーレともいうべき「288GTO」である。北米フロリダ州シー諸島の避寒リゾート島、アメリア・アイランドを舞台に毎年3月に開催される大規模コンクール・デレガンスに付随して、今年もRMサザビーズ北米本社の主導によって“AMELIA ISLAND”オークションが大々的に開かれたのだが、その競売に出品された288GTOがたたき出した落札価格は、現況におけるこのモデルの価値を再認識させるものとなった。
ホモロゲモデルとして開発された
1984年、フェラーリの世界では“Gran Turismo Omologata”の文字が再びクローズアップされることになった。その開祖である「250GTO」はフェラーリが生んだ最高のスポーツレーサー。目覚ましいレースヒストリーと、センセーショナルなドライビングダイナミクスで、GTOは伝説のスポーツカーとして語り継がれてきたからである。
フェラーリがその伝説の名を復活させるためには、新型GTOが250のモータースポーツにおける驚異的な記録と同等か、それ以上のものであることが期待された。
1982年から施行されたFIAグループBに参戦するため、フェラーリは新世代のGTOを開発し、同シリーズのホモロゲーションモデルとして200台の生産台数を達成する必要があった。しかし、その直後にグループBは中止され、開発されたホモロゲーションカーには、参戦するシリーズがないという状況に追い込まれる。
それでも、フェラーリ史上最強のスーパーカーを体験してみたいというニーズがあることは明らか。当初は単に「GTO」と呼ばれた288GTOはグリッドに並ばないまでも、フェラーリのファンや顧客の期待を裏切ることはなかった。
発表当時世界最速だった
外観はよりアグレッシブなスタンスで、ボディワークの大部分はコンポジットとケブラーで形成。ドアやデッキリッドは軽量なアルミ製で、その堂々としたフォルムは驚異的なパフォーマンスを予感させる。
レース用に開発された2.8L V型8気筒エンジンは、2基のIHI社製ターボチャージャーとともに400psを発生する。最高速度は305km/hと謳われ、発表当時は史上最速のロードカーとなった。加速性能も素晴らしく、停止状態から時速60マイルまでわずか4.8秒、時速100マイルまで10.2秒と、戦闘機以下のあらゆるものをバックミラーに収めるほどの速さだった。
この性能に加えて、GTOのインテリアには現代的な設備が数多く採用されていた。ケブラーフレームのバケットシートは革張りで、エアコン、電動ウインドウ、AM/FMラジオ/カセットステレオはオプションで選択できた。しかし、それ以外には、ドライバーの集中力を削ぐようなものはなかった。この新型GTOはフェラーリ長年の顧客の共感を呼び、生産終了までに272台が生産された。これはFIAグループBのホモロゲーションに必要な台数を25%以上も上回る数字だったのだ。