魅力的なオプションが、落札に直結するかと思いきや・・・・・・
RMサザビーズ「LONDON」オークションに出品された300SLは、シャシーNo.# 6500206。メルセデス・ベンツのジンテルフィンゲン工場で完成し、1956年8月18日に出荷されたのち、マニラの販売代理店を通じてフィリピンに輸出された。この国に納車された数少ない300SLのうちの1台であったことは間違いないだろう。
新車として製作された当初はライトブルーメタリック(DB353)で仕上げられ、レッドレザーのインテリアが組み合わされたが、比較的早い時期にこのクルマではもっともポピュラーなシルバーメタリックに塗り直されたと考えられている。
またオプションのスポーツサスペンションと、スポーツカムシャフトを組み込むことで最高出力を230psに引き上げた「NSL(Nockenwelle Sport Leicht)」仕様のエンジンを、新車時代から搭載していた。
1400台が生産されたガルウィングのうち、約300台がNSLエンジンとスポーツサスペンションの両方を装備したといわれている。しかし、その300台の中にはダイムラー・ベンツ社(当時)の「スポルタブルイルンク(Sportabteilung=スポーツ部門)」ファクトリーで用意された4台のガルウィングや、利用可能なすべてのアップグレードとともに製造された、29台のアロイボディ車は含まれていないとされる。
この300SLガルウィングの最初のオーナーとなったのは、マニラ在住の裕福なエンスージアスト。それ以降の歴史はドキュメントにも記されていないながらも、2007年にドイツへ輸出される前には、北米ニューヨーク州リバーデイルのコレクターによって入手されたあと、アメリカでは少なくとも1人の所有者が存在したとされる。
この間、1990年代半ばにはレストアされたとの記録があるほか、2008年には現代の無鉛ガソリンでもスムーズに動作するように、新しいシリンダーヘッドとスポーツカムシャフトでアップグレードされたとの由である。
2009年までにガルウィングはオーストリアにあったのち、英国に在住する次のオーナーはヨーロッパ大陸へと戻す前に、ボディを現在のシルバーへと完全にリペイントさせた。その後、2019年にはRMサザビーズ「Abu Dhabi」オークションに出品され、158万1250ドルで落札されている。
メルセデス・ベンツ300SLガルウィングは、誕生から60年以上を経た今でも、最もアイコニックなクルマの1つであり、現在のメルセデス・ベンツやメルセデスAMGのボディデザインやコンセプトにも絶大な影響を及ぼしている。
そのかたわら、クラシックカーラリーやツーリング、クラブイベントにも最適なガルウィングは非常に使いやすく、すべてのクラシックカー愛好家のウィッシュリストに載っている一台と断じてよいだろう。
特に今回のオークション出品車は、NSL仕様のエンジンとスポーツサスペンションを正しいかたちで残しており、コレクターにとって最も望ましいガルウィングと思われる。
このスペックと4年前の落札実績を加味して、RMサザビーズ欧州本社は125万ポンド~150万ポンド、つまり約2億2500万円~2億7000万円のエスティメート(推定落札価格)を設定していたのだが、11月4日の競売では最低落札価格に届かずに流札。
しかし「Sold After Auction」とあるように、オークション終了後に営業部門が販売に成功したようだ。