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ホットロッドのおもちゃではなくアート作品!? カスタム・カルチャーの天才ビルダー「エド・ロス」の奇抜過ぎる傑作「ワゴン」3台

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TEXT: 武田公実(TAKEDA Hiromi)  PHOTO: Bonhams  FACT CHECK: 山本 亨(YAMAMOTO Tohru)

ホットロッド界の天才ビルダーが手掛けた3台の奇抜なマシンが競売に登場

アメリカ・ネヴァダ州の「ナショナル・オートモビル・ミュージアム」で開催されたボナムズ社のオークションにて、北米ホットロッド文化の牽引者であったエド・ロス氏が手掛けた3台の乗り物が出品された。一般的な自動車の枠組みを完全に逸脱し、おもちゃやアート作品のような独自の個性を放つ3作品のディテールと、事前の予想を大きく上回った驚きの落札結果を紐解いていく。

カスタムカー文化を牽引した稀代のアーティストの生い立ちを振り返る

われわれ日本人が「ビッグダディ」と聞けば、TVでの破天荒な言動でお茶の間の人気を得た大家族の父親を思い出すかもしれない。しかし、かつてのアメリカではカスタムカーのデザイナー兼ビルダーであり、クルマのボディにサイケデリックなグラフィックを施すピンストライプ製作者、エド「ビッグダディ」ロス(Ed “Big Daddy” Roth 1932年 – 2001年)のことを指す。

1932年3月、カリフォルニア州ビバリーヒルズにて生を受けたエドは、ティーンエイジャーだった頃に初の愛車となるフォード「モデルA」の改造を施したのを皮切りに、1960年代にはアメリカのホットロッド文化を象徴するような傑作を数多く手がけている。4輪車のみならず、2輪のチョッパーや3輪のトライクでも、自らスタイリングを手掛けた奇抜かつ芸術性の高い作品を多数生み出した。

彼の創るホットロッドやチョッパーが特別なものとなった理由は、アーティストとしての圧倒的な才能にある。作品に施すグラフィックから派生した芸術性は、漫画家やイラストレーターとしても花開くことになる。

緑色の体に「RF」のレターが入った赤いシャツ、ギョロっと飛び出て血走った目と無数の牙を持つ不気味なネズミ。アメリカのアウトローなホットロッダーにとってはミッキーマウスにも比肩するキャラクター「ラットフィンク」の生みの親として、2001年に逝去したのちもレジェンドとして崇拝されているのだ。

そんな彼がアーティストとしての側面をフルに生かしてワンオフ製作したのが、今回「The National Automobile Museum Auction」に出品された3台である。

ガソリンエンジンを搭載した奇想天外な「手引きワゴン」改造車に1000万円超え!

ガレージのピット内で工具を積んで引っ張る、あるいはアウトドアで子どもを乗せるなど万能な使い方をされる「ワゴン」は、日本でも人気の「ラジオフライヤー」をはじめ、アメリカ文化を象徴するアイテムのひとつとして認知されている。エド・ロスは、この小さなワゴンにガソリンエンジンを載せて自走可能とする奇想天外なアイデアを実現させた。

1992年に製作された「ロス・コネストーガ・スターワゴン」は、市販のワゴンに1psを発生するブリッグス&ストラットン社製の空冷単気筒エンジンを搭載している。芝刈りトラクターから転用したリアアクスルはノンサスペンションながら、機械式のディスクブレーキが与えられた。フロントサスペンションは、シボレーのビッグブロックV8エンジンのバルブスプリングから転用したコイルスプリング付きのリジッドアクスルで、ゴーカート用のタイヤが装着されている。

リアのエンジン上にはレーシングカーのようなウイングも設けられているが、これはあくまでスタイリング上のものであり、ダウンフォースを期待したものではない。しかし、身長193cmの体躯を誇る彼は、そのウイングに座って運転したという逸話が残されている。1992年の「オークランド・ロードスターショー」では「世界でもっとも美しいワゴン」賞を受賞した。

ボナムズ社は1万8000ドルから2万4000ドル(邦貨換算約292万〜389万円)のエスティメート(推定落札価格)を設定したが、実際の競売ではビッド(入札)が伸び続け、終わってみれば最高値の3倍以上に相当する7万2800ドル(邦貨換算約1180万円)で落札された。

