SNS時代が導いた進化の形
ロールス・ロイス「ファントム」は2025年に100周年を迎えます。同社のデザイナーたちは、この100周年を記念して、8点のアートワークを生み出しました。ファントム100周年企画の最終回は、その着想のベースとなった新世代の顧客、SNSの台頭、そして今日のファントムについて紹介します。
テクノロジーがもたらした転機とは
何十年もの間、ロールス・ロイス「ファントム」の顧客は裕福な家庭に生まれた者、ビジネス、芸術、エンターテインメントの分野で活躍して名声を得た者のふたつに大別されていた。しかし、1970年代半ば以降、パーソナルテクノロジーの波がこのバランスを変え始めた。ホームビデオ、パソコン、携帯電話、そして最終的にはインターネットの登場により、個人が自らの意思で影響力と富を築くためのツールを手にする時代が到来したのである。
テクノロジーの進化は、人々がこれまでにないスピードで富を築くことを可能にした。加えて、すでに公の立場にあったスポーツ選手や映画スター、ミュージシャンなどの著名人たちは、自らのイメージを自らの条件で活用するようになった。
この新しい世代は、若くして自力で成功を収めた起業家たちであり、それまでラグジュアリーとは無縁とされてきた層であった。彼らの趣味は個性的で型破りであり、何よりも富や成功にとどまらず、独自の趣味や創造的なビジョン、そして個性を表現できる製品を求めていた。
ファントムVIIは、まさにそのタイミングで登場した。真のロールス・ロイスとして、このモデルはブランドの伝統的な顧客の要望と期待に完全に応える存在であった。一方で、グッドウッドに設立された新たな本拠地において、手作業で製造されたこのまったく新しい車両は、新世代が望む現代的なプロダクトでもあった。
この車両は、自動車として高い完成度を誇ると同時に、先代のコーチビルド・ファントム同様、ビスポークによる個別化を可能にする“白紙のキャンバス”としての側面を併せ持っていたのである。
ロンドンオリンピックの舞台にも
この新世代の顧客たちにとって、ファントムは人目に触れることを前提とした存在であった。そして、ソーシャルメディアの普及によって、世界中の何百万人もの人々にその姿を披露することが可能となった。YouTubeやInstagramで富を築いた者たちが、ファントムの写真や動画を投稿し、その所有体験をグローバルに発信するという循環が生まれたのである。

こうしてファントムの存在感は拡大し、授賞式やガライベントの常連となった。2012年には、3台の特別仕様車「ファントム ドロップヘッド クーペ」が、ロンドンオリンピックの閉会式にサプライズで登場した。そのうち1台のルーフが開き、ジェシー・Jがスタジアムを周回する車の周囲で歌声を披露するという演出がなされた。この記念すべき瞬間は、多くのイベント同様、何百万人もの人々のデバイスに配信され、ファントムはソーシャルメディア上でもひとつのスターとなったのである。























































