930型ポルシェターボで特別なフラットノーズ
最強935をオマージュした過走行車の価値とは
1970年代から始まるターボ車の歴史のなかでも、特別な存在感を放っているのがポルシェ「911ターボ」ではないでしょうか。今回はそのなかでも熱狂的な人気を誇る特注モデル「フラットノーズ」のオークション結果をお届けします。極上の内外装を保ちながらも、なぜ最高3680万円の予想価格に対し「落札ならず(流札)」という結果に終わってしまったのでしょうか。やはり16万km超という気になる走行距離数が明暗を分けてしまうという、クラシックカー市場「あるある」な現実をご紹介します。
実用車を凶暴スポーツカーへ変えるターボ技術 1975年登場した最強スペックのポルシェターボ
ターボチャージャーというメカニズムが、ロードカーの世界で用いられるようになったのは、1960年代を迎えてからのことだった。最初にターボエンジンを搭載したモデルは何かという議論には諸説があるが、GMのオールズモービルが1962年モデルに設定した「F-85 ジェットファイア」、あるいはそれにわずかに遅れて、やはりGMのシボレーから発表された「コルヴェア モンツァ スパイダー」あたりが、もっとも古いターボ車だろうか。この両モデルはいずれも1立方インチあたり1psの最高出力を実現している。
一方、ヨーロッパでは、ターボ車の登場は1970年代まで待たなければならなかった。1973年にBMWが「2002」シリーズでターボエンジンを採用し、その後の1977年にはサーブが「99」シリーズにそれを投入。それまでただの実用車としか考えられていなかったモデルを、一瞬でスポーティなキャラクターに変化させるターボの存在は、とても魅力的に映ったはずだ。とくにレースとも伝統的に密接なつながりを持つ、ポルシェというメーカーにとってはなおさらである。
1975年パリサロンで登場した930ターボ誕生!
さらにポルシェ935成功からリクエストを受けた
実際にポルシェは1960年代の後半にはターボの基礎研究に着手し、1970年代を迎える頃には「930」のプロジェクト コードのもとで、当時FIAによって24カ月間に400台以上の生産が義務づけられていた、グループ4車両の公認を得るための新型車の開発をスタートさせている。その結果誕生したのが、1974年のフランクフルト ショーでまずプロトタイプが、そして翌1975年のパリ サロンで生産型が正式に発表された「911ターボ」(930ターボと呼ばれることも多い)で、ここに現在にまで続く911ターボの歴史は幕を開けたのである。
911ターボに最初に搭載されたエンジンは3Lの水平対向6気筒ターボで、最高出力は260psだったが、グラマラスなリアフェンダーや大型のリアウイングなど、その独特なアピアランスとともに、それは紛れもなきスーパーカーだった。1978年にはさらなる高性能化のために排気量を3.3Lに拡大し、インタークーラーを追加したことでリアウイングのデザインも改められた。初代(930型)911ターボの生産は1989年まで続くが、最終の1989年式ではミッションも4速MTから5速MTに進化している。
ちなみにポルシェが4速に拘ったのにはいくつか理由がある。ひとつは当時のポルシェの主流だった「915型」と呼ばれる5速MTは、ターボの強大なトルク(回転力)を支えるにはギアが強度不足だったためターボ専用にギアの歯を太く、大きく設計した「930型」4速MTを開発。結果、ギアひとつひとつを大きく頑丈にした結果、ミッションケース内のスペースが不足し、5速分を詰め込むことが物理的に困難だったのだ。ふたつめの理由は設計思想にあり、当時のターボは「ドッカンターボ」と呼ばれ低回転ではパワーが出ず、特定回転数から一気に加速する特性だった。このため、頻繁にシフトチェンジをしてブースト(過給圧)を落とすよりも、ひとつのギアで引っ張るスピード域を長く設定する方が、結果として速く、扱いやすいと判断した。また、過酷なスポーツ走行におけるトランスミッションの過熱防止や軽量化にも寄与しており、「4速で十分な性能を発揮」という、当時のポルシェのエンジニアリングに対する自信の表れでもあった。
今回ボナムスのパリ オークションに出品されたフラットノーズの911ターボは、ポルシェがグループ5車両としてサーキットに投じていた「935」の成功を受けて、そのロードバージョンを求めるカスタマーのリクエストに応える形で誕生したものだ。ポルシェのエクスクルーシブ マヌファクトゥール プログラム(ポルシェのファンにとってはゾンダーヴンシュと書いた方が分かりやすいかもしれない)が用意したオプション パッケージを装着し、935と同様のフラットノーズスタイルを実現した。
実際にはこのパッケージにはワイド化されたリアクオーターパネルや、サイドストレーキ付きの新しいブレーキ冷却ベント、オイル冷却用の電動ファンなども含まれており、タイヤとホイールもスタンダードな911ターボよりワイドな設定となる。
純正930ターボでは最強価値のM506WLS仕様
ポルシェ製メーカー純正チューニングパッケージ
911ターボ フラットノーズは、1981年から「M505」(アメリカ向け)、「M506」(その他地域向け)のオプションコードを掲げて生産が開始されるが、総生産台数は948台であったと記録されている。このなかで788台が該当するM506には、330psの最高出力を発揮させる(スタンダードモデルは300ps)WLSパフォーマンスキットが搭載されていた。ポルシェ930ターボにおけるM506「WLS(Werksleistungssteigerung / 工場パワーアップキット)」は、1980年代にポルシェのエクスクルーシブ(特注部門)が提供した、究極のメーカー純正チューニングパッケージだ。つまり市販されているポルシェ製純正930ターボの中では、最強スペックを誇るクルマがこのM506WLS仕様というわけだ。
ちなみにポルシェ911のフラットノーズ化は、ご存知のように最強の911といえるレーシングカー935の開発に端を発する。935開発中に問題となったのは、市販の911のスタイルのままでは大きな丸型ヘッドライトが直立し、大きな空気抵抗(ドラッグ)を生んで目標の性能に至らない。そこでライトを廃してノーズを低く平らにすることで、最高速度の向上を図った。しかもこの低いノーズはフロントを地面に押し付ける力(ダウンフォース)を生み、コーナリング性能も劇的に高めたのだ。
さて、パリ オークションのステージに導かれた911ターボ フラットノーズは1986年式M506で、新車でスウェーデンのカスタマーに納車された後、現在までに16万9902kmを走行している。ボナムスはこのモデルに17万5000〜20万ユーロ(邦貨換算約3220万〜3680万円)のエスティメートを提示したが、今回は残念ながら落札には至らなかった。
グランプリホワイトのボディも、そしてスペシャルオーダーのキャンキャン レッドの素晴らしいしつらえのレザーインテリアも十分に魅力的なコンディションであり、サービスブックも備えられていたのだが、やはり我らが求める市中の中古車と同様に「過走行」という障壁が、スーパーカーにとっても大きな問題となったのかもしれない。
※ボナムズから提供されたこのM506車両の写真だが、お気づきの方もいると思うが、ボンネットフードが半開きなのはご容赦いただきたい。
※為替レートは1ユーロ=184円(2026年3月11日時点)で換算























































































