ロータス愛好家とスペシャリストが走行可能な状態に仕立てられた
長らくロータス ヘセル本社工場内にて休眠状態となっていた「エトナ コンセプト」。1998年には公開オークションに出品されたのち、2004年にコーリン・チャップマンの長年の弟子であるオラフ・グラシウス氏が所有する、貴重なロータス・コレクションに加わることになった。
ロータス本社からサルベージされた当時、このコンセプトカーは走行のためのメカニカルコンポーネンツを組み込まれていない、ただ手押しで移動が可能な程度のモックアップシェルに違いない……、と誰もが考えていたようだ。そこで新たなオーナーとなったグラシウス氏は、ロータスの元エンジニアであり、現在はロータスの修復の専門家として名声を得ているケン・マイヤーズ氏を起用。20年以上にわたり眠っていたエトナを、走行可能な状態に修復しようと決意する。
マイヤーズはレストアを前にエトナの車体を精査してみた結果、木(コンセプトカー制作では常套のエポウッド)とグラスファイバーで成形されたボディの下に、トランスミッションが隠されていることを発見する。さらに重要なことには、当時2基しか製造されておらず、もう1基はロータス本社に展示用として残されていた総アルミニウム合金製の「タイプ909」V8・DOHC 32バルブエンジンまでもが、ショーカーとしての体裁を整えるために搭載されていたのだ。
エトナを走行可能な状態に修復するという重大な任務を負ったマイヤーズは、車両のそのほかのメカニカルコンポーネンツにも手を加えた。かつてイタルデザイン社のエンジニアリング部門が行ったのと同様に、新規に製作したパースペックス製のキャノピーと、エスプリ用の新品サスペンションシステムをエトナに取りつけた。
こうしてエトナは約1年をかけて再生され、走行可能なコンディションを初めて獲得。そして、2006年にドニントンパーク・サーキットで開催された「ロータス・フェスティバル」にて、自走する姿を初めてお披露目する機会を得た。
またグラシウス氏は、2008年の「グッドウッド・フェスティバル・オブ・スピード」でもエトナを展示したのだが、そのあとは自身の役割が終わったと考えたかのように、2012年にグッドウッドで行われたオークションにて、自身が長年蒐集してきたロータス・コレクションとともに手放すこととなる。
その後のエトナは紆余曲折を経て、約10年ののちに今回のオークション出品者でもある現オーナーが入手したことにより、大西洋を渡って渡米。ロータスの革新に満ちた歴史の重要な一部が保存され続けている、南カリフォルニアの素晴らしいコレクションにくわえられるに至った。
やや控えめな推定落札価格を設定するも…
今回出品された、超レアなイタルデザイン×ロータスの歴史的逸品について、ブロードアロー・オークション社では
「鬼才コーリン・チャップマンと彼のビジョンを継承したエンジニアチームによって慎重にキュレーションされた、このブランドのもっとも先進的なアイデアのショーケースであり続けています」
と歴史的価値を力説するいっぽうで、25万ドル~40万ドル(邦貨換算約3700万円〜5910万円)と、このクルマのサルベージから修復に費やしたであろう費用と労力を思えば、いささか控えめにも思われるエスティメート(推定落札価格)を設定した。
ところが、8月13日に行われた競売では予測していたほどにビッド(入札)が伸びなかったようで、リザーヴ(最低落札価格)には届くことなく流札。日本時間の8月15日朝の時点では、公式オークションカタログに「Inquire For Price(価格応談)」と記されていた。
これからロータス愛好家のミーティングはもちろん、英国の「コンクール・オブ・エレガンス」やイタリアの「コンコルソ・デレガンツァ・ヴィラ・デステ」、さらには北米「ペブルビーチ・コンクール・デレガンス」などにも招待される可能性を秘めている、世界的に有名な元コンセプトカー。さらには、昨今日本でも急速に人気を高めているイタルデザイン-ジウジアーロ最盛期のデザイン習作であることを思えば、かなりリーズナブルな価格設定だったとも思われる。
それでも、現時点での国際マーケットはもっと厳しい判定を下した……、ということなのであろう。


































































































