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3輪サイドカーレースの最高峰『F1』カテゴリーを現役で走る「KUMANO LCR GSX-R1000」は世界的に著名な熊野氏設計の1988年製マシン!!

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TEXT: 佐藤 圭(SATO Kei)  PHOTO: 佐藤圭(SATO Kei)/日本レーシングサイドカー協会

  • KUMANO LCR GSX-R1000:エンジンは国内では排気量が1000cc以下と定められており、写真の車両はスズキのGSX-R1000用を搭載する。チューニングは耐久性を重視
  • KUMANO LCR GSX-R1000:エキマニのレイアウトは自由度が高い。4輪のチューニングパーツでもお馴染みのステンレス製で、スプリングを使った差し込み式だ
  • KUMANO LCR GSX-R1000:4輪レースのF1用をベースにモディファイした特注品のダンパー。別タンクはなくスプリングもシングルというごくシンプルな設計だ
  • KUMANO LCR GSX-R1000:パッセンジャーが乗車する部分はプラットフォームと呼ばれる。この上で姿勢を変えつつマシンにかかる荷重をコントロールするのだ
  • KUMANO LCR GSX-R1000:2024年から供給が始まり、実質的にワンメイクとなったフージャーのタイヤ。タイヤの直径は3輪すべて13インチと定められている
  • KUMANO LCR GSX-R1000:ダブルウイッシュボーン式と似た形状のサスペンション。フロントアーム上部はロッドエンドベアリングでキャスター角の変更が可能
  • KUMANO LCR GSX-R1000:マスターシリンダーはフロント用とサイドおよびリア用のふたつがあり、手元のダイヤルでドライバーが走行中にバランスを調整する
  • KUMANO LCR GSX-R1000:コクピットに取り付けたデータロガーは、4輪のレースでも愛用者が多いAIM製。ドライビングの分析と向上には欠かせないアイテム
  • KUMANO LCR GSX-R1000:カウルを外すとエンジンの位置や排気系のレイアウトが理解できる。次回はマシンを操るドライバーとパッセンジャーの技術を解説!
  • KUMANO LCR GSX-R1000:サイドカーレースの最高峰F1クラス。排気量や車重のほか、全長3300㎜以下、全幅1700㎜以下、全高800㎜以下との規定もある

変わらぬレギュレーションと天才熊野メカニズムが、古いサイドカーでも高い戦闘力を現役で保持!?

独自の道を歩み続けてきたのは、オートバイから派生したサイドカーによるレースです。前回は大まかな歴史と時代によるマシンの変遷、日本で開催されているカテゴリーを紹介させてもらいました。そして今回は日本レーシングサイドカー協会の事務局としても活動する、冨本至高さんの愛車「KUMANO LCR GSX-R1000」を紹介します。世界選手権のレギュレーションに準じた「F1」カテゴリー仕様に仕立て、アルミモノコックフレームにミッドシップにエンジンを搭載した軽量ハイパワーで効率的なパッケージングです。製作は1988年と古いのですが、今も世界選手権で走っていた当時と同じ姿でレースが行われているサイドカーならではの面白さが凝縮されています。

アルミモノコックとミッドシップが生む世界選手権仕様パッケージは、世界で戦った熊野イズムそのもの

世界選手権のレギュレーションに準じたサイドカーの「F1」カテゴリーでは、人間の骨格に相当するフレームにアルミモノコックを採用し、排気量1000cc以下のエンジンをリアミッドシップに搭載する。低く空気抵抗を抑えた流線型デザインのカウルを纏い、最低重量は225㎏という規定の中で行われている。

現在のスタイルが確立されたのは1980年代だが、今も世界選手権ではこの姿のままレースが行われている。冨本さんのマシンが製作されたのは1988年で、当時は2ストローク500ccのエンジンを搭載し、世界選手権やドイツ選手権で使用された。レギュレーションに大きな変化がないことも要因しているが、常に最新の規定が改変され、ベース車両がそのたびに新たに求められる4輪や2輪のレースと違い、古いマシンで頂点を狙える点はサイドカーレースの醍醐味といえるし、他カテゴリーも見習うべきところが多々あるのではないかと考えさせられる。

フレームは日本のサイドカーレース界におけるレジェンド、熊野正人氏(プライベートで世界選手権に参戦し、表彰台に上がるなどその功績は筆舌に語れぬほど)が製作したものでアルミ合金の超々ジュラルミン製だ。サスペンションアームなど大きな負荷がかかる部分には、より高強度な鋼鉄系の素材でバルクヘッドを設けており、小型の航空機と同じく接着剤とリベットで接合される。

