驚きの1億1000万円オーバー!
今回の「ARIZONA 2024」オークションに出品された356Aアウトローは、T1時代の1957年に356Aのロイター社製クーペとしてツッフェンハウゼン工場から送り出された「シャシーナンバー101416」がベース車両。長い旅路の末、オレゴン州マクミンビルにあるエモリーの工場に運ばれ、「アウトロー化」のため高度なモディファイが施されている。
パワーユニットは、「エモリー・ロススポート(Emory-Rothsport)」で特別に設計された「Outlaw-4」。オリジナル356初期モデルの2倍以上におよぶ、2.6Lの排気量を与えられるとともに、電子制御燃料噴射や専用フィルター/オイルクーラーを備えた潤滑システム、カムセンサーつきMOTECツインイグニッション、「セブリング(Sebring)スタイル」の4-into-1エキゾースト、ヒーターボックスつきの専用ステンレスヘッダー、そして往年のポルシェ「レンシュポルト」を思わせる、アンバー色のFRP製エンジンシュラウドで武装している。
パワーはじつに260psを発生し、車両重量2000ポンド(約900kg)のアウトローに、640psのポルシェ「カイエン ターボGT」と同等のパワーウェイトレシオを与えたと報告されている。
半艶サテンブラック仕上げとなる16インチアロイホイールの奥には、ブラックのブレーキハブを備えた専用の4輪ディスクブレーキが潜んでいる。ステアリングはラック&ピニオン式で、アップグレードされたサスペンションには、901スタイルの独立式リアサスペンションに絞り込まれたトレーリングアーム、KONI調整式ショック、フロントとリアのスタビライザーが装備されている。
また、カスタムメタルワークを得意とするエモリー社のチームは、前後バンパーおよびフロントフードのハンドルを削除したのち、あの時代を反映したライトアイボリーでボディをペイント。ステンレスメッシュグリルつきエンジンリッド、GTスタイルミラー、レース用のフューエルフィラー、両フロントフェンダーにハンドペイントの「Mobil Oilペガサス」ロゴを追加した。
そしてキャビンには、スピードスタースタイルのシートにグリーンのレザーを張り、シートバックにはカーペットを貼りつけ。リアシートは潔く取り外した代わりに、レザーのラゲッジストラップを取りつけた。
さらにはライトグリーンのジャーマン・スクエアウィーブカーペット、ボルトインのロールケージ、3本スポークの「モト・リタ」社製ウッドステアリング、紋章にイーグルが刻印されたユニークな木製シフトノブなど、1950年代テイストのワイルドなアイテムを装備。そのかたわら、電動エアコンとステルスBluetoothモジュールも組み込まれ、現代人のドライバーの使用にも耐えうる快適性を備えている。
エモリー社のアウトロー・ポルシェのキャンセル待ちは、何年分も続いているとのこと。RMサザビーズ北米本社の公式オークションWEBカタログでは「時代を反映した存在感と現代的なパフォーマンスが融合した、このみごとな1台の順番待ちの列を飛び越え、現在のポルシェコミュニティでもっとも切望されているクルマのひとつをすぐに手に入れられるチャンス!」とうたいつつ、65万ドル~80万ドルのエスティメート(推定落札価格)を設定した。
ポルシェ界と「アウトロー」には縁遠い筆者などは、キャッチコピーもエスティメートもちょっと大げさでは……? と疑問視していたのだが、いざ1月25日の競売が始まると順調にビッド(入札)が進み、終わってみれば74万7500ドル。現在のレートで日本円に換算すると約1億1060万円という、筆者ごときの浅薄な予測を大幅に覆す高価格で落札されることになったのだ。
それでも、話題の「シンガー・ポルシェ」の356版に相当すると思えば、このハンマープライスも驚くには値しないのかもしれない。