92年唯一のコスワース製V8エンジン搭載
F1の転換期となる最後のHパターン勝利車
ベネトンの名は2001年シーズンをもって、F1GPの歴史の中だけに語られる存在となった。1995年よりワークスエンジンサプライヤーを務めていたルノーが、2000年にチームを完全買収したことによるものだ。しかしシューマッハが1992年のベルギーGPで優勝したマシンは、ルノーによるチーム買収後もエンストーンの本社に保管され続けた。
このマシンは2015年まで「ルノー・スポールF1」クラシック部門コレクションの一台として保存されていた。その後、1990〜2000年代のF1マシン運用を専門とするローレン・レドン氏が運営する「LRSフォーミュラ」に、ほかの2台のベネトンF1シャーシとともに売却されている。レドンの名は、熱狂的なレースファンには馴染みがあるかもしれない。1995年にフランスF3でチャンピオンを獲得したフランス人ドライバーで、1998年にミナルディ、1999年にはベネトンでテストドライバーを務めた経歴を持つ。
レドン氏の署名が入った2024年付の販売証明書によれば、B192-05はLRS管理下でシャーシのオーバーホールと、フォード・コスワースHB6のワークスエンジン(!)およびギアボックスのリビルドを経て完全修復され、走行可能な状態に復元されている。2016年後半には、現代F1マシンのコレクターにしてアマチュアレーサーとしても知られる現オーナーの手に渡った。
現代において「象徴的」という言葉はその重要性を強調するために濫用されがちだが、このマシンに修飾語はほとんど必要ない。B192-05は、ミハエル・シューマッハがF1初優勝を遂げたベネトンであり、セナ、マンセル、ハッキネンら錚々たる名手たちを、モータースポーツでもっとも過酷なサーキットと条件のもとで打ち負かしたマシンなのだ。しかもこの年、V8エンジンを搭載していたのはベネトンだけで、他チームはV10、もしくはV12エンジンが主流であった。
今回出品にあたり、ブロードアロー・オークション社は次のように謳っている。「現役引退後おそらく初めて一般公開されるB192-05は、シューマッハの才能とベネトンの明確なエンジニアリング、直感が一致し、王朝が始まった転換点を体現している。コレクターにとってこれは、単にシューマッハ時代のベネトンを手に入れる機会ではなく、F1GPが方向転換したまさにその瞬間を確かなものにする機会だ。」

オークションは昨今の高級競売で超高額商品に用いられる「Value in Excess」形式を採用した。通常の推定落札価格を設定せず、歴史的価値を鑑みた850万ユーロ(約15億6000万円)をスタート額とする特別な競売形式だ。
ところが1月23日に始まったオンライン入札は、期待されたほどには盛り上がりを見せなかった。1週間後の1月30日、締め切りに至っても現オーナー側が設定した最低落札価格には届かず、流札に終わった。
その後、「Estimate Available Upon Request(見積価格はお問い合わせください)」という文言とともに、ブロードアロー・オークションズ営業部門による個別販売に継続されたが、現在では508万2000ユーロ(約9億2500万円)で売約済みとなっている。
非力なフォード・コスワースHB(ハーベー)V8エンジンながら、コンパクトゆえに低重心で空力特性にも有利に働いたパッケージングの妙ともいえるベネトンB192は、Hパターン・マニュアルトランスミッションを搭載して優勝した最後のF1マシンと言われている。この歴史的にも転換点にあり、「勝利の方程式」を導き出したこのマシンの価値は、売約済みとなった価格以上にあるような気がするのだが、皆さんはいかが思うだろうか。
※為替レートは1ユーロ=182円(2026年3月3日時点)で換算























