常識から逸脱したサイドカー設計から生まれた最もバランスの取れた戦闘力あるマシンレイアウト

エンジンはスズキのGSX-R1000用で、2006年式だ。20年前と聞くと古く感じられるが、2輪のレースで数々のタイトルに輝いた名機である。また最新のエンジンの多くがショートストロークなのに対し、こちらは豊かなトルクを発生するロングストロークのため、2輪より車体の重いサイドカーとの相性が抜群だという。

エンジンは独自のチューニングで最高出力は200ps超えを狙えるものの、国内のレース環境から出力よりも耐久性を重視している。そのため内部パーツのコーティングやポート研磨、ヘッド面研など基本的なメニューに留めている。

搭載は車両規定に沿ってリアミッドシップで、ドライバーのすぐ後方にエンジンが置かれ、マフラーは前方、すなわち前輪の後ろ近辺から排気する構造だ。このレイアウトを考案したのはフレームの製作者である熊野氏で、当初こそ異端だったが現在はこの仕様が世界的にもサイドカーの世界ではスタンダードとなっている。エキゾーストマニホールドはトルク重視の4-2-1タイプで、素材はマフラーを含め4輪でもよく使われるステンレス製だ。

F1由来ダンパーから特殊ブレーキまで独自の走行セッティングを生む足まわりが戦闘力保持の証拠

フロントサスペンションは4輪でいうダブルウイッシュボーンに近いが、レギュレーションにより90°変形させたような形状となる。リアはマシンの年式によって、リンクを介してモノコック内のユニットに繋ぐタイプと、アームに直接取り付けるタイプの2種類があり、冨本さんのマシンは前者だ。ダンパーはもともと4輪のF1用をベースにした特注品で、走行中に大きな姿勢変化を起こさないよう硬いスプリングが装着される。

タイヤサイズはホイールリムの幅で見ると、フロントが8.2または9.2インチの13インチ径、リアとサイドが11インチ幅の13インチ径だ。銘柄は長年にわたりイギリスのエイボンが供給してきたが、2023年末をもって生産を終了し、アメリカのフージャーに切り替わった。なお空気圧は2輪や4輪よりかなり低く設定されており、温間で1.1bar前後が標準とのことだ。また、エイボンからフージャーへ切り替わった後はコンパウンドがハードのみとなっている。

ブレーキはAPロッキード製で、1980年代のフォーミュラカーやミニクーパーのレースカーで使われていたものを流用しており、ハンドルのレバーではなくフットペダルでコントロールする。面白いのはマスターシリンダーが2つ存在する点だ。ひとつはフロント用、もうひとつはサイドおよびリア用で、手元のダイヤルをドライバーが走行中に操作してブレーキバランスを調整する。ドライ路面ではフロント重視のセッティング、グリップの低いウエット路面では3輪を均一にするなど、この味付けもドライバーの腕の見せどころといえる。

モノコックを覆うカウリングは軽量かつ強度があるケブラー繊維のFRP製で、「ニーラー」と呼ばれる膝をついたような姿勢で乗車するドライバーを包み込む。エアロパーツで装着が認められているのはアンダーパネルのみで、最近では市販の2輪車でも見かけるウイングレットは禁止だ。パッセンジャーが乗車するプラットフォームは、ドライカーボンで成型された板に近い形状をしている。

4輪や2輪のモータースポーツを経験した人が驚くのは、パッセンジャーもドライバーもハーネスのような落下防止装備がない点だ。器具で身体を固定すると落車したときに引きずられ、より危険な事態になる可能性が高いからだという。またドライバー側はエンジンを停止させるスイッチをワイヤーなどで身体に引っかけ、無人のマシンがコース内を暴走しないよう対策している。

もっと詳しくマシンを知りたくなった人は、冨本さんが発行する小冊子を読んでみよう。購入は販売サイトで。

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  • 佐藤 圭(SATO Kei)
  • 佐藤 圭(SATO Kei)
  • 1974年生まれ。学生時代は自動車部でクルマ遊びにハマりすぎて留年し、卒業後はチューニング誌の編集部に潜り込む。2005年からフリーランスとなり原稿執筆と写真撮影を柱にしつつ、レース参戦の経験を活かしサーキットのイベント運営も手がける。ライフワークはアメリカの国立公園とルート66の旅、エアショー巡りで1年のうち1~2ヶ月は現地に滞在。国内では森の奥にタイニーハウスを建て、オフグリッドな暮らしを満喫している。
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