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2億円オーバーのメルセデス・ベンツ「300SL」最初の輸出先はフィリピンでした。世界をめぐった数奇なヒストリーとは

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TEXT: 武田公実(TAKEDA Hiromi)  PHOTO: 2023 Courtesy of RM Sotheby's

魅力的なオプションが、落札に直結するかと思いきや・・・・・・

RMサザビーズ「LONDON」オークションに出品された300SLは、シャシーNo.# 6500206。メルセデス・ベンツのジンテルフィンゲン工場で完成し、1956年8月18日に出荷されたのち、マニラの販売代理店を通じてフィリピンに輸出された。この国に納車された数少ない300SLのうちの1台であったことは間違いないだろう。

新車として製作された当初はライトブルーメタリック(DB353)で仕上げられ、レッドレザーのインテリアが組み合わされたが、比較的早い時期にこのクルマではもっともポピュラーなシルバーメタリックに塗り直されたと考えられている。

またオプションのスポーツサスペンションと、スポーツカムシャフトを組み込むことで最高出力を230psに引き上げた「NSL(Nockenwelle Sport Leicht)」仕様のエンジンを、新車時代から搭載していた。

1400台が生産されたガルウィングのうち、約300台がNSLエンジンとスポーツサスペンションの両方を装備したといわれている。しかし、その300台の中にはダイムラー・ベンツ社(当時)の「スポルタブルイルンク(Sportabteilung=スポーツ部門)」ファクトリーで用意された4台のガルウィングや、利用可能なすべてのアップグレードとともに製造された、29台のアロイボディ車は含まれていないとされる。

この300SLガルウィングの最初のオーナーとなったのは、マニラ在住の裕福なエンスージアスト。それ以降の歴史はドキュメントにも記されていないながらも、2007年にドイツへ輸出される前には、北米ニューヨーク州リバーデイルのコレクターによって入手されたあと、アメリカでは少なくとも1人の所有者が存在したとされる。

この間、1990年代半ばにはレストアされたとの記録があるほか、2008年には現代の無鉛ガソリンでもスムーズに動作するように、新しいシリンダーヘッドとスポーツカムシャフトでアップグレードされたとの由である。

2009年までにガルウィングはオーストリアにあったのち、英国に在住する次のオーナーはヨーロッパ大陸へと戻す前に、ボディを現在のシルバーへと完全にリペイントさせた。その後、2019年にはRMサザビーズ「Abu Dhabi」オークションに出品され、158万1250ドルで落札されている。

メルセデス・ベンツ300SLガルウィングは、誕生から60年以上を経た今でも、最もアイコニックなクルマの1つであり、現在のメルセデス・ベンツやメルセデスAMGのボディデザインやコンセプトにも絶大な影響を及ぼしている。

そのかたわら、クラシックカーラリーやツーリング、クラブイベントにも最適なガルウィングは非常に使いやすく、すべてのクラシックカー愛好家のウィッシュリストに載っている一台と断じてよいだろう。

特に今回のオークション出品車は、NSL仕様のエンジンとスポーツサスペンションを正しいかたちで残しており、コレクターにとって最も望ましいガルウィングと思われる。

このスペックと4年前の落札実績を加味して、RMサザビーズ欧州本社は125万ポンド~150万ポンド、つまり約2億2500万円~2億7000万円のエスティメート(推定落札価格)を設定していたのだが、11月4日の競売では最低落札価格に届かずに流札。

しかし「Sold After Auction」とあるように、オークション終了後に営業部門が販売に成功したようだ。

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  • 武田公実(TAKEDA Hiromi)
  • 武田公実(TAKEDA Hiromi)
  • 1967年生まれ。かつてロールス・ロイス/ベントレー、フェラーリの日本総代理店だったコーンズ&カンパニー・リミテッド(現コーンズ・モーターズ)で営業・広報を務めたのちイタリアに渡る。帰国後は旧ブガッティ社日本事務所、都内のクラシックカー専門店などでの勤務を経て、2001年以降は自動車ライターおよび翻訳者として活動中。また「東京コンクール・デレガンス」「浅間ヒルクライム」などの自動車イベントでも立ち上げの段階から関与したほか、自動車博物館「ワクイミュージアム(埼玉県加須市)」では2008年の開館からキュレーションを担当している。
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