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ダイハツ「コペンGRスポーツ」があればスーパーカーはいらない!? 分別ある「大人のおもちゃ」でした【AMWリレーインプレ】

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TEXT: AMW 西山嘉彦(NISHIYAMA Yoshihiko)  PHOTO: AMW 西山嘉彦

スピードは自分の存在を確認するもの

 さて、コペンGRスポーツは流れに乗るどころか、流れを縫うようにして首都高速を軽快に走る。ロードスターで恐る恐る走った時とは違い、数えきれないほど走り込んだ首都高であるから、というのが直接の理由だとしても、また、ドラレコの普及で法規を守る健全なドライバーが増えたおかげで相対的に速度が遅くなったのが理由だとしても、とにかくコペンGRスポーツは自在に操っている感にあふれている。

 左のパドルを2回引いてシフトダウン、谷町ジャンクションの左コーナーをクリアするときなど、運転している実感がヒシヒシとステアリングやシートから伝わってくる。

 首都高速の路面をタイヤから感じ取り、おいしいパワーバンドをキープしつつ走らせると、軽自動車であることなどまったく関係ないことがわかる。

 スピードに対する価値の捉え方は人それぞれだ。例えば、スピードは生きている実感を確認するものという捉える方もあるだろう。それも、ヒリヒリするような生死の境目で得られる「いま、ここに、生きている」という感覚だ。スピードは自分の現実的存在を確認してくれるひとつの手段でもある。

 戦前のミッレミリアなどのレースはもちろんのこと、1970年代にF1で活躍したドライバーなど、まさにこの部類に当てはまる人たちだと思う。戦場カメラマンが名をなした後も、平和な暮らしを捨てて再び戦場を目指すのと構造としては似ている。たとえばロバート・キャパのように。

 こうしたスピードで己の実存を確認する行為は、危険領域を超えるか超えないかという、単純な構図によって成り立っている。危険領域を超えれば、即ち事故、最悪の場合は死をも意味する。サーキット走行に当てはめると、タイヤをはじめとするクルマの構成部品の限界ギリギリの性能を出し切ってコーナーを抜けることが、最速を意味する。もし何かひとつでも限界を超えた時、レコードラインから外れてクラッシュするか、クルマが壊れておしまいである。

 話は逸れてしまったが、簡単に言ってしまえば日本の道路事情において、限界が高いクルマはそれだけヒリヒリした感覚に「遠い」存在であるとも言える。

 そこで例えば、ランボルギーニ「ウラカン」ならば、迷わず4WDではなくRWDを選ぶということになるのだけれども、それでも限界が高いことには変わりがなく、一般道では法を犯さない限り、自己の生を確認するほどの領域には至らない。だから勢い、サーキットへクルマを持ち込むことになる。

 最初こそスーパーカーは運転しているという行為そのものに酔いしれることができるけれども、ランボルギーニやフェラーリでさえ運転する行為と公道を走ることに慣れてしまうと、サーキットで走らない限りヒリヒリした感覚を味わえないことは経験済みだ。

枯淡の境地に入れば「コペンGRスポーツ」を愛せる

 そろそろ、結論へと入ろう。

 久々に夜の首都高速を走って、ヒリヒリした感覚に酔いしれることができた。裏を返すと当然のことながら限界が低いということなのだけれども、コペンGRスポーツは免許取り立てで首都高速を走った時の新鮮な気分を思い出させてくれて、久しく忘れていたピュアなドライビングプレジャーを堪能させてくれて余りあるものであった。

 齢五十を過ぎると、自分史における黄金期をプレイバックしたくなるものだ。二十歳の頃にユーノス ロードスターをただ運転することが楽しくワクワクしていた時の記憶が鮮明に蘇ってきた。

 ひと通りハイパワーなスポーツセダンやスポーツカー、スーパーカーなどを経験してきた知人が、近頃になってオープン2シーターの軽自動車で楽しんでいる例をいくつか知っているが、なるほど確かにその気持ちがとてもよく理解できる。人はギラギラした衒示的欲求が抜けてしまうと、本質的なものにしか興味がなくなってしまう(ものだと考えている)。だからそうした人にとってはスーパーカーやスーパースポーツである必要は必ずしもなく、常識的な速度で十分に刺激的で、ヒリヒリした感覚を享受できるコペンGRスポーツは、格好の1台になりうる。

 なんと言っても速度違反をしなくても、安心して夜の首都高速でそれなりに頑張ってクルマを操っている感覚を味わえるのだ。さらにオープンにして走れば、より一層その感覚を味わうことができる。分別のある大人がたどり着くひとつの選択肢として、コペンGRスポーツは大いにありだ。

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  • AMW 西山嘉彦(NISHIYAMA Yoshihiko)
  • AMW 西山嘉彦(NISHIYAMA Yoshihiko)
  • AMW編集長。大学卒業後、ドキュメンタリー映像の助監督を経て出版業界へ。某建築雑誌の版元で編集技術をマスターし、クルマ系雑誌編集部のある版元へ移籍。その後、版元を渡り歩きながら興味の赴くままにカメラ雑誌、ガレージ雑誌、グラビア誌のほかにBMWやランボルギーニの専門誌などを立ち上げ、2017年までスーパーカー専門誌の編集長を務める。愛車はBMW E30 M3。日本旅行作家協会会員。兼高かおる賞実行委員。近況は、個人ブログ「ART LIFE mag.」にて。
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