3年を費やした精緻な作品「ブガッティ・カランドル」誕生
ブガッティは、Jacob & Co.(ジェイコブ)およびクリスタルメーカー・ラリックとの3社協業により、テーブルクロック「ブガッティ・カランドル」を発表しました。3年におよぶ研究開発を経て製作された特別な工芸品を見ていきます。
名車をオマージュした繊細なデザイン
「ブガッティ・カランドル」は、Jacob & Co.(ジェイコブ)がブガッティの1世紀にわたる象徴的デザインを精緻な時計芸術として昇華させた。そこにラリックが製作したクリスタルケースが組み合わさることで革新的な未来像をも融合している。
まずJacob & Co.は、伝説的なブガッティ「タイプ41ロワイヤル」に着想を得て、2体の「踊る象(ダンシング・エレファント)」を精緻に造形。これらはエットーレ・ブガッティの弟であり著名な彫刻家であったルンブラン・ブガッティへの芸術的オマージュである。
カランドルという名称は、ブガッティの馬蹄形グリルへの賛辞でもある「ラジエーターグリル(フランス語でcalandre)」を意味する。グリルの上部には、世界中の愛好家やコレクターに広く知られる深紅の「ブガッティ・マカロン」エンブレムがあしらわれている。
そして馬蹄形グリルの奥には、垂直型フライング・トゥールビヨン機構を搭載した時計ムーブメントが組み込まれており、「トゥールビヨン」との関連性を強く意識した設計となっている。
ブガッティの情熱を宿す30mmの赤色宝石
中心に配された垂直型フライング・トゥールビヨンは、時計やクロックが一定の垂直姿勢で設置されることを前提として、重力の影響を軽減し精度を高める目的で考案された機構(重力分散装置)である。手巻きキャリバー「JCAM58」は、8日間のパワーリザーブを備え、時刻の調整および巻き上げは、時計背面に設けられたキー穴に専用のキーを差し込むことで行う。
さらなる独自性として、Jacob & Co.のハイジュエリーの精神を体現する象徴的存在が、上部にあしらわれた30mmの赤色宝石である。その色彩はブガッティ・マカロンの象徴色で、重量感と存在感は「ジェイコブ・カット」と呼ばれる独自かつ特許取得済みのカットによって際立っている。288面体でありながら、ほぼ球形を成すこのカットは、他に類を見ない美的価値を創出している。
職人の手仕事が息づくクリスタルケース
クリスタルケースはフランス東部ヴィゲン=シュル=モデールのラリック工房で、熟練職人の手により製作されている。1922年創業のこの工房では数十年にわたり洗練され続けてきた伝統技術が受け継がれており、その透明度と輝きは他の追随を許さない。
溶融したクリスタルは鋼製の鋳型に流し込まれ、冷却されて固形化される。透き通るような純度と内部の光の反射により、作品の細部までが鮮明に浮かび上がる。鋳造後には、数カ月をかけて職人たちがひとつひとつの面を研磨・仕上げしていき、凍りつくようなマット仕上げと、輝きを放つポリッシュのコントラストが作品に深みと立体感をもたらす。
ルネ・ラリックはキャリアの初期にジュエラーとして活動しており、ジェイコブ・アラボ同様に貴金属を扱う芸術家であった。後に独自の製法を発明し、ガラス工芸家へと転身。数々のカーマスコット(ボンネットオーナメント)やクロックを制作してきた。そのなかでも、2体のフィギュリンがダイヤルの左右に対称に配置されるデザインはラリックの代表的意匠であり、ブガッティ・カランドルにも踏襲されている。
AMWノミカタ
ルネ・ラリックとエットーレ・ブガッティには興味深い共通点が存在する。両者ともフランス東端のアルザス地方出身ではないがこの地に工房を構え、互いにわずか45kmの距離に位置していた。。産業的な土壌に恵まれたこの地域に、両者は職人技術の核心を見出したのである。さらに彼らは100年以上前に創設され、後に二つ星レストランとなった「クロ・サント・オディール」の共同経営者でもあった。
ブガッティ・カランドルは単なるコレクターズアイテムにとどまらず、Jacob & Co.とブガッティがいかにして高級時計製造と芸術的クラフトマンシップを融合させようとしているかを象徴する、極めて意義深い作品である。ブガッティの高級車インテリアを思わせる、特製タンレザー製トランクに収められたこの卓上時計は、まさにラグジュアリー、デザイン、そして革新の結晶であり、3つのブランドの精神を体現している。