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新型アウディ「Q3」のコラムシフトに歓喜! タッチパネル全盛時代に物理スイッチがもつ安全性【Key’s note】

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TEXT: 木下隆之(KINOSHITA Takayuki)  PHOTO: 木下隆之(KINOSHITA Takayuki)  FACT CHECK: 山本 亨(YAMAMOTO Tohru)

コラムシフトから考える物理スイッチの重要性

レーシングドライバーであり自動車評論家でもある木下 隆之が毎週発信しているのが、人気連載コラムの「Key’s note」だ。今回のテーマは、アウディ新型「Q3」に採用されたコラムシフトをフックに考える、現代の自動車におけるインターフェースのあり方である。デジタル化が進むコクピットの中で、あえてブラインド操作が可能な機構を取り入れた理由と、物理スイッチがもつ絶対的な安全性の価値について深く考察する。

センターコンソールの余白よりもブラインド操作できるコラムシフトを歓迎する

アウディ新型「Q3」に乗り込んで、僕は少しばかり嬉しくなった。シフトスイッチが消え、それがステアリングコラム(ステアリングを支える筒状の部品)に移植されていたからである。

これまでメルセデス・ベンツは、このコラム型セレクターを積極的に採用してきた。アウディにとっては初めての試みであり、おそらく今後はこのシステムに移行していくのだろうと想像する。

この機構はとても使いやすい。小さなボタンのようでもありスイッチでもあるそれを、指先でそっと倒す。たったそれだけの動作で、車は静かに動き出す。なるほど悪くない。センターコンソールには大きな余白が生まれ、室内はずいぶんと風通しがよくなった。近頃のクルマはやたらと収納スペースを欲しがるし、スマートフォンの非接触充電器も必要になったからなおさらだ。その意味でも非常に理にかなっている。

だが、僕がこの変化を歓迎したのは、単に収納が増えたからではない。人間の指先を、もう1度信用しようという設計思想の気配が感じられたからだ。

タッチパネル全盛の現代において視線移動がもたらす運転中の危険性を危惧する

ここ10年ほど、自動車業界はタッチパネルという魔法の鏡に夢中だった。エアコンの温度調整もタッチ、オーディオのボリュームもタッチ、シートヒーターの切り替えもタッチ。ついにはワイパーやライトの操作まで液晶画面の奥へと追いやられた。それこそが先進性であると、メーカー側が声高に叫んでいるような気配すらあった。

確かに未来的といえば未来的である。ショールームの白い照明の下では、それは美しく輝いていた。磨き上げられた黒いガラスの面は高級オーディオや高級家電のようでもあり、指紋ひとつ付いていない展示車両は、まるで未来都市の模型のように見えたものだ。

だが、実際の道路はショールームではない。

たとえば冬の夜、高速道路を走っていてフロントガラスが曇ったとする。ほんの少しエアコンの温度を上げたいだけなのに、運転手は液晶画面の中に視線を落とさざるを得ない。温度調整の画面はどこだったか、この絵柄だったかと探す。いや違う、これはシートヒーターの項目だと迷う。そうこうしているうちに、車は何十メートルも前方に進んでいるのだ。

100km/hの速度であれば、車は1秒間に約28m進む。もし3秒迷えば、それだけで84mもの距離を盲目的に突き進むことになる。その間に野生の動物が飛び出すかもしれないし、予期せぬ落下物が転がっているかもしれない。人生というものは、案外そういう3秒の隙間から音もなく入り込んでくるものだ。

ドライブセレクターは走行中に頻繁に操作するものではない。それでも、視線を移動させずに操作できるブラインド操作の価値が見直されたような気がして、僕は大歓迎なのだ。

コンマ1秒を争うレーシングカーが証明する物理スイッチの絶対的な優位性

先日、ルノー「クリオ」(日本名ルーテシア)をドライブして驚かされた。ステアリングコラムから、まるで千手観音のようにたくさんのレバーが生えており、あらゆる操作系がそこに集約されていたからだ。

そのため、走行中にタッチパネルへ視線を向かわせる必要はほとんどなかった。最初は操作に戸惑ったものの、慣れてしまえばこれほど快適なものはない。なによりも安全である。

このような物理スイッチの優位性は、レーシングカーのコクピットが明確に証明している。レーシングカーは最先端技術の塊でありながら、そこには不思議なほど古風な世界が残されている。燃料ポンプの作動、無線、ヘッドライト、ピットリミッター、トラクションコントロールの調整など、重要な操作はすべて独立した物理スイッチだ。

レーシンググローブをはめた手であっても、目を閉じていても、人間の指先がその場所を正確に覚えている。コンマ1秒の世界で確実な操作が要求されるモータースポーツの現場がそうであることこそが、物理スイッチの信頼性を物語る何よりの証拠だ。

新しい技術と古い知恵を融合させた人に優しい未来のクルマづくりを信じる

もちろん、僕は自動車のデジタル化をすべて否定するつもりはない。ナビゲーションシステムの進化も、高度な運転支援システムも、電動化技術も、最新のテクノロジーは確かに私たちのドライブを豊かにしてくれた。

だが、進歩というものは、古いものを機械的に捨てることではない。本当に大切なものをしっかりと連れて、次の時代へと向かうことなのだと思う。

アウディ Q3のコラムシフトを指先で軽く弾きながら、僕はそんなことを考えていた。未来とは、新しいものだけで作られるわけではない。古い知恵を忘れなかった未来だけが、最終的に人に優しい製品となり得るのだ。

そのうち、自動車メーカーが胸を張って「物理スイッチを復活させました」と発表する日が来るかもしれない。いや、すでにこのアウディ Q3の小さなシフトスイッチが、無言でそう語りかけているのかもしれない。

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  • 木下隆之(KINOSHITA Takayuki)
  • 木下隆之(KINOSHITA Takayuki)
  • 1960年5月5日生まれ。明治学院大学経済学部卒業。体育会自動車部主将。日本学生チャンピオン。出版社編集部勤務後にレーシングドライバー、シャーナリストに転身。日産、トヨタ、三菱のメーカー契約。全日本、欧州のレースでシリーズチャンピオンを獲得。スーパー耐久史上最多勝利数記録を更新中。伝統的なニュルブルクリンク24時間レースには日本人最多出場、最速タイム、最高位を保持。2018年はブランパンGTアジアシリーズに参戦。シリーズチャンピオン獲得。レクサスブランドアドバイザー。現在はトーヨータイヤのアンバサダーに就任。レース活動と並行して、積極的にマスコミへの出演、執筆活動をこなす。テレビ出演の他、自動車雑誌および一般男性誌に多数執筆。数誌に連載レギュラーページを持つ。日本カーオブザイヤー選考委員。日本モータージャーナリスト協会所属。日本ボートオブザイヤー選考委員。
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  • 山本 亨(YAMAMOTO Tohru)
  • 山本 亨(YAMAMOTO Tohru)
  • 1960 年生まれ 大学卒業後ベストカーガイド編集部勤務。1990年オートスポーツ誌に転職、1992年F1速報誌(アズエフ)編集長。1995年月刊ビデオマガジン編集部に転職、1996年ベストモータリング編集長(のち局長兼務)。2005年ネコパブリッシング・イベント本部長/4輪編集局長兼務。2015年交通タイムス社に転籍、2020年より現職(総編集局長)自動車の分野に問わずオールマイティだが、特に旧いモータースポーツとクラシックカーに造詣が深い。愛車は1969年DATSUN Fairlady SRL311/YAMAHA RD250ほか

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