「ノン・キャット、ノン・アジャスト」とは?
この夏、RMサザビーズ「Monterey 2023」オークションに出品されたフェラーリF40、シャシーナンバー#84116は、新車時からひとりのエンスージアストによって所有されてきた、非常に望ましい「ノン・キャット、ノン・アジャスト」のヨーロッパ仕様車である。
このF40は、ファーストオーナーの膨大なコレクションに新車として納められたのち、数十年にわたり人目に触れることはほとんどなかった。1990年代には彼の自宅である中国に輸送され、フェラーリ製スーパーカーとしては初めて中国に持ち込まれることになる。
そして約6年前にアメリカに送られるまでは、ごくたまに走行に供されただけで、ずっと中国の某所に秘匿されていたという。2016年に正規代理店「フェラーリ福建デンカー」が作成したサービスインボイスによると、当時のオドメーターは885kmを指していた。
厳重な保管を解かれ、2022年に晴れて米国へと正式入国したF40は、カリフォルニア州ロングビーチのノルベルト・ホーファー氏が開く「グラン・ツーリング・クラシックス」によって、大規模なメカニカルパートのトラブルシューティングが施されることになる。
この時のチェックでは、数日間の作業によって走行可能な状態にはなった。しかし、安全な状態で道路に復帰するために「なにが必要か?」を判断するため、徹底的な点検が行われた結果。数カ月にわたる整備が着手されることになる。
このフルメンテナンスの費用は6万ドルを超え、その際の記録簿は車両とともに保管されている。中国からの到着時には老朽化したオリジナルのタイヤが装着されていたが、こちらももちろん安全上の理由から交換された。
そしてこの個体でもっとも特筆すべきは、ほとんどのF40では見られない魅力的なオリジナルの要素が随所に見られることだろう。工場で検査されたときのオリジナルの円形の青いステッカーが4つのホイールに貼られたままであり、カーボンの織り目が薄い塗装の間から見える。パネルにはさまざまなボディナンバーと製造年月日が確認でき、アクセルペダル横のキックプレートには白い純正プラスチックフィルムが貼られたままである。カーボンシートの底には1989年8月31日と手書きの日付が記されている。
公式オークションカタログ作成時の調査によると、現在このシャシーナンバー#84116の走行距離は、わずか932kmを示していた。
2023年4月に整備が完了したのち、「フェラーリ・ニューポート・ビーチ」に送られ、そこでフェラーリ・クラシケ認定のための入念な検査が行われた。オークションカタログ作成時点では、フェラーリ本社へのクラシケ申請書を提出し、現在審査を受けているとのことだったが、この個体ならほぼ間違いなく承認されることだろう。
この稀有なF40に対して、RMサザビーズ北米本社では280万ドル~340万ドルという、昨今の同モデルの販売実績を鑑みても、かなり強気なエスティメート(推定落札価格)を設定。そして迎えたオークションでは330万5000ドル、つまり現在の日本円に換算すれば約4億8540万円という、ここ数年に販売されたF40のなかでも記録的な価格でハンマーを落とされることになったのだ。
たしかに、これほど走行距離の少ないシングルオーナーのF40を購入できる機会は、極めて稀なことであるのは間違いあるまい。
「ノン・キャット、ノン・アジャスト」の望ましい1台として、F40のもっとも純粋なバージョンで、しかもオリジナル度の高いコンディションを求めるコレクターにとってはまさしく理想的な出品車……、というRMサザビーズのうたい文句は、間違いなく購入希望者の心を大きく動かしたのであろう。