アストンマーティンの元祖V8ヴァンテージは価格高騰まっしぐら?
世界的なクラシックカー人気と、それに伴う価格高騰は、20世紀末までのマーケットではくすぶりがちだったマニアックなモデルにも波及している……、というのは、これまでにもしばしばお話ししたとおりです。先ごろ開催された世界有数の格式を誇るコンクール・デレガンス「コンコルソ・ヴィラ・デステ」に付随するかたちで、名門RMサザビーズ欧州本社がミラノ市内で「MILAN 2025」オークションを開催。出品ロットのなかには、そんな「急成長株」の1台、1985年式のアストンマーティン「V8ヴァンテージ」が含まれていました。今回はそのモデル解説と、注目のオークション結果についてお伝えします。
アストンの深淵“オスカー・インディア”ってナニモノ?
もともと直列6気筒版のみの体制だったアストンマーティン「DBS」に、5340ccの総軽合金製V型8気筒DOHCエンジンを搭載した「DBS V8」が追加されたのは、1970年のことである。ほどなく直列6気筒DOHCの「DBS/DBSヴァンテージ」は生産を終え、1970年代のアストンはV8のみの体制となった。
ところが、1972年に社主デーヴィッド・ブラウンが本業のトラクター製造ビジネスで躓いてしまったことから、アストンマーティン・ラゴンダ社の経営権は同社の熱心な愛好家であった実業家グループに委譲された。DBS V8は新たに「AM V8」と呼ばれることになり、当初組み合わされていた英「ルーカス」社製インジェクションも、翌1973年には伊「ウェーバー」社製ツインチョークキャブレターに置き換えられることになった。
ただ、6気筒時代に存在した高性能版「ヴァンテージ」は、もとよりパフォーマンスに優れたV8にはなかなか設定されなかった。だが、1977年には4連装キャブレターを大径化してパワーアップを図るとともに、エクステリアではボンネット中央のエアスクープをから「パワーバルジ」に代えた「V8ヴァンテージ(V540)」が登場。
さらに1978年秋には、V540ゆずりのボンネットや閉じたラジエーターグリルを特徴とする。初期のヴァンテージでは別体式だったリアスポイラーをテールに内包させた「オスカー・インディア」ボディに移行する。
初期のDBS時代から比べると大幅にゴージャス
スタンダードのV8サルーン(注:アストンマーティンでは伝統的に「クーペ」を「サルーン」と表記)でもこの仕様は選択可能となった。このアグレッシヴな新ボディは、「10月発売」を意味する社内開発コードネーム「O.I.」をアルファベットのイニシャルとして編み出した「オスカー・インディア(Oscar India)」という、いささか奇妙なニックネームが命名されていた。でもそのかたわらで、数多くの改良により全モデルにおいて豪華さや洗練度、パフォーマンスが大幅に向上することになる。
とくにハイスペックな「V8ヴァンテージ」モデルでは、5340ccのクアッドカム(DOHC)V8エンジンへの再チューニングを実施。スペックは当時のアストンマーティン社の慣例に従って未公表ながら最高出力で40%、最大トルクは10% 向上したと主張されていた。
また、独ZF社製の5速マニュアルトランスミッションと、リミテッドスリップディファレンシャルが標準装備された。いっぽうで、「KONI」社製のダンパーと大型のアンチロールバーにより、サスペンションも強化された。
そして、エクステリアでは補助ライトつきのクローズドフロントグリル、フロントバンパー下の深いエアダムスカートにくわえて「Vantage」のバッジも装着。インテリアでは、ビニール製のダッシュボードカバーと布製のヘッドライニングがレザーに交換されるなど、初期のDBS時代から比べると大幅にゴージャスさを増していたのだ。