イタリアのスーパースターのためにワンオフ製作された漆黒のマルティーニ5
このほどブロードアロー・オークションズ社「Zoute Concours」オークションに出品されたデルタHFインテグラーレ エヴォルツィオーネ、シャシーNo.#568520 は、いわゆる「エヴォ1」のなかでも格別のヒストリーを持つ個体である。
WRCで5年連続のタイトルを獲得したことを記念して限定販売された「マルティーニ5」と同等の内外装スペックを奢られつつも、デフォルトの白ではなくブラックのボディカラーをまとう。じつは、イタリアでは「ロックの王様」とも呼ばれた国民的スター、ヴァスコ・ロッシのために作られた一品製作のスペシャルカーである。
このデルタは、「Signor Vasco Rossi c/o Le Furie SRL(レ・フリエ有限会社内 ヴァスコ・ロッシ様)」をあて先として発行された、当時の公式ドキュメントのコピーによって、ロッシの音楽出版会社である「レ・フリエ有限会社(Le Furie SRL)」に新車として納車されたことが確認されている。1992年5月16日にボローニャで初めて登録され、1994年にロッシのレコードレーベルである「Giamaica」名義で再登録された。
その代表曲たる「Vita Spericolata」や「Vivere」にくわえて、強烈なエネルギーと反骨精神で知られるヴァスコ・ロッシの個性は、彼の愛車となったデルタにも反映されている。ロッシ自身の要望により、ランチアのディーラーを介した特別オーダーで、マルティーニ5のリバリーを黒ボディと組み合わせたうえに、外装色に合わせたブラックのアルカンターラ内装で特別にアップグレードされた。センターコンソールには「Lancia Delta HF Integrale allestita per Vasco Rossi」と刻まれたオリジナルの銘板が今なお取り付けられており、このデルタ・エヴォ・スペシャルが、間違いなくヴァスコ・ロッシの所有物であったことを裏付けている。
2006年、このエヴォ1はイタリア国内のランチア デルタ愛好家の手に渡ったのち、約15年間にわたり入念に手入れされた。その後はドイツに渡り、現在の所有者が同国ノルトラインヴェストファーレン州ランゲンフェルトに本拠を置く著名なスーパーカースペシャリスト「モデナ・モータースポーツ」社に大規模な修復を依頼した。その際の作業については、詳細な請求書が保管されている。また、オークションの公式カタログ作成時点での走行距離計はわずか6万8535kmを示し、見事なコンディションを保っている。
今回出品されたランチア・デルタHFインテグラーレ エヴォルツィオーネについて、ブロードアロー・オークション社では希少性と歴史的な価値の高さをアピールするいっぽうで、12万ユーロ~18万ユーロ(邦貨換算約2136万円〜3204万円)という、インテグラーレ エヴォとしてもかなり強気のエスティメート(推定落札価格)を設定した。
そして迎えた10月10日のオークション当日。ベルギーのビーチリゾート、ノッケ・ハイストのゴルフ場敷地内の特設会場で開催された競売では、エスティメート上限を2万ユーロ以上も上回る20万1250ユーロで落札された。現在のレートで日本円に換算すると約3530万円である。
このハンマープライスは、現在のマーケットにおけるエヴォI「マルティーニ5」、およびエヴォⅡ時代の「マルティーニ6」の相場価格よりもかなり高価なものだ。ワンオフ車であることによる希少価値に加えて、「元ヴァスコ・ロッシの愛車」というヒストリーが価格にも反映されたと見るべきであろう。
































































































