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世界に1台だけのフェラーリ! ドイツのミハラクデザイン製「簡潔な」コンセプトカーは引き算から生まれた

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TEXT: 武田公実(TAKEDA Hiromi)  PHOTO: RM Sotheby's  FACT CHECK: 山本 亨(YAMAMOTO Tohru)

フェラーリ「328 GTS」をベースにした世界に1台のコンセプトカー

国際コレクターズカー市場においては、高額売買をしてきた上顧客のみを対象とする「シールド(封かん競売)」と呼ばれるオークション価格の指値を誰にも知らせずに取り引きするイベント開催が増加してきている。2026年6月24日から26日にかけても、オンライン形式で開催されたRMサザビーズの「Sealed June」にはにはため息がでるような25台がシールドオークションに出品された。そのなかでも、ドイツのチューナーが手掛けたワンオフのコンセプトカー、フェラーリ「コンチーゾ」はひときわ異彩を放っている。

自動車外装パーツの専門会社が手掛けた完全特注のアルミボディ

ミハラク・デザイン社はドイツ人のベルント・ミハラクとその妻ユッタによって、ドイツのヴィーズバーデンという1979年に設立された。同社はユニークなカーデザインスタジオで知られており、さまざまなブランド向けのアクセサリー開発における先駆者のひとつとみなされている。フェラーリ「550バルケッタ」やダッジ「バイパー」用のソフトトップ開発などで知られているほか、少量生産のコーチビルダー(車体製造業者)でもある。

そんな同社にとってもっとも有名な自動車デザインといえば、今回のオークションに出品された1993年製ワンオフモデルのコンチーゾ(Conciso)コンセプトにほかならない。1989年のフランクフルト・モーターショーにて発表された試作車「チリンドロ」を経て、1993年のフランクフルト、1994年のジュネーヴの両モーターショーで展示された。

この個体は、フェラーリ「328 GTS」をベースとして製作されたもので、マラネッロ製のメカニカルコンポーネンツを流用しつつ、完全特注のアルミニウム製ボディカウルで覆われている。1950年代のフェラーリ製バルケッタのようなスポーツマシンへの憧憬から、イタリア語やスペイン語で「簡潔な」などを意味する言葉で、ラテン語の語源からすると「切り詰める」「短くする」という言葉に由来しているネーミングが与えられた。その車名に相応しく、ローカットのウィンドスクリーン、左右ドアの排除、そしてミニマリスト的なインテリアにより、オリジナルの328 GTSに比べて約30%(約800ポンド)の軽量化が実現されている。総重量はわずか1960ポンド(約890kg)であり、0-100km/h加速は5秒、最高速度は278km/hと公称された。

著名コレクターの手を渡り歩きジェイ・レノの番組にも登場する

ミハラクは、現在ではクラシック・フェラーリのレストア工房として有名になったイタリアの「バッケリ&ヴィッラ」社にアルミニウム製のボディパネルを製作させた。ドアシルをまたいでコックピットに滑り込むと、シート横に収納されたレーシングヘルメットが目に入る。このデザインはランチア「ストラトス HF」を彷彿とさせるものとなっている。

コンチーゾ・コンセプトは国際的な注目を集め、1994年の「ユーロサイン・デザインアワード」では2位を受賞したものの、けっきょく製作されたのは1台のみに終わった。その後、北米のコレクターやベルギーの有名なコレクターのもとを渡り歩く。二代目オーナーのもとではリビングルームに展示されるほど大切に扱われたこともあって、非常に良好な状態で保存されていた。

2014年にベルギーで公道走行登録されたのち、2018年には米国へ輸出された。米国到着後には機械的なメンテナンスが施され、再び公道走行が可能なコンディションを得ている。米国輸入直後には、世界的なエンスージアストとして知られるジェイ・レノが司会を務めるテレビ番組「Jay Leno’s Garage」にてドライブを楽しむシーンが放映された。ごく最近までカリフォルニア州の「ピーターセン自動車博物館」に展示されており、公式カタログ作成時点における走行距離はわずか1万1408kmであった。

過去の落札額から現在の市場価値は3000万円超えとも噂される

オークションは入札者が相互に提示価格を知ることができないシールド・ビッド(封かん競売)の形式をとり、推定落札価格も非公表とされていた。オークション終了後も公式WEBページでは落札に至ったか否かも公表されていない。

ちなみに、この個体が最後にマーケットに登場したのは2018年のRMサザビーズ主催のモナコ・オークションで、当時は10万9250ユーロで落札されていた。現在の為替レート(1ユーロ=約175円)で換算すると約1900万円に相当する金額だ。現在の自動車メディアでは「15万ユーロから20万ユーロ(約2600万円〜3500万円)くらい」という評価も見られる。

ベースとなった328 GTSの現在の市場相場が約12万ドル〜18万ドル(約1940万円〜2920万円)前後であることを考慮すると、ワンオフのコンセプトカーでありながら、量産モデルの極上車と同等かそれを上回るほどの相場で推移している点は、ミハラクのデザインに対する歴史的評価の表れといえるのかもしれない。とはいえ、世界にたった1台のワンオフのコンセプトモデルが、量産車のフェラーリ328GTSと比肩するほどの評価というのは、どうにもデザインだけでなく評価にも「引き算」が過ぎるような気がしてならない。

※為替レートは1ドル=162円、1ユーロ=175円(2026年7月14日時点)で換算

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  • 武田公実(TAKEDA Hiromi)
  • 武田公実(TAKEDA Hiromi)
  • 1967年生まれ。かつてロールス・ロイス/ベントレー、フェラーリの日本総代理店だったコーンズ&カンパニー・リミテッド(現コーンズ・モーターズ)で営業・広報を務めたのちイタリアに渡る。帰国後は旧ブガッティ社日本事務所、都内のクラシックカー専門店などでの勤務を経て、2001年以降は自動車ライターおよび翻訳者として活動中。また「東京コンクール・デレガンス」「浅間ヒルクライム」などの自動車イベントでも立ち上げの段階から関与したほか、自動車博物館「ワクイミュージアム(埼玉県加須市)」では2008年の開館からキュレーションを担当している。
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  • 山本 亨(YAMAMOTO Tohru)
  • 山本 亨(YAMAMOTO Tohru)
  • 1960 年生まれ 大学卒業後ベストカーガイド編集部勤務。1990年オートスポーツ誌に転職、1992年F1速報誌(アズエフ)編集長。1995年月刊ビデオマガジン編集部に転職、1996年ベストモータリング編集長(のち局長兼務)。2005年ネコパブリッシング・イベント本部長/4輪編集局長兼務。2015年交通タイムス社に転籍、2020年より現職(総編集局長)自動車の分野に問わずオールマイティだが、特に旧いモータースポーツとクラシックカーに造詣が深い。愛車は1969年DATSUN Fairlady SRL311/YAMAHA RD250ほか

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