また、翌1993年に発表された「ヤンキーブリッツ」は、「エース・ハードウェア」社製のバケット手押し車をボディおよびシャシーとし、空冷単気筒3psエンジンを搭載している。フロントサスペンションは1929年式フォード モデルAのホットロッドをモデルとしつつ、大幅にサイズダウンされた。こちらの個体も事前の予想をあっという間に超越し、最終的に7万8400ドル(邦貨換算約1270万円)で競売人の小槌が鳴らされている。

6輪F1マシンに影響を受けた5輪スクーターが予想を遥かに上回る高値で落札の驚愕

同オークションには、さらにもうひとつ奇抜なパーソナルモビリティが出品されていた。「ロス・フィンクモービル・モーターサイクル」である。

エド・ロス氏は、生前に次のように語っていた。

「フィンクモービルは、個人用車両の未来を予見して製作されたものです」

強い自信とともに生み出されたこのスクーター状の5輪ビークルには、彼の代名詞でもあるキャラクター「ラットフィンク」のイメージも明瞭に投影されている。

シングルの後輪を回すのは、1980年代のホンダ製スクーター「エリート150(日本国内で販売された『スペイシー125ストライカー』の輸出仕様)」に搭載されていた149ccの水冷単気筒エンジンと無段変速機だ。いっぽうの前4輪は完全オリジナルで、前後二連のリジッドアクスルに4つの操舵輪を備え、V8エンジン用のバルブスプリングでサスペンションが構成されている。当時を知る者の証言によると、1976年シーズンのF1グランプリを戦った6輪マシン、ティレル「P34」に影響を受けたともいわれている。

「フィンクモービルは、前輪4輪のステアリングにより安全な旋回が可能で、フロントの『ナーフバー(バンパー)』はフットレストの役割も果たしています。ボディの製作にはファイバーグラスを用い、ホンダの小型150cc水冷4ストロークエンジンはそのまま残しました」

車両をミュージアムへ寄贈した際の解説文からは、奇抜な見た目に反して実用性にも配慮していた真摯な姿勢がうかがえる。

ボナムズ社は「ラットフィンクの扮装で操縦するような勇気のある人にとっては、是非とも乗ってみたくなるような1台」とアピールし、1万8000ドルから2万4000ドル(邦貨換算約292万〜389万円)のエスティメートを設定した。結果は、現在のレート換算で約1363万円(8万4000ドル)という驚きの高価格で落札されている。

リザーヴ(最低落札価格)を設定しない競売形式をとっていたが、結果として予測を大きく上回るビッグディールをもたらした。これらが評価された主因は、自動車としてではなく「アート作品」としての側面にほかならない。現代において「ラットフィンク」のオリジナルグッズやポスターは、世界中のアートコレクター間で高額取引されるヴィンテージアイテムとして確固たる地位を築いている。

生みの親であるエド・ロス本人が直接手を下した実働車両ともなれば、今回の落札額も決して過大評価ではなく、むしろ妥当なアート投資と言えるだろう。専門家のキュレーターですら計り知れない価値が突如として見出される。これだからこそ、オークションの世界は奥深く、そして面白いのである。

※為替レートは1ドル=約162円(2026年7月14日時点)で換算

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  • 武田公実(TAKEDA Hiromi)
  • 武田公実(TAKEDA Hiromi)
  • 1967年生まれ。かつてロールス・ロイス/ベントレー、フェラーリの日本総代理店だったコーンズ&カンパニー・リミテッド(現コーンズ・モーターズ)で営業・広報を務めたのちイタリアに渡る。帰国後は旧ブガッティ社日本事務所、都内のクラシックカー専門店などでの勤務を経て、2001年以降は自動車ライターおよび翻訳者として活動中。また「東京コンクール・デレガンス」「浅間ヒルクライム」などの自動車イベントでも立ち上げの段階から関与したほか、自動車博物館「ワクイミュージアム(埼玉県加須市)」では2008年の開館からキュレーションを担当している。
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  • 山本 亨(YAMAMOTO Tohru)
  • 山本 亨(YAMAMOTO Tohru)
  • 1960 年生まれ 大学卒業後ベストカーガイド編集部勤務。1990年オートスポーツ誌に転職、1992年F1速報誌(アズエフ)編集長。1995年月刊ビデオマガジン編集部に転職、1996年ベストモータリング編集長(のち局長兼務)。2005年ネコパブリッシング・イベント本部長/4輪編集局長兼務。2015年交通タイムス社に転籍、2020年より現職(総編集局長)自動車の分野に問わずオールマイティだが、特に旧いモータースポーツとクラシックカーに造詣が深い。愛車は1969年DATSUN Fairlady SRL311/YAMAHA RD250ほか

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