自動車リテラシーより感性に訴えかけるクルマ
レーシングドライバーであり自動車評論家でもある木下隆之氏が、いま気になる「key word」から徒然なるままに語る「Key’s note」。今回のお題は日産の新型「ルークス」。購買行動を徹底的に読み解き、来店した瞬間に心をつかむ“かどまる四角”の統一デザインと、「見えルークス!あがルークス!」という覚えやすいキャッチコピーで一気に印象づけています。
軽自動車ユーザーの商談は短期決戦型?
日本自動車工業会の2023年乗用車市場動向調査によると、軽自動車を選ぶユーザーには共通の特徴があるという。彼らは情報収集に熱心ではなく、クルマへの感度も低めだ。つまり、スペック表をじっくり眺め、燃費や排気量を天秤にかけるのではなく、知名度とイメージ、フィーリングで即断する傾向がある。
販売店に足を踏み入れた瞬間、まず目が行くのはデザイン。次に価格、そしてグレードの選定へと移る。不思議なことに、ここまででほとんど購入は決まっている。頭の中で小さな購入の旗が立ち、心はすでにドライブモードなのだという。
対照的に、普通車ユーザーはデザインと価格で候補を絞り込んだあと、燃費やサイズ、積載性などをじっくりと吟味する。
軽自動車の購入は、まさに短期決戦。実際に、平均検討期間は普通車が3カ月であるのに対し、軽自動車は1カ月にすぎない。店舗訪問も、普通車ユーザーが1店舗で済ませるのが58%に対し、軽自動車ユーザーの73%が単一の店舗で決める。情報より直感、熟慮よりひと目惚れ。短期決戦型の名は伊達ではない。
日産ルークスが放った起死回生の一打
この傾向を徹底的に分析し、軽自動車市場に起死回生の一打を放ったのが日産の新型ルークスである。ホンダ、スズキ、ダイハツに比べ、軽自動車への参入が遅れた日産は、知名度で一歩遅れを取っていた。しかし、その分逆転の発想は大胆かつユニークだ。
デザインには「かどまる四角」というキャッチフレーズが冠され、ボディフォルムのみならず、ヘッドライトやコンビランプ、ドアハンドル、ホイールに至るまで、徹底的に角を丸めた四角形が散りばめられている。インテリアもまた、フロントガラスまわりの縁取り、シート生地のエンボスに至るまで、隙のない統一感がある。あまりの徹底ぶりに、思わず笑ってしまうほどだ。眺めているだけで心が躍るこの「かどまる四角」の妙技が、来店したユーザーの心を軽やかに刺激したとしたら、まさに計算どおりといったところだろう。
マーケティングもユニークだ。キャッチフレーズは「見えルークス!あがルークス!」。簡潔かつ力強く、言葉がそのまま身体に跳ね返ってくるようだ。
「角の先まで見えルークス!」
「床の下が見えルークス!」
「大きい画面が映えルークス!」
「外から見ても映えルークス!」
「荷物がたくさん積めルークス!」
「足元広々伸ばせルークス!」
いやはや、ここまでくると、見ているだけでも楽しい。
だが、ただのショーアップではない。走りにおいても、軽自動車の短期決戦型ユーザーを満足させる工夫が満載だ。乗り心地は穏やかでありながら、軽快な加速感と適度な旋回性能を両立させ、誰もが扱いやすいように調整されている。ユーザーを徹底的に分析した痕跡が随所に見られるのだ。
軽自動車というジャンルにおける日産の起死回生の一打は、もはや場外ホームランの予感すら漂う。
















































