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「ノーマルこそ美しい」と信じた走りのプロが改心!? 夜な夜なジムニーのパーツを探す「沼」に墜ちた物語

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TEXT: 木下隆之(KINOSHITA Takayuki)  PHOTO: 木下隆之、真壁敦史(サムネイル)

これは玄人の講座ではない カスタム素人の漂流日誌である

クルマ好きは、完成された姿を愛でる者と、自分好みにイジらずにいられない者に大別できる。本連載の筆者であるレーシングドライバーであり自動車ジャーナリストの木下隆之は、長く前者を自認してきた。

しかし愛車のスズキ・ジムニーシエラをきっかけに、深く広大なカスタムの世界へと足を踏み入れていく。玄人による解説ではなく、迷い悩み散財しながらもカスタムを楽しむ“素人”の記録として、その漂流の日々を綴る連載が、ここに始まる。

クルマ好きには二種類いるらしい

世の中のクルマ好きという人種は、おおまかに分ければ、たぶん二種類しかおらぬのだと思う。

ひとつは、メーカーが丹精込めて仕立て上げた完成形を、そのまま慈しむ人たちである。休日になれば静かに洗車をし、柔らかな布でボディを撫で、小さな飛び石傷にさえ眉を曇らせる。

「ノーマルこそ美しい」

そう微笑む姿には、どこか床の間の日本刀を愛でるような、凛とした趣味人の匂いがある。

そしてもうひとつは、オリジナルのままではどうにも落ち着かぬ人たちである。

工具箱の蓋を開けた瞬間、急に目の色が変わる。タイヤを替え、ホイールを替え、車高を上げたり下げたりしながら、「自分だけの一台」を作り上げずにはおれぬ人々である。

どうやら私は、後者だったらしい。

いや、正確には違う。

長いあいだ、自分は前者だと思い込んでいた。手先は不器用だし、性分はせっかちである。だから、黙々と何かを作り込むような趣味には向いておらぬ、と勝手に決め込んでいた。けれど、クルマだけは困ったほど好きだった。

好き、などという生易しいものではない。道を走る音に耳を澄まし、駐車場に停まる後ろ姿に見惚れ、夜更けに自動車雑誌を眺めては、ため息をつく。挙げ句の果てに、大学では自動車部に籍を置き、新卒で自動車専門誌ル・ボラン編集部に潜り込んだのだが、公私ともどもクルマ好き人生を歩んできたのである。

そういう、少々“たち”の悪い好き方である。だからカスタムカーを見るたびに、「いいなあ」と思っていた。

自分では到底できそうもない。だがその世界は、少年の頃に夢見た秘密基地のように、どこか眩しく輝いて見えたのである。

もっとも、その世界が恐ろしく深いことも知っていた。まるで銀河宇宙のようである。果てがなく、近づけば近づくほど、さらに遠くが見えてしまう。だから僕は、少し高い堤防の上から、遠い祭り囃子でも聞くような顔でその世界を眺めておった。

少し不便で少し不器用なシエラに惹かれて

ところが人生というものは妙なもので、油断している人間から順番に坂道で足を滑らせる。しかも当人は、転げ落ちながら笑っているのだから始末が悪い。その坂道の入口に停まっていたのが私の愛車、スズキ・ ジムニーシエラであった。

の納車まもない木下シエラのフロントビュー。最新仕様は前後バンパーやタイヤ&ホイールが社外品に変更されている

ご承知の通り、このクルマはなかなか不思議な乗り物である。高速道路では風に煽られる。静粛性などという言葉を持ち出すのは、少々野暮であろう。車内には常に「ゴウウゥゥ……」という風の音が満ちている。まるで古びた漁船で、冬の東京湾を渡っているような騒々しさである。

だが、それが妙にいい。少し不便で、少し不器用。

それも道理で、本来このクルマは泥や岩場を走るために生まれてきた。それを僕のような軟弱なクルマ好きが舗装路ばかり走らせて喜んでいるのだから、シエラから見れば「使い方が違うではないか」と苦笑しておるかもしれぬ。

だからこそ思うのである。これは少し自分色に染めてみたくなるな、と。

カスタムという名の“銀河”へ漕ぎ出す

気づけば僕は、夜な夜なスマホ片手に、ジムニー用パーツを検索するようになっていた。

しかも困ったことに、『ジムニースタイル』なる専門誌(編集部注:AMWを運営する交通タイムス社が発行する現行モデルのジムニーカスタムMOOK)が存在する。これはもう、僕にとって悪魔の書である。

ページを開けば全国の猛者たちが作り上げた、実に見事なシエラが並んでいる。タイヤを替え、車高を上げ、ランプを増やし、まるで砂漠へでも向かいそうな顔をしている。

そんなものを見せられて、平静でいられるほど人間は強くできておらぬ。気づけば私は、深夜まで雑誌をぺらぺらとめくりながら、銀河宇宙の果てを夢見るようになっていた。

の納車まもない木下シエラのリヤビュー。最新仕様は前後バンパーやタイヤ&ホイールが社外品に変更されている

このカスタムの世界は、本当に銀河のようだと思う。広大で、どこまで行っても底が見えぬ。ひとつ分かったと思えば、その先にまた新しい星雲が現れる。

そんなわけで始まった、この『シエラ銀河漂流記』。これはカスタム玄人による専門講座ではない。
むしろ逆である。迷い、悩み、散財し、ときどき後悔し、それでも懲りずに笑ってしまう——そんな“カスタム素人”の漂流日誌である。

どうぞ、のんびりお付き合いいただければ幸いである。

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  • 木下隆之(KINOSHITA Takayuki)
  • 木下隆之(KINOSHITA Takayuki)
  • 1960年5月5日生まれ。明治学院大学経済学部卒業。体育会自動車部主将。日本学生チャンピオン。出版社編集部勤務後にレーシングドライバー、シャーナリストに転身。日産、トヨタ、三菱のメーカー契約。全日本、欧州のレースでシリーズチャンピオンを獲得。スーパー耐久史上最多勝利数記録を更新中。伝統的なニュルブルクリンク24時間レースには日本人最多出場、最速タイム、最高位を保持。2018年はブランパンGTアジアシリーズに参戦。シリーズチャンピオン獲得。レクサスブランドアドバイザー。現在はトーヨータイヤのアンバサダーに就任。レース活動と並行して、積極的にマスコミへの出演、執筆活動をこなす。テレビ出演の他、自動車雑誌および一般男性誌に多数執筆。数誌に連載レギュラーページを持つ。日本カーオブザイヤー選考委員。日本モータージャーナリスト協会所属。日本ボートオブザイヤー選考委員。
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