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デ・トマソ工場からの帰路で体験した衝撃事実!初観のクルマを元F1ドライバーがドライブ

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TEXT: 中村孝仁(NAKAMURA Takahito)  PHOTO: 中村孝仁(NAKAMURA Takahito)

ベルトッキの運転で味わったスリリングな走りは忘れられない

そんなデ・トマソを訪問したのは1980年前後のこと。正確な年は覚えていないが、まだパンテーラなどが中心に生産されていた時代だ。所在地がイタリアのモデナだとはいえ、市内からは相当に離れていて、タクシーで30分ほどかけて本社に行った。この時の目的がなんであったかは正直言うと覚えていない。おそらくインタビューでもしに行ったのだと思うが、肝心のデ・トマソ本人は不在だったため、工場内を少し見学させてもらって引き返し、その足でマセラティに行った記憶がある。

問題は帰りの足だ。とにかくタクシーはその場でお引き取り願ったため、途方に暮れていると、ご親切にもモデナ市内まで送ってくれるとのこと。しかもそのクルマはデ・トマソ ロンシャンだったから、私としては初めて乗るクルマだけに少し舞い上がった。待つこと数分、ほどなく御歳80歳ぐらい(実際には当時70歳ぐらい)ではないかという老紳士が「クルマに乗れ」と。

それなりに矍鑠(かくしゃく)とはしているものの、その風貌はどう見ても単なる老紳士であった。ところが、その老紳士、走り出した瞬間から猛然と飛ばす。それも尋常な飛ばし方ではない。ちょっとしたバンプでは4輪が浮いているのではないかと思うほどのスピードだ。同行したイタリア語の堪能な御仁に

「あなたは一体誰ですか?」

と聞いてくれと頼むと、彼からは一言

「Bertocchi…Guerino Bertocchi(グェリーノ・ベルトッキ)」

という答えが返ってきた。

そのとてつもなくぶっ飛ばすグェリーノ・ベルトッキが、F1にまで上り詰めた(実際にはエントリーしただけでドライブはしていない)レーシングドライバーであり、同時にマセラティの伝説的なテストドライバーであることを知ったのは、だいぶ経ってからのことだ。

もちろん、もしもその時点でわかっていたなら、サインをもらって2ショット写真を撮っていたであろうことは言うまでもない。というわけで、ベルトッキの写真はない。彼は1981年に死去するのだが、顧客のクルマをテスト中にトラックと衝突して帰らぬ人となったというから、例によって異常なスピードで飛ばしていたのだろうと安易に想像できる。いずれにせよ貴重な体験で、もしかすると彼と共に死んでいてもおかしくないと思ったものだ。

デ・トマソの工場敷地内には、往年のレーシングカーやプロトタイプなどが埃を被った状態で置かれていた。

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  • 中村孝仁(NAKAMURA Takahito)
  • 中村孝仁(NAKAMURA Takahito)
  • 幼いころからクルマに興味を持ち、4歳にしてモーターマガジンの誌面を飾る。 大学在学中からレースに携わり、ノバエンジニアリングの見習いメカニックとして働き、現在はレジェンドドライバーとなった桑島正美選手を担当。同時にスーパーカーブーム前夜の並行輸入業者でフェラーリ、ランボルギーニなどのスーパーカーに触れる。新車のディーノ246GTやフェラーリ365GTC4、あるいはマセラティ・ギブリなどの試乗体験は大きな財産。その後渡独。ジャーナリスト活動はドイツ在留時代の1977年に、フランクフルトモーターショーの取材をしたのが始まり。1978年帰国。当初よりフリーランスのモータージャーナリストとして活動し、すでに45年の活動歴を持つ。著書に三栄書房、カースタイリング編集室刊「世界の自動車博物館」シリーズがある。 現在AJAJ(日本自動車ジャーナリスト協会)及び自動車技術会のメンバーとして、雑誌、ネットメディアなどで執筆する傍ら、東京モーターショーガイドツアーなどで、一般向けの講習活動に従事する。このほか、テレビ東京の番組「開運なんでも鑑定団」で自動車関連出品の鑑定士としても活躍中である。また、ジャーナリスト活動の経験を活かし、安全運転マナーの向上を促進するため、株式会社ショーファーデプトを設立。主として事業者や特にマナーを重視する運転者に対する講習も行っている。
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