ヌォーヴァ パンテーラは、じつはクラシック・パンテーラよりも高価格?
ネーミングが示唆するとおり、1990年代を見越して開発。1990年4月のトリノショーで発表されたパンテーラ90Siは、年間75台の生産が期待されていた。ところが世界的好景気のあと、1990年代初頭の市場低迷に抗えなかったことから、実際に製作されたのはわずか41台のみ。うち2台は衝突実験用に使われ、1台はデ・トマソ社のミュージアム用に確保された。
結果として、一般ユーザーにデリバリーされたのはわずか38台で、そのうち4台はミラノのカロッツェリア「パヴェージ(Pavesi)」によって、以前のパンテーラには設定されていなかったデタッチャブル(脱着式)トップに改造された。そのかたわら、最有力なマーケットになるはずだった北米市場への正規導入は、果たされないまま終わってしまう。
それゆえ、このほどRMサザビーズ「MIAMI 2025」オークションに出品されたパンテーラ90Siもまた、ヨーロッパ仕様の1台だった。シャシーNo.は#9617で、現在と同じ「ジャッロ(Giallo:黄色)」に「ネロ(黒)」のレザーインテリアで仕上げられ、ドイツに新車として納車された。そののち、2020年にベルギーから今回のオークション出品者でもある現オーナーのためアメリカに上陸するまで、ヨーロッパに留まっていたとされる。
現時点においても走行距離は限られており、公式オークションカタログ作成時にオドメーターが示していたマイレージは、わずか1万8763km。それを裏づけるように、内外装のコンディションは極めて優れ、基本新車時のオリジナルが保たれている。
ところがエンジンについては、いつの時点でのことかは不明ながら、かつてのパンテーラに搭載されていたのと同じ、キャブレターつきのフォード351「クリーヴランド」5.8L V型8気筒に換装されていた。
さらに米国に到着したのちには、「ホーリー」社製4バレルキャブレターやディストリビューターを新品に交換したほか、点火系のコンポーネンツもリニューアル。信頼できる性能を確保しているとのことである。
コンクールデレガンスやカーショーにうってつけの1台
現在でも内外装ともに使用感はほとんどなく、今後このモデルにも参加が許されるであろう、コンクール・デレガンスやカーショーにもうってつけの1台。加えて、デ・トマソ社の注文書や製造情報、保証書、請求書のコピーを含む膨大な資料も添付されているとのことである。
RMサザビーズ北米本社は、公式カタログにおいて
「パンテーラ90 Siは、1990年代におけるもっとも希少な高性能自動車のひとつであり、イタリア車のエンジニアリングとデザインの顕著な例である」
とアピールしつつ、現オーナーと協議のうえ15万ドル~20万ドル(邦貨換算約2250万円〜約3000万円)といささか控えめにも映るエスティメート(推定落札価格)を設定することになった。
ところがふたを開けてみれば、競売ではみるみるビッド(入札)が集まり、最終的にはエスティメート上限の1.5倍を超える31万3000ドル。つまり現在の為替レートで日本円に換算すれば、約4470万円というけっこうな高価格で競売人のハンマーが鳴らされることになったのである。
ただしこの落札価格は、ここ数年におけるパンテーラ90Siのセールス事例にほぼ準拠したものともいえる。希少性が大きな理由となっているのだろうが、90Siは1970-80年代のパンテーラよりも高めのマーケット価格が定着しているようなのだ。
ほぼ同時期に生産されたランボルギーニ カウンタックでは、オリジンである「LP400ペリスコピオ」が現代のマーケットではもっとも高く評価される。一方で最終モデルである「ユビリオ(アニヴァーサリー)」が比較的低めの相場価格で推移しているのに対して、パンテーラではともすれば「魔改造」ともいわれそうな「ヌォーヴァ」が高く評価されるというのも、じつに興味深いことといえるだろう。






































































